野球の話をしていることが多いですが、今回も野球の話。
一塁手、ファーストといえば、強打が期待される打者が入ることが多く、守備を軽視されるポジションであるかのような扱いを受けることというのは少なくありません。
しかし、実際のところバッテリーを除けば最もボールに触れる機会の多いポジションであるファーストの守備というのは非常に重要です。横浜が近年強くなったのは、ファーストの守備が非常にうまいロペスをファーストに固定できているということの意味合いは大きいように思えます。
一方、巨人は阿部をファーストにコンバートすることにしましたが、結果からすればそれがうまくいったとは言いがたいところがあります。
そもそも、守備の側面からすれば、ファーストというのは他のポジションと求められるものも違えば、守備の傾向そのものが違うということは意外に忘れられがちです。
それはどういうことかというと、ファーストはベースに固定された中での捕球を求められ、自由にボールを取ることが許されているポジションではないということです。
同じように動きを固定される傾向があるのは捕手ですが、別に捕手は固定されているわけではありませんし、動きとしてはファーストみたいに体を最大限に伸ばすということを頻繁にするポジションでもありません。
この観点でいえば、自由に動き回れるショートで捕球がうまいからといって、ファーストでも同様に高い守備力が期待できるかといえばそうとは限らないということになります。
もちろん、ショートをやるような人は守備についてセンスが高く、身体能力も高い人が多い為適応できることもしばしばありますが、普段の守備練習からして、ボールを体を動かして取りに行くポジションであるショートと体を固定してボールを捕球するファーストでは求められているものが違うということになります。
その意味では、ファーストは他のポジションと比較して窮屈な体勢での捕球が求められることの多いポジションと言えます。他のポジションでファーストほどにそういうものがあるところというのはないですね。
このことは、ファーストだからということで安易にコンバートすることが必ずしもうまくいくことではないということをある意味では表しているかもしれません。
ファーストは守備に対する責任が非常に高い一方で、他のポジションを専門にしてきた人にとってはなかなかない動きというのが求められるポジションだからです。
そもそも、ファーストの守備軽視という話についていえば、ここでの軽視の内容は、守備が下手でも構わないというのは、よほどの打撃が期待できるケースでありそうでない場合は、守備範囲が広くなくて構わないという話であることを忘れてはなりません。
もともと、ベースに固定されて守備をすることの多いファーストは、ファーストベースへの意識が高くなければならず、結果として守備についても俊敏に動き、広い範囲をというよりは、広くはなくても確実で冷静な判断をしてくれる守備というのが求められるというわけです。
元中日の監督である落合さん曰く、今までセカンドサードファーストと守備をしてきた中で最もやりたくなかったのはファーストだそうです。
ファーストの守備は馬鹿にされがちですが、バント対処などの判断が仰がれるケースも多いですし、守備に関わる機会も多く、投手などとの連携についても対応力が求められます。
内野の守備でいえば、そういう判断が最も少なくて済むのは個人的にはサードかショートであるように感じますね。
サードは強い打撃に対処が求められるものの守備判断が求められるシーンはバント処理くらいです。他は状況に応じたセンスというのは必要ですがそれは他でも同様です。
強烈な打撃がいく印象のあるサードですがこれは右打者にかつて強打者がいることが多かったからかもしれません。今は左の強打者も少なくなく、そういう打球はファーストやセカンドの対応となることも少なくありませんね。
ショートは守備範囲が広く内野の守備の要ですが、実はショートが判断に迫られるシーンというのはそれほど多いわけではありません。
野球はシステム上1塁ベースから反時計回りにランナーが進むスポーツであるがゆえに、様々な状況での判断というのは実はライト側、セカンドやファーストにかかることというのも珍しくなかったりします。
実際、様々なシーンの想定の中で一番活動的に内野で役割を果たすのはセカンドです。ショートの方が守備の花形な印象はありますが、内野全体のまとめ役としては、セカンドの担うところの方が個人的には大きいように感じますね。
ファーストは判断機会そのものよりもやはりそのすべてのシーンに基本的に関わるということでその役割の大きさがあるでしょう。
ファーストに守備についてもうひとつ言えることは、歴代でファーストで名選手として名前を残した人は大勢いますが、その中で守備範囲の狭い人などは確かにいましたが、守備が下手だったという選手はそう多くはいないことです。
打つ方ばかりが目立ちますが、守備でもそれだけのものがあるからこそ長年起用され続けているというところがあるということです。
これはファーストにかかわらず内野についてですが、内野と外野の1番の違いは、その空気の密度であると個人的には考えています。
打者と投手が勝負をし、その熱、その緊張した空気というのはやはり投手と野手との間で生まれるものです。ランナーが出れば、それもまたその空気に交わり、それはランナーにより近い内野手はそれを感じることとなります。
外野の場合その意味では、ひとつ息を抜けるというわけではありませんが、緊張感の密度は内野ほどには高くないというのはあるように思えます。
野村監督は外野出身監督にいい監督はいないといいますが、それはひとつに、この緊迫感ある密度の濃いい空間の中で野球をしていないということもひとつ理由にあるのかもしれません。
その意味合いでもやはり、ファーストは内野手の一員としてもその空気の中にある存在です。それがゆえに、守備を期待できない選手で打撃力があるからと安易に使うのに好ましいかといえばそうではないと個人的には感じるところがあります。
ちなみに、草野球とかだと実は、ファーストにうまい人を割り当てるということは少なくありません。最も守備機会が多いポジションであるがゆえに確実性を期待できる選手を置くというわけですね。
軽視されがちなところもありますが、ファーストは内野守備のある意味で要でも本来あります。そのファーストというものの守備については地味なところはあるものの、他のポジションの動きとは異なる動きが求められ、かつ、守備機会が最も多いポジションとしてもっとその守備力を重要視されるべきといえるのかもしれません。