シカと荒廃森林の関連性について(1) | koma3232のブログ

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シカと荒廃森林の関連性について
 森林と云うものは,豪雨・地震・動物・人力その他の外力によって大きく破壊されると,はげ山や裸地となってしまうものである。その結果,はげ山とか裸地と云うものがそのままにほったらかしにされた場合は,少しばかりの例外を除いて再び植生連続の過程を永年月を経てもとの環境にかえることが考えられる。それが自然の再生力であろう。しかし,森林にも許容力と云うか限界というものがあるに相違ない。
 例えば,私が歩いた大台ヶ原に隣接した父ヶ谷(宮川村)山系に認められるシカの類について少しばかり検証してみよう。父ヶ谷は,日出ヶ岳を主峰とする台高山脈と紀伊山地に属する標高1,000m級の山々に囲まれた宮川村の西端にある。この谷は南谷,北谷の合流谷で宮川ダム湖に注いでいる谷である。なお,宮川ダム湖は大台ヶ原東側に源を発する宮川が大杉谷峡谷を挟んで主につくられている人工湖である。宮川は,宮川ダム湖から更に檜原谷川,栗谷川等諸支流を集めて,深いV字谷を形成し村のほぼ中央部を流れているインパクトの強い川となっている。宮川村の全体は,「吉野熊野国立公園」及び「奥伊勢宮川峡県立公園」に含まれると云う山紫水明の地である。地形地質は変化に富み,気象条件は大台ヶ原(父ヶ谷も含む)を中心として我が国有数の多雨地帯となっている。
 このような環境下において,ニホンジカの個体数が増加している地域として最近は知られるようになった。父ヶ谷は今,これらのシカの繁殖力の強さ,栄養食の強さによって森林破壊の頻度が進行中である。このために父ヶ谷は,森林の衰退や林床の裸地化が進行しつつある地域となっており,治山・治水の立場から見た場合は森林の荒廃化及び渓流の荒廃化が顕著で,この地のそのままの放置は許されないものとなるであろう。
  今や父ヶ谷の森林である天然林や人工林は,林床攪乱や渓岸崩壊などによって荒廃が拡大しつつある森林となってしまったが,これは主にニホンジカの個体数の増加によるものと判断されるべきもの考えられるであろう。
  遷移の観点から捉えるならば,崩壊地の復旧や荒廃移行地の抑止は,ニホンジカの被害状況(食害・踏圧・個体数の増加等)から判断して,自然力に委ねた場合にはもはや健全な森林への遷移は望めないものと考えられる。従って,これらの荒廃移行地に対しては,強力な人為作用で植生連続の過程を短縮する必要が生じているのではないだろうか。もちろん,今の父ヶ谷はもはや純粋自然ではなく生活自然となりはててしまった場所が多いことから,積極的な人の関与による生活自然の再生が必要となるであろう。生活自然の再生ができたならば,純粋自然の基盤ができたことになり,基盤ができたならば,あとは自然が平衡状態になるまで自然自身が働いて動いて生物的自然の秩序を永い時間をかけて取り戻すしかほかないであろう。
 1)ニホンジカの知識と実態
  a.生態
  ニホンジカは偶蹄目シカ科に属し,日本,ウスリ-,朝鮮,中国,台湾に分布する。
  シカは森林性の動物で主に広葉樹に生息している。垂直分布は平地林から森林限界の2,500mに及び,一般にはブナ帯まででそれ以上は夏季に限られるようである。
  個体または群れは,一定の地域に定着的な生活を続ける。群れは2~3頭,または5~8頭の小群であることが多い。これらの群れは朝夕に林外の草地(幼令林)に出て採食する。採食後は林内に戻って座居し,反芻し睡眠を取るようである。
  シカの臭覚はとくに鋭敏で危険察知のため耳は前方から後方に常に動かしている。敵が接近してきたときはリ-ダ-の合図により,安全な方向に逃走するが,この時臀部の白斑が花のように開く。これは仲間とはぐれることを防ぐ役目をしているのだろう。
  発情期は10月から11月初旬で,雄は求愛(ラブコ-ル)を発し雌を呼ぶ。シカは一夫多妻でなわばり雄はハレムをつくる。妊娠期間は230日~240日。出産のピ-クは5~6月で普通1頭を産む。平均寿命は9歳ぐらいではなかろうか。
