仕事から家に戻ると、我が実母・シズコが少し興奮気味に
「アンタ、今日は皆既月食だよ!!」
と、のたまってきた。
普段天体観測なんぞ全っっっったく興味はないクセに、新聞の
「4000年以上振りの皆既月食&天王星食」
などというアオリ文句にまんまと感化されたらしい。
母親という種族はとにかく珍しいものが大好きで、しかもそれを家族と共有したがる習性があるのだ。
最初は
「うぜぇ・・・」
と反抗期の中学生の様にシカトこいていたのだが、老親が一人でハシャいでいるのをただ見ているのも忍びない。
まぁこれも親孝行か・・・と諦め付き合ってやることにする。
確かに、いかな珍しい天体ショーでも曇っていたら観られないので、そういう意味では今日のような快晴(?)の夜空で観測できるのは貴重ともいえよう。
通行人の胡乱げな眼差しを気にもせず、老親&アラフィフの女二人が玄関先で東の空をポカンと見上げていると。
確かにさっき見たときには満月だったお月様が、左下の方から欠けて来て気がする。
と言いたいところだが、なんせ観測しているのが老親&アラフィフなので老眼&乱視が激しく
「お月様が三重に見える」
「私も」
てな感じで月食なんだか三日月なんだかわかりゃしない
仕方が無い、いかにも「天体マニアです」てな感じで気が引けるが乗り掛かった舟だ、望遠レンズ装着のミラーレス一眼を投入するか。
おおっ!!これならよく分かる!!
確かに皆既月食じゃん!!!
時間が進むにつれてお月様は地球の影に隠れていき、やがては赤く染まってしまった。
1時間後。
再び空を見上げると、お月様の左下の方がうっすら明るくなっているような気がする。
なんせ二人とも乱視なので、何が起きているのかはっきり把握できないのだ。
それでも途中休憩を適宜挟みながら、皆既月食を最後まで見守った。
皆既月食はコレで良しとして、もう一つの珍事、月に天王星が隠れるという「天王星食」はどうなったのだ??
シズコの中途半端な情報では肉眼でも確認できるらしいのだが・・・なんせ満月すら三重に見えてしまう乱視親娘なので、二人ともどれが天王星なんだかサッパリ分からない
ニワカ天体マニアの薄っぺらい知識では、この辺りが限界である。
4000年振りの天体ショーっていっても皆既月食しか観れなかったんだから、結局普通の天体観測会となってしまったのである。
まぁ、母シズコが騒ぐといつもこんな感じなので、想定通りだけど。