グリコの決算説明会 | ベンチャー・キャピタリストの困難で楽しい毎日

グリコの決算説明会

上場企業の3月期決算の発表が一巡して、現在はアナリスト向け決算説明会がピークを迎えています。一般には知られない決算説明会の様子を、少しご紹介しましょう。


年間を通じて、私たちが所属する日本証券アナリスト協会や個別企業から、説明会の案内が私たちのところに届けられ、各アナリストは自分の興味のある説明会に出席登録します。これらの企業のなかには、スポーツ、芸能、レジャー、ファッション、美容、健康から食生活まで、日常生活では私たちがビジネスと意識しないで接点を持つ多くの企業も含まれています。が、私たちアナリストは、それらをビジネスとして捉え、評価していきます。そのような例のなかから、先週出席したグリコの説明会を例に、決算説明会の様子をご紹介しましょう。


説明会冒頭では、配付資料の説明と出席役員の紹介があります。普通、会社役員が紹介されて一礼したら、拍手が起こるのが普通ですが、アナリスト説明会では伝統的にシ~ンと静まりかえったままで、威圧的で殺伐とした雰囲気のなか説明が始まるのが普通です。


配付資料は様々ですが、決算説明会の場合の中心資料は、①決算短信と②会社説明資料である場合が多いです。


①決算短信は、財務諸表を中心に、企業の決算データが数値を中心に載っています。上場企業の場合、決まった書式の決算短信を必ず作成し、公表しなくてはなりません。


グリコの決算短信の表紙には、2009年3月期決算の概要が要約されています。2009年3月期のグリコの業績は、対前期比で、3.7%増収、40.2%経常増益となったものの、税引後利益は11百万円の赤字であったことなどが記載されています。


②会社説明資料は任意ですが、最近はパワーポイントを使いながら決算説明会を進めていくパターンが主流ですので、説明会で流されるパワポ資料と同じものが、手元にも配られます。こちらの資料も数値データが中心ですが、短信より一層詳細に、事業部門別の損益データや、場合によっては製品ごとのデータなども載っていたりします。また、短信は過去のデータ中心ですが、会社説明資料には、むしろ将来の設備投資計画や財務諸表の予想数値などが記載され、同じ数値データと言っても未来志向となっています。加えて、文書で今後の経営戦略や新製品などの概要が記述されます。


グリコの会社説明資料では、2009.3期は、主力の菓子部門でチョコ、ガムが苦戦した一方、食品部門と冷菓部門が好調に推移したことが読み取れます。食品部門では「2段熟カレー」が好調な半面、「炊き込み御膳」、「DONBURI亭」は苦戦。夏の酷暑の影響から冷菓部門が好調に推移したことなども分かります。2010.3期の重点戦略も色々ありますが、コンビニやスーパーのプライベート・ブランド戦略に対抗するために、商品ラインを売れ筋に絞り込んで、棚割り(売り場の陳列棚に占める面積)を確保しようとしていることなどが述べられています。


説明会は、緊張感のある雰囲気のなか淡々と進められますが、特に特徴的なのは、アナリストからの質疑応答に、3分の一から半分ぐらいの時間が割かれることでしょう。つまり、会社からの説明は半分ぐらいで、アナリストからの質疑に答えるのが説明会の主な機能だということです。


アナリストからの質問は、ほとんどが将来に関するものです。「今期低迷したガム、チョコの挽回策としてどのような手を打つのか?」、「現状の利益水準をどう評価し、今後どのように改善していくか?」などの質問が、グリコでは投げかけられました。また、「原材料費の低下について、会社予想ではどの程度織り込んでいるか?」という類の定量的な質問もあります。


この種の質問は、アナリストが独自予想を立てる際に、会社側の織り込み度合いを勘案しようとする質問です。つまり、会社側の原材料費低下予想がアナリスト予想と比べて不十分と感じれば、実際には会社予想を上回る利益が実現する可能性があるわけですから、その分を計算して、アナリストは会社予想より高めの独自利益予想を発表するわけです。こうした、会社予想と自分の予想のズレを探る類の質問も、アナリスト説明会では多く出されます。


また、グリコの場合で特徴的だったのは、①会場の前に自社製品がずらりと並んでいて、社長が手に取りながら説明してくれること、②説明途中に商品のCMを幾つか流してくれること(場が和みます)、③説明に関するアンケートと引き換えに、自社製品が一杯入ったお土産袋をくれること、などです。


広報部の方から後ほどきいた話では、お土産袋の配布を今年からアンケートと交換に切り変えたことには理由があるとのこと。その理由は、説明会にアシスタントだけ出席させて、冒頭にお土産だけもらわせて帰ってしまうケースが見受けられたから、だとか。


「誠にお行儀が悪くて、スミマセン!」アナリストを代表してお詫び申し上げますッ!


でもそれだけ商品が魅力的だということで、グリコさん、何とか許してあげてね。


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