  食物は植物質で,樹の葉,草及びコケなどである。ミズナラなどのドングリ類,ブナの実なども食べるし,樹皮も齧る。シカは,環境条件が食性に反映し木本,草本の両方の植物にふれながら採食していると云えるだろう。
  b.被害
  被害は伐採跡地やその隣接地,林道沿いに集中している。これらの場所は,栄養豊富な食物を供給すると同時に外的に対しても比較的安全が保証されていることによる。調査時の群れ等から判断して,草地等を加害しているのは雄よりも雌とその家族群の様に思われる。これは,雄が狩猟獣,雌が非狩猟獣(保護獣)によることが関係していると考えられるのではないか。
  一般に被害は食物が欠乏する冬季に発生することが多いが,調査では春季でもかなりの被害を受けている様である。
  被害の状況は,葉の採食害と樹幹の剥皮の害及び踏圧による林床の裸地化である。なお,樹幹の剥皮は採食によるものとなわばりの表示によるものの両方と考えられた。
  c.シカ増加の原因と被害の出現
  調査対象地域は,シカによる森林被害が顕著な地域で深刻な問題となっている。これは当然個体数の増加によるものであるが,調査結果から以下の項目が指摘できるだろう。
  ①  調査地域には,シカ個体群の個体数を制御するほどの有力な天敵はいない(昔は天敵    としてニホンオオカミがいた)。
  ②  ここ10数年大量死亡を引き起こす大雪など気象的な制御要因が働いていない。
  ③  森林伐採がここ数年活発になり,森林の草地化が目立った。
  特に③の要因は,栄養に富んだ食物を豊富に供給し,シカの繁殖を促す結果となり被害が拡大しているのではなかろうか。
  d.対策
  シカは,その生態学的特性として,餌植物の供給量など環境収容力の上限まで増加するタイプの動物である。したがって,オオカミなどの捕食動物が消滅した日本の生態系では,増えすぎた場合に森林(天然林・二次林・人工林)の破壊をもたらすのであろう。
  現在日本では,シカによる被害の有効な防除法として行われているのは,予防では防護柵や電気柵の設置で,捕獲は銃器及びワナによるものである。対象地は,防護柵で予防を実施中であるが,その効果は小さいようである。
  では,野生動物の保護管理が進んでいる欧米のシカ対策はどうなっているのか,以下に,各国の取り組みを述べる。
  ①イギリス(スコットランド)のシカ対策
    シカの個体数の管理は,繁殖年齢に達したメスジカを捕獲することのみによって調節で    きるとの考え方に立っている。シカの生息数は,糞によって推定する。生息密度,出産    数,死亡率等の資料から,群れの大きさの年次変化を推測し狩猟の目標頭数が設定され    る。狩猟の進行状況は,猟期を通じて管理されるようである。
  ②旧西ドイツのアカシカ・マネ-ジメント
    樹皮剥ぎや新芽採食による森林被害を軽減するため,生息密度は1Km2 当たり1.5~      2 .5 頭に抑えるようにマネ-ジメントされているが,餌条件が良ければ1Km2 当たり     4.0 頭にでも許容されるとのことである。猟区では,その個体群の許容密度を決定し,  その数を超えた区域で狩猟を行う。個体群の年齢構成が10歳以上の角が最大になるオ  スを含む理想的な状態を保ち,年間増加数だけ間引かれるよう狩猟数が計画される。
また,森林被害対策として冬期間の餌条件を改善するため,森林内に餌場を設け給餌することや忌避剤の散布,樹木の幹へのネット巻きなども行われているようである。
  ③アメリカ合衆国の保護管理
    欧米では,野生動物を資源として捕らえ,収穫量の確保すなわち狩猟の永続性と森林や    農業への被害軽減の観点からシカの個体数管理を行っている。個体数管理には,生息頭    数,年齢構成,増加率を常に把握し,収穫量確保および被害防止のために最適な生息密    度を設定し,毎年の増加分だけ狩猟により間引いていくという考え方である。
  冬期間の給餌は日本では行われていないが,資源としての野生動物の確保,餌不足から発生する樹皮剥ぎなどの被害防止の目的で行われているが,これはマネ-ジメントが完全にできる体制でないとだめで,日本では困難であろう。
 2)荒廃移行地への流れ
  森林が荒廃し,森林への回復・再生が困難となってしまった荒廃移行地の状況を私なりにまとめてみた。
