シキとスズシは早速に着替えに行き、
乗馬の練習を始めると言う。
でもミヨウに東のはなれでひと心地つきたい
と言われ、キフネはシキの特訓はスズシと
イオエに任せミヨウを東へ送ることになった。
ミヨウは馬にゆられて疲れたと言う割に
元気そうにキフネに喋り続ける。
「シキ様も大変ね、あのお年から馬乗りを
習われるなんて。
学問ばかりで過ごされていたんでしょうに
若過ぎる夫を持ってお心も休まらないの
かしら」
「千壽家に来てからも変わらず
落ち着いた様子でいるよ。
あれほど活発な方とは知らなかったけど」
「少しでも歳若な夫に合わせようと懸命で
いらっしゃるのよ。
キフネ様もお年を考えて差し上げなくては」
「もっとずっと年のいった人でも
馬に乗る者はいっぱいいるじゃないか。
ミヨウこそせっかく馬を持ってたのに
なぜひとりで乗らない?」
「ひとりで馬を走らせるなんて
良家の娘のすることじゃありません。
スズシがおかしいのよ。
それはあの子のように気軽にキフネ様に
会いに来れればとは思うけど」
「スズシは僕に会いに来るわけじゃない
この家に来てもイオエやカノコや
他の子たちと過ごして
顔を合わせないこともある」
(カノコはキフネの3つ下の妹です)
「そうなの?他の子って
職舎の子たち?いやだわ、まだ
小さい頃みたいに一緒に遊んでるの?」
「みなそれぞれに仕事があるし
もう遊びころげる年でもない
会えば話でもしているんだろう
僕もそうだ」
東へ着き、エト家のお嬢様が来たと聞いて
スズシだと思ったカノコが
はしゃいで出迎えかけ、
馴染み深くはないミヨウに固まった。
逆に母ミアレは喜びいさんで
ミヨウを迎え入れた。
「まあよく来てくれました
兄は一緒でないの?
これ、キフネもこちらに」
「私は馬場へ行かねばなりません。
シキが慣れない馬乗りをなさるのです」
「ま 本当に馬に乗ろうというの
驚きますことね
そういうことをなさるお嬢様とは
思いませなんだわ」
「千壽家に閉じ籠るわけにはいきませんからね
牛の荷車で出掛けるよりはいいでしょう」
「千壽家でも牛車を設えたらいいのよ
センジュ様にお願いいたしましょう」
「牛車よりも…」
「なんです?キフネ」
「いえ、今度センジュ様と話します
では、私はこれで」
キフネが早々に離れを出て行って
しまおうとすると
ミアレと姪ミヨウ、そして
長くミアレのそば近くに仕えていて
気安くなっている年配の女中頭が
お茶とお菓子を揃えて
盛んに喋り出した。
「キフネ様、せっかくミヨウお嬢様が
おいでくださってるんですよ
シキ様はいつでもいらっしゃるじゃ
ないですか、
さあさあ こちらに掛けて」
「そうですよキフネ
お従姉妹なんですから照れる間柄じゃ
ないでしょう、今さら」
「照れてはおりません
シキが馬から落ちたりしないかと
心配なんです
ミヨウ、どうぞこちらでごゆっくり」
ミヨウは心なしか鋭き目線で黙ったまま
キフネを見送った。