鼠径ヘルニア | 富士の裾野で想うVet

富士の裾野で想うVet

地方獣医の徒然記

1年前から、鼠径ヘルニアになっている犬。

もうすぐ12歳になる。


極小さいヘルニア輪で、

脱出している物も脂肪だけとかなら、

そのまま様子を見るのも良い。


ただし、大きくなったヘルニア輪からは、

脂肪の他に腸や膀胱が出てしまう。


今回、飼主さんが限界みたいと来院した時には、

右側だけだったヘルニアが左にも出来ている。


前からあった右側も大きくなり、

脱出物も圧すれば戻るには戻るが、

直ぐに再脱出してしまう。


左は、圧しても戻りがない。

手術が必要だと告げる。

レントゲンでも、腸が脱出しているのが分かる。


飼主さんも、今回ばかりは様子見とは言わなかった。

前回、春のフィラリア検査時に手術を勧めたが、

高齢である事から手術を躊躇った。


半年経ったら、悪くなってしまって、

手術以外に方法がなくなってしまった。


高齢犬だから、点滴をして手術に臨む。

最初に、元々あった右側から切開。


ヘルニア嚢も薄く、腸の脱出が確認出来る。

大量に脱出している。


よく嵌頓(カントン)しなかったな。

していたら、緊急手術が必要。

命の危険もあったかもしれない。


ヘルニア輪は直径4cm。

これだけ開いていたら、腸も膀胱も脱出するな~と

還納してみたら、驚いた事が判明。


新たに出来たと思った左のヘルニアは、ヘルニア輪がない。

つまりは、ヘルニアは出来ていなかった。


腸が脱出したように見えたのは、

右側から脱出した腸が、ペニスを超えて、

反対側の鼠径部に達していたのだ。


大量に脱出した腸の陰影で、

その辺が分からなかった。


検査だけで全てが分かるとは限らない。

レントゲンにも限界はある。


それを補うのは、経験であり、

そこから、可能性のある状態を推定するチカラ。


今回は、考えが及ばなかったが、

脱出物が大きければ、ペニスを超えて、

反対側まで広がる事もあると知らされた。

まだまだ、だな。


脱出物が多かったが、

広範囲に脱出した為に

嵌頓(カントン)しなかったのかもしれない。


運が良かった。


手術しなければ治らない物は、手術しなければ。

飼主さんにはよく説明して、

納得してもらって、

早期治療をしなければ。


いつも運が味方するとは限らない。