上の画像は長いことかかって杢が出た根柾杢の盛上げ駒です。
この駒を眺めていてふと思ったことがあります。
私は農学部出身なので、こんなことを、です。
樹木の芯材、辺材の細胞は殆ど死んでいます。樹木の縦に長い細胞は、原形質(簡単に言うと、細胞の中の生きている部分と考えて下さい)がありません。人間は生きている細胞から成り立ちますが、樹木はそうではありません。樹木が太くなるのは、木部と樹皮の間に形成層があり、そこが細胞分裂し、太くなるのです。
ここからが面白いのですが、若い細胞の頃は勿論、生きているのですが、その若い細胞が、自分自身が腐らないように変化し、死んでいきます。簡単に腐ってしまうようだと樹木は樹木たり得ないですから・・・。
ところが、放射柔細胞(虎斑に見えるところ)は、辺材で生きているものがあるらしいのです。放射柔細胞は、まだ良く分かっていないのですが、簡単に書きますと、養分や水分のやり取りをしているらしいのです。
この放射柔組織が、何らかの影響で色が出ると虎斑や虎杢ということになりますが、この組織に何故色が出るものがあるのかは不明です。
駒師は、この畏れ多い自然の育みに、やれ虎斑だの虎杢だのと一喜一憂しているわけです。
虎斑の出る駒木地は軟らかく、黄楊櫛にしてみたところで使い物にならないでしょう。けれども、一概にそれが奇形とも言えないと思います。柔らかいには柔らかいで事情があるはずなのです。その事情もまた、一括りにするのは危険です。Aだから必ずBと考えるのは、自然科学に不向きな人です。樹木にも個別の事情があると私は考えます。樹木にとって柔らかい方が都合が良いということだってあるのです。
・・・と、まぁ、梅雨空の日ですから、こんな詰まらないことを自分で制作した駒を見ながら考えていました。