A.ピアソラ&H.フェレール合作「ブエノスアイレスのマリア」2023年3月5日、川口リリア音楽ホールで9年ぶりに演奏しました(前回は2014年)。

2013年に東京オペラシティで、オリジナル・キャストでありピアソラの元夫人でもあるアメリータ・バルタールさんに歌っていただいてライブレコーディング(https://www.sonymusic.co.jp/artist/RyotaKomatsu/discography/SICC-1644

もしましたが、同時にオール日本人キャストでも何度か演奏にトライしていました。

 

僕はアストル・ピアソラは天才だけれども、やはり「タンゴの中のひとつ」だと考えていて、よく言われる「退屈だったタンゴをたった一人で変革した偉人」みたいには全く思っていません。実際ピアソラの影響を受けていないスタイルのタンゴというものは歴然と存在するわけで、まあタンゴは知らないけれどもピアソラ(の一部分)だけを知っている人にはそう見えてしまう、というだけのことだと思います。 現在の音楽世界には「ピアソラ以外のタンゴをよく知るミュージシャン」が演奏するピアソラと、「ピアソラ(の一部分)だけを知っているミュージシャン」が演奏するピアソラがあります。現在、圧倒的多数派なのは後者です。言ってみれば醤油の味を知らなくても和食は作れるみたいな話になっているわけで、これは大問題です。 何が問題なのかと言えば、各楽器(あるいは歌手)のタンゴ特有の演奏方法が完全に無視されているからです。「音楽解釈が違う」というような高尚な話ではなく、単に昔から受け継がれるタンゴの奏法、慣習が全く出てこないからなのです。ピアソラをやるならピアソラ以前のタンゴに少しでも手をつけて訓練しておかないと話が始まらない、というのが本当のところなのですが… 「ブエノスアイレスのマリア」も、1968年のピアソラとフェレール自身による演奏以後は、「タンゴをよく知らない人々」による演奏がほとんどで、なおかつ全曲演奏された実例そのものが非常に少ないという問題作になってしまっています。 「ピアソラ以前のタンゴの演奏経験を少しでも持っている人々」が

「マリア」に挑む。

 

これがスタート地点だと僕は考えます。

 

いろいろな事情があり、9年ぶりとなってしまいましたが、ご主催の川口総合文化センター様のお陰で、また新しい気持ちでチャレンジすることができました。

 

手前味噌ながら、たった一度の本番を目標に、皆これぐらいの演奏力がついていたんだな、と感慨を新たにしました。

ピアソラの音楽性は「アルゼンチンタンゴの演奏スタイル」という土台の上に初めて築かれる……ずっと前からそう考えていたけれども、こうやって大曲を通してみると改めてそれを痛感させられました。

次に演奏できるのがいつなのか、それはわからないけれども、なるべく早くその時が来ることを祈っています。たくさんのご来場ありがとうございました! バンドネオン:小松亮太 歌:Sayaca   歌:KaZZma 語り:アクセル・アラカキ ヴァイオリン:近藤久美子 ヴァイオリン:谷本仰 ヴィオラ:吉田有紀子 チェロ:松本卓以 コントラバス:田中伸司 ピアノ:黒田亜樹 フルート:井上信平 ギター:鬼怒無月 パーカッション:佐竹尚史 パーカッション:真崎佳代子 @川口リリア音楽ホール