  ① 荒廃した森林は,伐採直後の豪雨・大雨等による凹部地形や沢部の山腹崩壊による拡  大(直接的影響)とシカ被害(食害・踏圧)による植物の減少・構成植物の変化・植物  の単純化および表層土(A層)の移動と流出に起因する。
  ②その他の森林には,顕著な被害が見られなかったものの,荒廃移行地の予備森林として  位置づけることができる。これらの林分は,今後のシカの個体数増加によって,その被  害程度が決まってくるであろう。
 ③ シカ被害が顕著になりつつある場所は,伐採後30年以下の林分で特に15~25年生の  ものが多い。これは,伐採によって林床植物が飛躍的に増えたために,餌場としてシカ  が誘引されたものと思われる。現状の荒廃移行地は,まだ嗜好性の高い林床植物がある  ことから,今後被害が激しくなることが予想される。このような地域での施業には,慎  重な配慮が必要である。
 ④ シカ被害は,森林が低木の個体種が多いために枝葉摂食(木の先端や枝葉の摂食)を主  としているが,亜高木種に対しては,樹皮摂食(幹や枝の樹皮摂食)や角こすりによる  剥皮が多い。その他には,踏み荒らしや引きちぎりなどがみられた。
 ⑤ 被害の発生・拡大は,経済林伐採による森林の草原状態で,草食動物であるシカにとっ  て格好の餌場となるような栄養豊富な植物が提供されシカの繁殖が促された。 
 ⑥ シカ防止柵が実施してあるが,ほとんどが破損状態で効果を果たしていない。
 ⑦ 荒廃移行地は,まだ顕著な裸地化状態にないものの,凹地形箇所や沢部,急峻地におい  て,林床が裸地化し表土が移動・流出し,林床が大小の礫と枯損木・倒木等で堆積して  いる。渓床も流木が多く認められた。
 ⑧ 亜高木種がまばらに低木種と草本種が生育している。木本種は,ヒメシャラが優占状態    にあることから,表層の移動・流出を阻止することができれば,ヒメシャラで10~20     年の寿命が考えられるので,表層の移動・流出対策は重要である。
 ⑨ 埋土木本種子の生存年数は,確認されたアカマツ・ヒノキ・スギ・コウヤマキ・モミ・    イヌツゲ・ムラサキシキブで1~2年,イロハモミジで4~5年,ミズキ・カラスザン    ショウ・ヒメシャラで10~20年,アカメガシワで20~23年,ホオノキ・クズ・ヌル    デで23年以上と云われている。寿命の長い種の多くは,硬実種子であると考えられて     いるが,これは一般に非硬実種子よりも水分量が少なく,外界の湿度の変動にも影響さ    れることが少ないことによる。
    郷土種であるブナ科やマツ科,バラ科,カバノキ科,クルミ科,カエデ科,ミズキ科      等の寿命は短く,いずれも5年以下となっていることから,表層土の消失は森林の回復    を大幅に遅らせることになる。
    埋土種子(土壌シ-ドバンク)は,5cmまでの表層に全埋土種子の80%以上が存在し     ていると云われるが,モミ・ツガ二次林では10~14cmの層で密度が最大となること     から,表層土の消失が顕著になる前の対策が重要である。調査の結果,既に表層土が消    滅した箇所も見られた。
 ⑩ 枝葉摂食は,スギ・ヒノキ・スズタケ・ノイバラ・イヌツゲ・ツルアジサイ等各種雑草    種である。意外とヒメシャラの稚樹・幼樹は被害が少ない。ヒメシャラ被害は,亜高木    ・高木に生育してからの,樹皮摂食や角こすりによる剥皮が主であるが,枯死に至って    いるヒメシャラは見られなかった。
    剥皮若しくは葉の採食がほとんど見られない種は,ヒメシャラ・アセビ・イワヒメワラ    ビ・ヒカゲノカズラ・バイケイソウである。

  以上の状況から,森林が荒廃,森林への回復・再生が困難となってしまった荒廃移行地の原因は以下のように考えられるであろう。
  ①林床植物の植被率(被度・群度)の低下が顕著となって,地面の裸地化現象・下草量の  現象・不嗜好植物(アセビ等)の出現で,森林への被害が徐々に拡大しつつある。
  ②ササ類(スズタケ)の枯れた桿が目立ちはじめ,葉が疎となるかほとんどない状態とな  っているために,もはや森林としての機能は消失し視界が開け草地化している。
