【映画】『ロストケア』 | ヅカんげき★Life

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実際の観劇から、テレビで見た作品まで幅広く、自由気ままに…。


2023年公開

【原作】葉真中 顕『ロスト・ケア』(光文社文庫刊)

【監督】前田 哲     【脚本】龍居 由佳里・前田 哲
【音楽】原 摩利彦   
【主題歌】森山 直太朗「さもありなん」(ユニバーサルミュージック)

【製作】鳥羽 乾二郎・太田 和宏・與田 尚志・池田 篤郎・武田 真士男
【エグゼクティブプロデューサー】福家 康孝・新井 勝晴
【プロデューサー】有重 陽一
【撮影】板倉 陽子    【編集】髙橋 幸一

【制作担当】村上 俊輔・松村 隆司

【配給】東京テアトル・日活
【制作プロダクション】日活・ドラゴンフライエンタテインメント    【製作幹事】日活・東京テアトル
【製作】「ロストケア」製作委員会(日活・東京テアトル・東映ビデオ・東宝芸能・光文社)

【出演】松山 ケンイチ・長澤 まさみ
        鈴鹿 央士・坂井 真紀・戸田 菜穂・峯村 リエ・

        加藤 菜津・やす(ずん)・岩谷 健司・井上 肇・

        綾戸 智恵・梶原 善・藤田 弓子・柄本 明     ほか


ある早朝、民家で老人と訪問介護センター所長(井上肇)の死体が発見された。死んだ所長が勤める介護センターの介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)が犯人として浮上するが、彼は介護家族からも慕われる心優しい青年だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が働く介護センターで老人の死亡率が異様に高いことを突き止める。取調室で斯波は多くの老人の命を奪ったことを認めるが、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」であると主張。大友は事件の真相に迫る中で、心を激しく揺さぶられる。


普段、見るジャンルの映画ではありませんが、WOWOWで放送されたのを見ました。

現代社会の闇というか、問題点というものを分かりやすく示した映画でした。

居宅介護支援事業所の職員を通して、訪問介護のサービスを利用しながらも在宅介護で高齢者を支える家族それぞれ苦悩や限界を観客に見せて、何故、この事件が起きてしまったのか、を介護とかまだ無縁の人たちに事件の背景を分からせる…という感じでしょうか。

松山ケンイチさん演じる斯波さんは本当に素晴らしい介護士さんなんです。介助にあたる方をよく見て、常に笑顔で、周りのご家族をも助けてるような人。自主的にそれぞれの利用者さんのケアノートを作ってたり、と介護士の理想。
峯村リエさん演じる、斯波さんの同僚の猪口さんが一般に本当に存在してそうな介護士さんかな…?   利用者さんに寄り添いつつも、どこか冷静に客観的に周り見て、仕事を仕事と割り切って、淡々としている。それが悪いじゃなくて、そうすることで、バランスを取っている感じ。

斯波さんは実の父親(柄本明さん)が、怪我をして動けなくなって、認知症があっという間に進行して、お父さんのお世話でまともに働くことも出来ず、守ってくれるはずの行政には裏切られ…。   認知症のふとした隙間で、ちゃんとした意識になるお父さんの「こんなので生きていたくない、死なせてくれ」という願いから嘱託殺人をしたのがきっかけとなり、自分の担当してきた41人を救う(=殺人)ことを始めました。

余談ですが、柄本明さんの演技がめちゃくちゃ上手かったです。怖いぐらい。本当に認知症になっちゃった?と思うぐらい。鳥肌立ちました。物語の根幹の部分でありながらも多くない出番で超強烈なインパクトを残してくれました。怪演ってこういうのをいうんでしょうね。

「この社会には穴が空いている。この穴に1度でも落ちてしまったら、この穴から簡単に抜け出せない」

検事の大友さんと対峙する中で、斯波さんがこのような台詞を言うのですが、そのとおり過ぎて苦しかったです。

そんな中で、苦しみ踠きながらも最後は「人間らしく死なせてあげた」自分は、その人もその人の家族を救ってあげたのだという主張の斯波さん。
長年積み重ねていた家族の絆も喜びも苦しみも知らない人間が、家族を壊して良いわけがないと反論する大友さん。

「家族の絆って何ですか?  絆は呪縛にもなるんですよ」

と淡々と語る斯波さんの言葉に心が抉られそうでした。何が正しくて、何が間違っているのか、分からない感覚になりそうでした。
斯波さんに家族を殺されて、「人殺し!」と叫ぶ人がいる一方で「斯波さんに救われたんです」と言う人もいたのです。

限界ギリギリだと、「こんなことで怒りたくないのに、怒ってしまう」とか手を上げてしまって、自己嫌悪に陥って、余計に負のループに入ってしまうとか。家で介護をしたこと無い人にこの苦しみが分かるのか…と淡々と大友さんに語る斯波さん。静かな心理戦。

両親が20年前に離婚して以来、会っていなかった父親が、孤独死の腐敗しかけた状態で見つかり、連絡を受けて現場に行って、家の汚さ、異臭の酷さに愕然とした大友さん。
「私も人を殺したんです」と拘置所の面会室で斯波さんに告白する大友さん。

尊厳を守るために人を殺めて、罪となる斯波さんと放置して罪にならない大友さん。

どちらも自分に起こりえる可能性があるのかもしれないと思うと、これからがとても怖くなりました。頑張っても頑張っても報われない介護に、お互いのためにも殺した方が…と思う感情が生まれるのかもしれない…と。