勤務医に2024年度から適用される罰則付きの残業時間上限を、厚生労働省が
年960時間と示した案について、医師に聞いた民間企業「メンタルヘルステクノロ
ジーズ」の調査で、56%が賛成と答えた、ということです。一方で、「現場が回ら
なくなる」「現実的でない」など実効性を疑問視する意見が多かった、と報じられて
います。また、厚生労働省が、集中して技能向上のための診療が必要な研修医
などには年1900時間以上の水準を検討していることについて、若手の長時間
労働の常態化が懸念されています。休息など健康確保措置を手厚くするということ
ですが、その実効性も問われると思います。厚生労働省研究班の調査によると、
病院勤務医の約1割の残業が、年1900時間を超え、この半数超を20、30代が
占めています。医師に労働基準法を適用したら現場は回らなくなる、といわれて、
労働担当の解説委員として驚いた頃からすると、医師の働き方改革をしようという
ことは前進だと思います。しかし、人としてのあるべき労働時間と医療現場が成り
立つことの両立は、現状ではなかなか難しいのが現状です。政府は、医師の数
は足りている、としていますが、地方による偏在、診療科による偏在も問題のもと
にあるのだと思います。地域間の医師数の偏りを解消するために、厚生労働省は
医師数の必要度を測る新たな指標を使って、都道府県を3分類しました。これは、
人口10万人あたりの医師数に地域の人口構成と年代・性別ごとの人数と平均
労働時間などの影響を加味したものです。それによって、都道府県ごとに指標を
出すと、平均は238.3で、1位は東京の329.0、最下位は岩手の169.3
でした。上位3分の1を「医師多数」、中位の3分の1を「中程度」、下位3分の1を
「医師少数」としました。私が住んでいる長野県は、38番目で「医師少数」です。
厚生労働省は、偏在解消の目標とする2036年の次点でも、長野を含む12道県
で計5千人を超す医師が不足すると推計しています。その数も、医師の確保が
順調に進んだ場合です。確保が進まない場合は、34道府県でおよそ3万5千人が
不足する、ということです。医師の総数は32万人近くで、過去最多です。偏在が
進んだのは、2004年から始まった臨床研修制度がある、とされています。大学
医学部の医局が若手医師を地方に送りだしてきた仕組みが崩れ、都市部への
集中が進みました。是正策としては、2008年度から、医学部の「地方枠が導入
されました。都道府県が奨学金を貸与し、卒業後に一定期間を地元で働けば
返済を免除する、というものです。しかし、多くの大学で欠員が出ていて、その目的
は果たせていない、と報じられています。厚生労働省の調査では、地方で働く意思
がある20代の勤務医は6割に上る、ということで、それが生かされていないことに
なります。偏在やミスマッチを質して、入試で差別されていた女性医師でも人間
らしく働けるように、あらゆる知恵を出していくことが望まれます。先日、著名な
医師で名誉教授、病院の再建もされている方にお話を伺う機会がありました。
話されたのは、医師の数を減らしてはだめで、十分な人数がいて、職場環境がよく
なれば、赤字の病院が黒字になる、ということでした。いろいろ示唆に富むお話
で、医師の働き方改革に、いかせればと思いました。