学生時代に書いた作品:駅跡(えき)(1996年) | (仮)月夜に光る 露草の雫(なみだ)

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学生時代に書いた作品である。

作成年月日は不明。


 

 

 

 

 

駅跡(えき)

 

 

この村にある小さな駅跡は

土盛りの形で残っているだけだ

昔は人も町も賑やかだった

とくに戦後は、あふれるばかりの人々を乗せた列車

田舎町へ買い出しに来ていた

それは闇物資と扱われ、列車には

抜き打ちで臨検が行われ

人々は列車を飛び降り、逃げ去った

そんな風景を駅跡は見ていた

 

 

車社会になると駅は廃駅となり

貨物列車を導いていた線路も廃線

廃線となった線路は

草が生え、あの時代の面影は薄れていた

人々の記憶から薄れ去る

駅跡と廃線

 

 

一人の老婆が

乳母車をひいてやってくる

乳母車に腰をかけ、日が暮れるまで駅跡にいた

そして立ち去る

何かを待っているかのようだった

まだ若き頃の自分を回想して

次の日も、また次の日も

ため息を吐いて去る

一体何をを待っているんだろう

誰を待ち続けているのだろう

 

 

老婆にとってこの駅跡は

懐かしく、そして想い出深い駅なのであろう

懐から一枚の古い写真を取り出した

軍服を着た男性と学生服を着た男の子が写っている

老婆は写真をずっと見つめていた

この駅で見送り

この駅で逢うつもりだったのだろう

しかし 二人は帰ってこなかった

今でも老婆は待ち続けている

二人が帰ってくるをずっと待ち続けている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真:写真ACより

 

 

 

 

作成年月日は不明