本紹介:日本史真髄 | 米の心

米の心

野球にサッカー、NBA、F1とスポーツ全般から、西洋や江戸、日本の歴史、経済、文化、社会や科学、時勢ネタその他種々雑多をただただとりとめもなくぼやくブログです。

今回ご紹介するのは、小学館新書から出ている井沢元彦著の日本史真髄です。

著者の井沢元彦さんは作家さんとして有名ですが、歴史好きの人にとっては、「逆説の日本史」シリーズなんかが有名かもしれないですね。日本史についてのアプローチについてはやはり主張が強いところがありますが、それでもなお説得力のあるまとめ方をするのが非常に上手い方です。

科学や歴史の本は、その点で言えば、専門の学者さんですと、そもそもわかりやすく説明をするということに慣れていないのもあって、噛み砕いて書きすぎたり、逆に素人にはわかりづらかったりとその辺りの加減が難しいところがあります。まぁそれはどういう読者層向けの本なのかという話でもあるのですが。文章を書くのが上手な研究者の方は依頼もたくさんあって本を書きなれている感じがあったりしますが、井沢さんはさすが作家として活動している方なだけあって、文章の持って行き方というのが上手いですね。

多分、本当に歴史に詳しい人からすればどこかしら疑問を覚えるようなところもあるのかもしれませんが、話の持って行き方が上手いので、すんなりと主張が入ってきますね。歴史作家は事実の間を想像力で埋めてそれを表現していくのですが、まさにその技術が備わっている本だと思います。

この日本史真髄という本は、日本史において、宗教的思想の影響というところへのアプローチで取り組んだ本だと言えます。

例えば、現代人でもある、ケガレの考え方であったりとか、徳川家康、江戸幕府がなぜ朱子学を取り入れたのか、その目的とその結果がどうなったかなどといったことが述べられています。

聖徳太子の憲法十七条などについても触れており、この憲法十七条に書かれていることは、一見今の現代人の考え方からすると、気づきにくいところなどへも、当時の思想からするとこういう解釈ができるというあたりは面白かったですね。

個人的には、この本の中では、特に紫式部の源氏物語へのアプローチは説得力を感じるものでしたね。

源氏物語は今でも多くの人に愛されている文学の一つではあるのですが、当時の情勢を考えると、あのような内容のものを書いてどうして紫式部が許されているのかというのは疑問に思うところがありました。負けた勢力の子が将来帝になりますなんて話通常であれば認められるわけないのです。ましてや時代背景などが全く違うものであればともかく、モデルとする人物すら彷彿させるような話なのですから。

では、どうして、それが受け入れられたのかなどといったところは面白かったですし、六歌仙の選定はなぜあのメンバーなのかといったところも、なかなかに興味深い考え方だなと思いました。

そして、それらの背景にはその時代ごとの、立場ごとの宗教的な思想があるからであり、その宗教的思想が歴史に大きく影響を与えているというのを一面一面拾い上げて、わかりやすい文章運びで記述してくれているので、歴史に興味がある方からすれば非常に楽しめるところは大きいかなと思います。

まぁ、一部は今の研究の解釈からすれば、そのような解釈をしていないところ、(例えば田沼意次と松平定信の政策への解釈など)もありますが、そういうものなのだなと思って、自分にとって納得できたところだけを受け入れればいいのかなと思います。

そういうのは今の解釈が必ずしも正解では無いですし、またその解釈も変わっていく可能性もあり、またそのあたりをどこまで理解した上で記述されているのか、読む側が読んでいるのかという話でもあり、難しいところではあると思います。

ただ、西洋史などを読み解く上で、キリスト教の影響というのは語らずに理解することはできません。多くの国、地方の歴史には深く宗教が根付いているのは確かなことであり、無宗教であるという認識をしている日本においてすらそれは変わりません。

この本は冒頭でケガレに記述がありますが、まさにそのケガレの考え方というのは、現在日本人にもあるところであり、そこを認識させ、まず日本と宗教の結びつきが希薄であるという認識のところを改める形で読み進んでほしいという意図がこの辺りからは読み取れるように思います。

確かに日本史の中で宗教の役割というのは希薄であり、その点についてのアプローチというのは非常に興味深いものがあります。

非常に読みやすい内容ですので、興味がある方は手に取ってみても楽しめるのでは無いでしょうか?