学生時代に書いた作品:待つ(1996年) | (仮)月夜に光る 露草の雫(なみだ)

(仮)月夜に光る 露草の雫(なみだ)

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学生時代に書いた作品である。

作成年月日は不明。


 

 

 

 

 

待つ

 

 

物静かだ

狭く暗い牢獄

静かだ

静かすぎるくらい静かだ

 

 

監獄されてどのくらいだろう

もう十年は経つのだろうか

分厚い扉は

刑を待っているかのようだ

世間の目のような

冷たい壁が四方を囲む

虚しさと寂しさがは入り混じる空気

牢獄内は 一枚堅い布団と机が並ぶ

夜になれば

静けさで圧されそうになる

あぁ、静かだ

 

 

机に向かって途方に暮れる日々を過ごす

死刑という重荷を背負いながら

おかしいくなりそうだ

苦しい、息苦しい

出獄したい

あぁ 外の空気を新鮮な空気を吸いたい

思いっきり吸いたい

腹いっぱい吸いたい

 

 

ただ聞こえるのは

コツ、コツ

と看守の靴の音が監獄内に響き渡る

そして止まった —

自分の番がとうとう来たのか

 

靴の音は遠ざかって行った

囚人の嘆き声が廊下に響く

その声を聞くと涙が溢れてくる

 

 

裁判が行わていたころ

気が狂いそうになった

毎回同じことを問いただす検事

数年後

判決の日

刑の宣告を聞いたとき 愕然とした

この日を境に 刑をただただ待ち続ける

鉄格子から差す光がいつの間にか心の支えとなった

そして十一回目の冬を越そうとしていた

靴の音ひたすら待ち続ける

 

 

夏の木漏れ日が差すころ

いつも物静かな監獄内が慌ただしい

看守たちの靴の音が行きかう

一体何が起きたんだ

小さな扉から覗く

監守が扉を開く

そして ひと言

「明日 執行」

と言い残した

まさか 法務大臣がとうとう印を捺したのだ

食事はろくに喉を通らない

来るときが来たんだ

その夜は

鉄格子から差す月光が悲しく思わせた

月は見守るかのように

そして祈っているようにも見えた

 

 

暗い 暗すぎる

監守の靴の音が鼓動を響きかせる

眠れないほどの鼓動の速さ

心臓が破裂しそうな音

トック、トック……

静かだ 静かすぎる

喜べよ 笑えよ

悲しくなるのを我慢していいるかのようだ

涙が途方にもなく溢れだしてきた

 

 

刑執行の日

刑台の階段が 

天国、いいや地獄の入り口に見えた

縄が手招きをしてるかのようだ

とうとう来た

この階段を登る日が

家族に見守られずに死を迎えるのか

虚しすぎる 本当に虚しすぎる

 

 

監守の一人支えなられながら

一段、また一段と登る

十三段目にたしたとき

目隠しがされ 首に縄がかけられた

その瞬間 床が開く

家族の顔が脳裏をよぎった

 

 

医師が死亡時刻を告げる

靴の音を待ち続けた囚人の無念な死を見届けた看守

黙祷を捧げる

 

 

靴の音を待ち続けた最後の音が監獄内に響き渡る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真:写真ACより

 

 

 

 

作成年月日は不明

一部改変

記憶は確かではないが、ある刑務官のお話を聞いて書いたもの。