そうなんだ。

もう、そんなに経つんだ。 

長いような、短いような。

でも、こんなふうに思えるようになるなんて、あの頃は想像しなかったな。


俺のことなんて、誰も覚えちゃいないって思うくらい。

当時の俺は、凹んでた。

もう、何もしたくなくて、やけっぱちで、人に当たり散らしてた。

周りもそんな俺を見て、手に負えないって離れてった。

そりゃ、そうだよな。

一緒にいても楽しくないし、むしろヒヤヒヤすることばかりで落ち着かないもんな。


俺。

なんでもないことに、いつもイライラしてた。

うまくいかないことがあると、すぐ周りに怒りぶつけて。

人のせいにばかりしてた。

自分はこんなに頑張ってるのに、なんでみんなはうまくやらないんだって、なじってばかり。

面白くない。

楽しくない。

もう、勝手なことばかり言ってた。


そんな俺だから、当然物事もうまく進まないわけで。

仕事は来ねぇし、人も寄ってこねぇ。

一人で飲んだくれて、道端に倒れ込んで、おまわりさんに声かけられてもベロベロ、なんてこともよくあったな。

なんだか、恥ずかしい思い出だけど。


俺。

本当、何もわかってなかったよ。

本当の愛ってやつをさ。

歌っていながら、なんにも分かっちゃいなかった。

探し求めて、あがき続けて、さもかっこよく歌って表現してるみたいだったけど、その実はなんにも分かっちゃいなかった。


本当の愛って、なんだろうな。

答えがすぐ出るものじゃないのかな。

遠くにあるのかな。

すぐ近くにあるのかな。

ねぇ。

君なら、教えてくれるのかい?


「·····ねぇってば!」


え?


「また、浸ってたでしょ。

人の話なんて、全然聞いてないんだから。」


あ?そうだっけ?


「さっきからずっと呼びかけてるのに、ずっと知らんぷりなんだもの。

また、過去に溺れてたんでしょ?」


あ、あぁ。

そうだな。

おまえには、隠しごとできないんだったな。


「···闇深いね。

いつまでたっても、その幻影、離れないんだ。」


····あぁ。

カッコ悪いだろ?

何もわかっちゃいない俺が、ずっとみんなの前で、堂々と愛を歌ってたなんてな。


「···そんなことないよ。

魂のないものに、人は惹かれないじゃん。

あなたの歌にはたしかに、愛があったよ。

みんなに伝えたいっていう、あなたの愛が。」


そう、なのかな。


「幸せって、人それぞれでしょ。

あなたの歌を聴くことが幸せっていうファンにとっては、あなたの存在そのものが、愛だったんだよ。

ただ、そこにいてくれるだけで。

愛、なの。」


そこにいるだけで···


「いてくれるだけでいいって、分かるかな。

今のあなたなら、分かると思うんだけど。」


···たしかに。

そうだな。

いるだけで満たされる思い。

いてくれてありがとうって、自然と湧き上がる思い。


分かるよ。


「じゃあさ、うじうじ思い悩んでないで、お店にお客さん引き寄せてくれます?

あなたのオーラ、半端ないんだから。

いつものところで歌ってるだけで、不思議とお客さん、こっちをガン見してお店に入ってくれるんですから🎵」


···そうなんだよな。

見えてるわけないのに。

感じるわけ、もないと思うんだけど。

なんでだろうな。


「人は、感じることができるんですよ。

あなたの、愛を。」


そうかぁ。

そうなんだな。

なんだか、嬉しいよ。

俺のこと、感じてくれるやつがいるんだってことだな。


「そうそう😊

じゃ、いつもの歌、よろしくです🎵」


あぁ。

分かった。


それじゃ·····


♪彷徨うばかりで

何も見えず

行き当たりばったりの人生に

俺は疲れ果てて

闇に落ちた

暫く動けなかった俺を

そっと抱き寄せてくれたのは

いつも傍で見守ってくれたおまえだった

安らぎと

穏やかな日差しのように

俺を包みこんでくれた

それを愛と言うなら

俺はいつまでも浸っていたい

そして

安らかなる愛を

俺からも伝えたい

この場にいるすべての人に

心からの愛を

本物の愛を♪