「人は八歳で生まれることはできない」

アウシュビッツ収容所から生還した男は、八歳でイギリスに逃れた親戚に言った。

逃れた後にイギリス人として生きてきたとしても、

自分の出自をなかったことにはできない。

これは、どの世界・どの時代に生きていても同じだ。

ウィーンに住むユダヤ人四世代の物語。

小松は添乗で何度も訪れていても「レオポルト・シュタット」を知らなかった。

今はプラター遊園地のあるウィーン川の中州にあって、かつてはユダヤ人が密集して住む地域だったことを、

劇の解説本を読んではじめてしった。

1899年、1924年、1938年、1955年

ユダヤ人のファミリー一人一人がどんな変遷をたどるかを、巧みな物語と脚本で見せてくれる。

歴史的な年号は知っていても、それが生身の人間にどんな地獄を見せていたのかを実感するのはむずかしい。

すぐれた物語はその欠落を補ってくれる。

 

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テレビの「タレントさん」として「へらへら」していた人が、別人のようにきりりとした演技をしていた。

どちらが成りたかった自分なのか、本人にも分からないのかもしれない。

先は分からなくとも、その時いちばん良いと思った決断をして先に進むしかない。

子役たちをふくめて、

自分が積極的に選んだ道でなくとも

たどってきた道を認めるところからしか先には進めない。