2024年年頭Blog ~人類が宇宙に進出しなければならない理由~ | ベンチャー・キャピタリストの困難で楽しい毎日

2024年年頭Blog ~人類が宇宙に進出しなければならない理由~

 

<2024年は年始早々様々な災禍が発生し、被災された皆様に心からのお見舞いを申し上げます。私も東日本大震災の発生時には仙台港に出張しており、東京に戻るまでの4日間、限定的な期間ではありましたが様々な不安や不便を体験しましたので、今回被災されている方々のお気持ちがひとごとならず察せられます。どうか希望を失わず、今は先のことを考えずに足元を見て前に進んでいただきたいと思います。>

 

 

 昨年は苦労の甲斐あってようやく「宇宙ベンチャーの時代」を上梓することができました。そして、新聞に雑誌にと多数取り上げていただき、昨年末には入山章栄先生からは年間の推薦書籍にご推挙いただきました。たいへん栄誉に感じております。

 

 去年一年間のマスコミからの取材の中で、一番頻繁にいただいたご質問が、「人類はなぜ宇宙を目指すべきなのか?」というご質問です。

 

 このご質問に、皆さんならどう答えますか?何度も答えるうちに、結局私は4通りの答えで応じていることに自ら気づきました。

 

 そもそも「人類はなぜ宇宙を目指すべきなのか?」という質問の背景には、記者さんによっては、「わざわざ宇宙に出なくても普通に暮らしていけるではないか。」という批判がこもっている場合があります。そこで最もプリミティブなレベルの回答は、「GPS(測位衛星)や衛星通信、更に言えば軍事衛星も含めた衛星群が既に我々の生活を支えている。目指すも目指さないもなく、宇宙と無縁に生活できる状況では、既になくなっている。」という回答です。

 

 しかしこうした事情を既によくご存じの記者さんには、意味の薄い回答になってしまいます。

 

 そこで2通り目の回答として、「大航海時代の例にも見られるように、人類は未知に向けた飽くなき冒険に駆り立てられるもので、そうした情熱が人類を宇宙へと向かわせるのだ。」という答えはどうでしょう。

 

 これは一面では本質を突いた理由だとは思いますが、抽象的であるために、ある意味分かったような分からないような、はぐらかしたような印象を記者さんに与えている感触を得たことがありました。

 

 そこで3通り目の回答として、イーロン・マスク氏ほか多くの識者が唱えているように、「巨大隕石が地球に衝突する確率は、決して無視できるほど低くなく、そうした人類の壊滅を防ぐために、人類は地球を離れて太陽系の他の惑星に生活圏を拡大すべきである。」という答えが考えられます。

 

 一昨年NASAは、DARTミッションとして、衛星を小惑星に衝突させて軌道を変える実験を試み、見事成功しました。NASA版のはやぶさとして知られる「オシリス・レックス」衛星が、2020年に到達した小惑星ベンヌは、2182年9月24日火曜日に1750分の1(0.057%)の確率ながら地球に衝突する可能性があると算出されています。我々の誰もが既に死んだあとの話ですが、それにしても人類の未来を展望すれば捨て置ける話ではありません。ベンヌ以外にも地球に衝突する可能性がある小惑星で未確認のものが未だ多く残っているとききますので、その時までに人類の一部だけでも地球を脱出して暮らしていける技術を確立しておかなければ、突然、種の絶滅が不可避となる可能性があります。従って、地球圏外で種の存続を図るための技術進歩を早期に実現しなければなりません。

 

 しかし、差し迫った危機に感じられないためか、この3番目の理由すら、いまひとつ納得感の得られない様子の記者さんも少なくありませんでした。

 

 そこで4つめの回答です。「人類と経済の長期的な持続を確保するためには、地球を閉鎖系から半解放系に変革していく必要がある。」というものです。環境問題、エネルギー問題、資源問題等、現在人類が直面している問題は、将来的に確実に人類と経済の持続を脅かすと考えられます。

 

 しかし同時にこれらの問題は、地球を「閉鎖系」と捉えることから生じる問題でもあります。地球の外の宇宙空間に目を転じれば、無尽蔵のエネルギーと資源、そして多様で受容力の大きい宇宙環境が広がっています。

 

 はやぶさ初号機と2号機により、日本は小惑星探査の技術で世界をリードしました。火星と木星の間にある小惑星帯には、レアメタルや鉄、金やダイヤモンド等の鉱物資源を大量に含んだものが存在すると見られており、これらを採掘できるようになれば、地球上の鉱物資源の希少性の問題をクリアできることになりそうです。

 

 また、米国ダイソン博士の着想による「ダイソン球」は、太陽のような恒星の周りを人工構造物で取り囲み、恒星から放出されるエネルギーを丸ごと取得することにより、無尽蔵のエネルギーを手に入れようとする構想です。実際には、恒星を取り囲むなどという大それた構造物を造らなくても、人類が必要とする数倍のエネルギーが確保できるようになると予想されています。拙著「宇宙ベンチャーの時代」の最終章では、地球静止軌道上に設置する宇宙太陽光発電プラントから電力を創出する話を載せました。

 

 エネルギーが無尽蔵になっても、閉鎖系を前提に地球上でそれらを使用したら、エントロピーが増大して皆熱死してしまいます。従って、エネルギーの使用もまた、地球を半解放系と捉えて消費する必要が生じるわけです。たとえば地上のあらゆる製造工場を全て月面に移すとか、消費する人類自身が地上を離れて消費する割合を増やすなどする必要が生じるわけです。

 

 地球を半解放系にできれば、資源問題、エネルギー問題、環境問題等をクリアできる可能性が拓け、このいずれもが、民間ビジネスによる宇宙開発抜きには恐らく実現できないでしょう。

 

 従って、人類と経済の長期的な持続を確保するためには、地球を半解放系に変革していく必要があり、こうした目標に向けて、今後ますます宇宙ビジネスの意義が高まっていくと考えられるわけです。

 

 このように様々な制約が外れた後の政治経済制度の設計については、従来以上に資本主義を追求すべきという楽観主義的な立場から、私有財産制や賃労働を見直して共産主義を新たに導入しなおすべきという立場まで、様々な政治経済学的思想があると思いますが、話が長くなりますので、今回は深入りしないでおきましょう。

 

 我々の未来を獲得するための一年が再び始まります。今年一年が、皆様にとって意義のある一年でありますように。(祈念)