アテネのアゴラ博物館には黄金マスクはないが、ストーリーを知れば興味深い品々が多く展示されている。
なかでもこのオストラコン(陶片)をはじめて見た時のことは忘れられない。
↓壊れた壺の口や底の部分に何か書かれている
●オストラキスモス(陶片追放)とは、紀元前六世紀末に導入されたとされる民主主義を守るためのシステム。選挙でえらばれた人物といえど権力を持ちすぎると民衆を抑圧する独裁者になり得る。※ヒトラーだって選挙でえらばれたのだ
古代アテネでは市民集会の後に市民たちが「この人物は僭主になる可能性がある危険な人物だ」と思ったら、その人の名前を無記名投票する。それが六千に達すると(諸説あり)、その人物はアテネを追放される。
このシステムを考案したテミストクレスは紀元前480年のペルシャ襲来の際にアテネ全市民を町から退去避難させ、サラミス水道の海戦によってペルシャを打ち破った優秀な指導者である。※オストラキスモスはそれ以前の紀元前508年にクレイステネスが法制化した制度だという説もある
ところが、これは歴史的事実とされているのだが、テミストクレス本人が十年後にオストラキスモスによってアテネを追放されてしまった。展示されていた陶片をよく見ると↓
おお!「Θεμιστοκλής(=テミストクレス)」とはっきり書かれているではないか。
となりに展示されていたオストラコンにも↓
↓はっきり読みとれる↓
陶器というのは二千五百年前のものでもそれほど劣化しない。
あたりまえだが、手書き。
「テミストクレスは十年前には確かにペルシャから我々を救ってくれたが、最近は年をとって(といっても五十半ば)頑固で横暴になってきた…」
などと考えて刻んだ誰かの表情まで思い浮かぶようだ。