【小説】コメダおじさんのひとりごと ― シロノワールと友情 ― | 元コメダスタッフのブログ

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コメダバイトは卒業しましたが…
コメダにまつわる日々の出来事をお伝えします

ワタシの名前はコメダおじさん。

 

 

ツバの広いシルクハットにちょび髭を生やしている。

きちんとした身なりは紳士の基本。どんなときでもネクタイをきっちり締めている。

 

世間はまさに冬一色で、先日はついに初雪が観測されたようだ。

しかし、例年に比べると遅いような気がする。やはり今年は暖冬なのであろう。

 

さてさて、今日はどんな客人がやってくるのか…

 

「いらっしゃいませー!」

 

制服を来た10代と思われる2人の女の子が来店してきた。

今は平日のランチタイム。大方、ランチを楽しみに来たのだろう。

 

「空いている席にどうぞー!」スタッフの呼びかけに、あたりをキョロキョロ見渡す2人。

どこにする?と相談する声が聞こえてくるが、最終的に奥の2名掛けの席に決めたようだ。

学校の荷物が入っているであろう大きめな箱型リュックは最近の流行なのか、よく見かける。

それにたくさんのキーホルダーをじゃらじゃらとぶら下げて、そんなにつけていたら絡まないのだろうか…。

リュックを椅子の横に置いて、2人は腰を落ち着けた。

そこへスタッフが、ワタシグラスとおしぼりを持って現れる。

「ご注文が決まりましたらベルでお知らせください」の言葉に「ありがとうございます」と異口同音で答える姿に、最近の高校生は品がよろしいなあと、ワタシは感心する。

 

「どれにしようか」こちらはポニーテールというのか、後頭部で束ねた髪を揺らす女の子。

「悩むよねー」一方、何も束ねず肩まで垂らした女の子。

うーん、うーんと散々悩んだ挙句、せっかくコメダに来たんだから!とシロノワールに決めたようだ。

うむ、まあ確かにコメダと言えばシロノワールだが、それだけで足りるのかな?そもそもシロノワールはデザートだから、もっとタンパク質とビタミンを取らなければいけないのではないか?年頃の女子なら尚更であろう。

まずはサンドウィッチ系を頼んでからデザートにシロノワールでもよいのでは…と、余計なおせっかいがうずく。

だが一方で、高校生のお財布事情ではランチ+デザートはちと厳しいかもしれないと考えた。

うむ。家ではきっと野菜も食べているということにしよう。

「じゃ、ベルを押すね!」ポニーテール女子がベルを鳴らすと、間もなくスタッフが登場した。

「シロノワール一つください」

「ご注文は以上でよろしいでしょうか」「はい」

一つということは、2人でシェアして食べるのだろう。

確かに1人1つでは、年頃の乙女には罪悪感があるかもしれない。

2人は見つめ合って頷いた。スタッフはニッコリと笑顔で立ち去った。ほどなくしてキッチンから「お願いします、デカシロワンでーす!」と聞こえてきた。今日もホールの声は絶好調のようだ。

 

「はぁ~あ、もうすぐ卒業だねぇ」

「あっという間だよねえ」

どうやら2人はもうすぐ卒業する年頃らしい。

紺のブレザーをすっかり着こなしているが、その姿もあとわずか…というところだろうか。

昔の女学生はセーラー服だったが、今の時代はセーラー服よりブレザーなのか。

制服にも流行り廃りがあるのだなあ。

そんなことに感心していると、「卒業したら、ゆきと離れ離れか~寂しいなあ」

どうやらポニーテールの子の名前は「ゆき」というらしい。

「ほんと、寂しー!!小中高ずっと一緒だったもんね…大学行っても私のこと忘れないでよ」「あったりまえじゃん!!」

それから2人は、学校のこと、友達のこと、テレビ番組からYouTube…それこそ思いついたことをなんでも話題にしていった。

我が店に来られるグループの客人とりわけ女性陣の、話題の豊富さと言ったらもう、どうしたらそんなに湧き出てくるのかとほとほと感心してしまう。そこか!?という謎の話題からうんうんと頷ける内容まで、話題と情報の宝庫であり無限の宇宙である。

「シロノワールでございます」

2人が夢中になって話しているとスタッフがやってきて、テーブルの真ん中にコトンとシロノワールを置いた。それを見た2人は喜色満面!「わぁー!おっきいね!」「写真撮ろ!」と早速スマホで撮影している。この光景ももう見慣れたものだ。

シロノワールの横に取り皿とシルバーを置き、最後に「こちらのシロップをかけてお召し上がりください」

 

我がコメダを訪れる客は、そのボリュームに圧倒されることが多い。

今ではすっかり慣れたものだが、やはり最初は申し訳ないような、それでいて誇らしげな気持ちになったものだ。

 

「こんなに食べたら太っちゃうよー!」「やばー!部活引退してからマジ運動してないし!」

と言いながら、シロノワールを器用に取り分けて取り皿に置く。おやおや、シロップはかけなくてよいのかな?

「あ、ナオ!シロップあるよ」

ナオ?…なるほど、もう一人の女の子はナオという名前のようだ。

お互いにシロップをかけ、ソフトクリームをすくってペロリと。「うーんおいしーー!!」

そうでしょう、そうでしょう。なにしろシロノワールはコメダ自慢の一品なのだから。

「やっぱ甘い物サイコー!!」ニコニコしながら食べる姿を見るだけで、ワタシは幸せな気分に浸れるのである。

 

「…それにしても、さ。春から私一人でやっていけるかなぁ…」ちょっと不安げな様子はナオさん。

「大丈夫だよ!ナオなら。友達なんてすぐできるって!」ポニーテールのゆきさんが口にクリームを付けながら笑う。

「私は地元の専門学校でボチボチやるけど…ま、嫌になったら帰っておいで!それに、なんかあったらすぐLINEしてよ」

「うん…ありがと」おそらく高校を卒業したらバラバラになるのであろう。別れの季節はもう間近である。

「ナオは推薦で大学受かってんだから、ほんとすごいよ。ガンバってね。応援してるから」

「ん…。ありがとね。でもほんと寂しい。ゆきとはずっと一緒だったからさ…」

「まぁね、寂しいのは私も同じだって。大丈夫、今はすぐに連絡取れる時代なんだからさ!」

ふむふむ、どうやらナオさんは少々内向的で、ポニーテールのゆきさんはサッパリした性格のようだ。

相反する2人は互いを補う存在なのか。

「そうだね。よーし!がんばるぞ~!!」ナオさんは大口を開けて、最後のひとかけらをぱくりと平らげた。

「あー美味しかった!!」

「ほんと!」

綺麗になくなったシロノワール…と。

「…あ、さくらんぼが残ってる」

おやおや、真っ赤なサクランボがぽつんと残っている。

「ナオ、食べなよー」「いいよ、ゆきが食べたら~」

お互い謙遜しているが、それでは話が進まない。

「でもさ、さくらんぼって、ペアでいたほうがサクランボらしいのにね」

「うちらみたいに?」「そうそう」

「片割れだけじゃ、寂しいね」

「・・・」

「じゃあさ……もう一個、頼んじゃおうか!」

「いいね、それ!今度はミニシロノワールにすればいいんじゃない!?」

「そうだね!!」




さすが女子高生。甘いものがいくらでも入るのであろう。

しっかり食べて、たくさんお喋りしていきなさい。

春からはそれぞれの道を進むのだろうけれど、君たちの友情が続くことを、ここでずっと祈ろう。