そんな〇〇から始まる〜山手線ゲーム!





お題は‥?「柚留さんの嫌いな所〜」



せーの、パンパン





「下手くそ」





先輩が放った一言目。周りはドッと沸いた。



3年の冬。


想定していなかった一言。


緊急事態。


臨時で脳内会議が開かれた。




すぐさま『現実を認めたくない』党首が
声を挙げる。




まずここは一緒に笑って誤魔化しましょう!




聞かなかったことにして酒で流せばいいんです!




目の前の酒グイッといっちゃって下さい!




たかが飲みゲームでの言葉。間に受ける必要はないですよ!



そうだよね。まずは笑おう。あははは。



俺が下手くそなわけ‥




ハッと我に帰る。そういえば。



俺は21シーズン、形としてチームに貢献する機会すら与えられなかった凡人だった。


同期内で唯一の出場0。


本当に上手かったら学年関係なく出てるだろ。



あぁ俺って下手くそだったわ。




『現実を受け入れろ』党首が無言で見つめてくる。




そして心の中で眠っていた弱い自分が


火を灯し始めた。


グツグツと沸騰する悔しさと恥ずかしさ

そして込み上げる自分への怒り。


俺の表面にこびり付いている薄っぺらい何かが
ベリベリと音を立てていく。



今思い返せばこの出来事が

今年1番の原動力だった。


“下手くそ”って言ってくれてありがとう。

無視されるよりも貶された方がマシ。





「柚留さんって自信の塊だよね笑」




それは見かけだけ。そう見せてるだけ。


本当の俺はネガティブの塊。内面は誰よりも暗くて弱気。


自信がないから努力する。


自信がないから皆に褒めてもらおうと頑張る。


すると皆ちゃんと褒めてくれる。


それを身体の表面に塗りたくる毎日。


賞賛で固めた薄っぺらい自信が徐々に厚くなっていく。



俺は自力じゃ自分のことを照らせない月みたいな人間。



「スコア〜!12番!」



失点後に始まる脳内大反省会。

結論はいつも自分のせい。


「自分に矢印を向けろ」


高校での教えを間に受けすぎた。

全て自分ごととして捉えてしまう。


「こんなクソボールも止められないのかよ」


「4年の俺がチームを救わなきゃ」


「お前が1番足引っ張ってるじゃねぇかよ」


心の中で響き渡る罵詈雑言。


自分の不甲斐なさに段々腹が立ってくる。


「ナイスゴーリー!柚留さん!」


ベンチに戻るといつものように褒めてくれるマネ・選手・コーチ。


皆に助けられた。


皆1人ひとりは俺にとって太陽みたいな存在だった。



「ピィイイーー」




大井に轟く甲高い音。
12年間のスポーツ人生、10年間のGK人生が終わった瞬間だった。




「あぁ楽しかった」



やっぱり格上との試合って気持ちが良い。



体感したことのないスピードで展開されるパスやショット。



自分自身がどこまで通用するのか終始ワクワクが止まらなかった。



3マンダウン止めたし。


負けたのにセーブ率6割いってたし。



最後ボコボコにされて終わりたいっていう希望も叶ったし。

ラクロス人生に一切の悔いはないと思えた。


はずだった。




「ゆずる〜」




観客席から俺を呼ぶ声がする。





溢れるものを抑えきれなかった。



なんでだろ。楽しかったのに。止まらない。



はぁ



やっぱ心のどこかで強がっている自分がいるんだろうなって気づいた。




悔しかったんだわ。




俺はこれからどんなに努力して



スーパースターになったとしても



もう一度2部昇格戦の舞台に立つことは許されない。



したくてもできない。




でもみんなにはその権利がまだ残っている。







無駄にすんなよ。







≪未来のゴーリー達へ≫



『練習では誰よりも失点しろ』



練習でのファインセーブに対していちいち喜ぶな。


ファインセーブは止めた瞬間から何の価値もなくなる。



ファインセーブから得られるのはそのショットが今の力量で止めることができるっていう事実だけ。



失点からは色々学ぶことができる。失点して強くなれ。



『本番では誰よりも自分を信じろ』


ゴーリーは孤独なポジション。グラウンドで1番上手いのは自分だと思え。


過信するぐらいでいい。後ろが弱気だとチーム全体が弱気になる。


≪見知らぬ誰かへ≫


『挫折は根にもて』
長期的な原動力となりやがて自信に変わる。


『賞賛は少し含んで水に流せ』
短期的な原動力となるがやがて過信に変わる。



《試合前の君へ》

俺が試合前に誰よりもやっていたこと。



それはイメージトレーニング。



不安の正体は実態がわからないこと。

だったら想像すればいいじゃん。


相手のショットフォームを脳内に叩き込み


本番の緊張感を持ちながらシャドーセービングをする。


セーブした後は想像タイム。


シュッシュデントの味がするマウスピースを噛み占め喜ぶ自分の姿。


マネから黄色い声援をキャーキャー受ける場面。


後輩に「3部最強ゴーリーですね」っていわれる場面。


ベスト12に選ばれたことを公式インスタで投稿する瞬間。


自分で作ったファインセーブ集をおかずにして飯を喰い、それを歩夢に送りつける所まで。


できるだけ先へ。そして鮮明に。


想像できたらあとは簡単。


身体は勝手に動いてる。



最後に。



引退してからのこと。



柚らないものが無くなって困ってます。



まずは柚らないもの探しから始めようかと思います。









12年間のスポーツ人生終了。

また会う日まで。


4年 桑原柚留