これほど美しい図書館を、他に知らない。

《手造の旅》鉄鉱山とオーロラ 今回の旅で個人的に一番印象に残ったのはストックホルム市立図書館だった↓

360度円筒形の書架に囲まれた中央の空間は、古代ローマのパンテオンをイメージしている

 

建築や歴史に興味がない人でも、必ず惹きつけられてしまう空間だ。

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床のデザインがローマのパンテオンと同じ

アスプルンドという建築家が1928年に完成させた。彼が古代の神殿のようにこの図書館をつくっていったことが、だんだんと見えてくる。

ここはこうした魅力的な建築についてばかり紹介されるのだけれど、元は図書館で働いていたという地元ガイドさんに解説していただくと、この建物を出現させるカギになったひとりの女性が見えてきた。

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●Valfrid Palmgren(1877-1967)

ファルフリッド・パルムグレンと発音するのだと思う。

彼女はアスプルンドよりも八歳年長。アスプルンドがこの建築に携わるようになった頃には四十歳ぐらいだっただろう。

資産家の父の創設した学校で学び、二十代はその学校の教師をしていた。

同時にウプサラ大学で哲学とローマ文献学の学位を取得。

三十歳で教師を辞してアメリカを三か月視察。

市民のための図書館をスウェーデンにもつくりたいと思うようになった。

いかに北欧とはいえ、いかに資産家で理解ある父の下に育ったとはいえ、相当な知性と覚悟を持った女性だったにちがいない。

 

それまでスウェーデンの図書館は王立と私立というかたちしかなかった。

一部のインテリ層のための閉ざされた空間で、当然子供のための図書館という概念もなかった。

ファルフリッドは一般市民や子供たちにこそ図書館という場が必要だと考えたのである。

その理念を実現するために、いろいろな建築家が候補にあがり検討された。

当時の大御所たちのクラシックなアイデアもあったが、彼女らが選んだのが三十歳そこそこのアスプルンドだった。

2017年11月5日、ストックホルム市立図書館を解説してもらった我々は最後にこの子供たちのための部屋に導かれた。

天井近くのめただない場所に、年配の女性の肖像画がひっそりとかかっていた↓

理知的な瞳とウィットを感じさせる口元が魅力的。

若いころの彼女の写真と比べてみても、美しさはかわらない。

 彼女と会って話がしてみたくなった

この部屋の天井いっぱいに、1885年9月22日午後八時の星座が描かれている↓

「これは、何の日時だと思います?」とガイドさんが微笑む。

建築家グンナール・アスプルンドが生誕した時の空だった。

こんなかたちで自らのサインを残すとは、実にしゃれている。

 

さらに奥に、ひとつの暗い部屋がある。

壁には「ニルスの不思議な旅」の絵が鮮やかにライトアップされている↓

この本は図書館が完成する二十年ほど前の1907年に刊行されている。

アスプルンドもファルフリッドも気に入っていた本だったのだろう。

 

今日も、一人の子供がお母さんに絵本を広げて見せているところだ↓

突然入ってきた東洋人たちにちょっとびっくり(^.^)

 

ファルフリッドとアスプルンドの作り出した空間は今も生きている。