  ②コガクウツギ・ミヤマイボタ等,萌芽枝先に食痕がみれら盆栽樹形を呈しはじめた。更  には,不嗜好植物のアセビ・イワヒメワラビ・ヒカゲノカズラ・バイケイソウのみが生  育している単純な土地価が低い階級下のない低次の植物社会になりつつある。

  かくのごとき状況から,シカによる被害程度は徐々に強い影響を受けつつある。今後の温暖化による生活環境の好転は妊娠率を100%近くにさせ個体数の増加となって,それによってもたらせる餌不足は,更なる荒廃地移行地の拡大となっていくであろう。今後の個体数の更なる増加によっては,健全な若齢林および成熟人工林が荒廃移行地の予備軍となる可能性が高い。従って,荒廃移行地の崩壊と拡大は下流へのインパクトも高く,これを阻止する重要性・必要性は高く緊急を要するであろう。このままの荒廃は,純粋自然回復のための基盤が創出できないハゲ山を意味するのである。
  なお,尾鷲森林管理センタ-では大杉谷においてシカによる森林被害が顕著であることから,試験的な防止柵等を配置し水源の森林づくりに積極的に取り組んでいるが知られている。しかし,私が見た父ヶ谷は,シカの顕著な被害がこれまで報告されていないこともあり,対策が後手に回っているように思われる。このままの現状森林の放置は,大杉谷における森林被害の大きさまで推移することが危惧されるところである。
  森林の荒廃移行・拡大は,シカの食害から父ヶ谷の森林を守れるか,シカ等野生動物との共生をどのように考えていくかに委ねられるであろう。
  シカの生息は,積雪によって制限され,多雪地帯では低標高地への季節的な移動を行う。このために,越冬地では森林被害が激しくなるのであろう。私が調べた大台ヶ原周辺の森林は,日光の森林や丹沢の森林と同様の問題を抱えてしまった森林であるに違いない。      
 普通,シカが群れ生活を営むための良好な環境は,1Km2あたり30頭を越える生息密度となる。このために,大台ヶ原(大杉谷)のような生息密度の高い地域では,嗜好性の高い植物の減少,構成植物の変化等,植生環境に変化が生じてくる。被害の形態は,生息環境によって多様である。
  父ヶ谷は,今のところ大台ヶ原(大杉谷)のような生息密度の高い地域には至ってはいないものの,その方向に移行しつつあるのではないか。たしかに,現状の成熟林や壮齢林・老齢林の伐採後の植林によって人工の若齢林および幼令林が出現した。そのために,林内の相対照度が明るい光環境となり林床には植物が繁茂してしまい,シカにとっての良好な餌場を提供してしまったことによるシカの個体数の増加が起こってしまったことであろう。要するに父ヶ谷の造林地はシカを誘因してしまったのである。この良好な餌条件なるものは,今後更なるシカの個体数増加となり景観的森林や生態的森林の健全度が著しく低下し,土地価の低い森林に落ちぶれてしまうことであろう。
  シカの生息環境たるものは,暖温帯の常緑広葉樹林から冷温帯の落葉広葉樹林,亜寒帯の常緑針葉樹林に至るまで幅広いものであるに違いない。この大型哺乳類であるシカの完全なる草原は生息に適していないようで,森林と草原の境のエコト-ンと呼ばれる領域に適した動物であるとされる。エコト-ンでも,子ジカを連れたメスは血縁関係のあるメスの群れを作って餌の豊富な草原部分を主要な生息地とするのに対して,オスはメスの群れを取り囲むような形で,主に単独行動でほとんどが森林の中を生活形とする動物である。従って,シカは,オス,メスを含む大きな集団で生息するものであり餌となる植物がある限り一定の地域の中で際限なく個体数が増加していくに違いない。シカは捕食者喪失など生息数のコントロ-ル要因がなくなると,生息数は爆発的に増え(エラプション),食べられる植物は全て食べられ植生は壊滅的な影響を受けることになる。そして,その後に起こるのは,生息数の激減(クラッシュ)であるとされる。増えすぎたシカは,自身を絶滅の危機に追いやる可能性があるとともに,その地域の自然植生に壊滅的な打撃を与える。つまり,シカは森林を草原化する力をもっていることになるのである。
  シカは,草食動物で植物の中では葉を主食とし,木の葉はあまり食べない動物である。このような草食動物は,グレイダ-(木の葉食い)と呼ばれている。また,シカの生息適地は本来平野部であり険しい山岳地帯ではないとされる。しかしながら,シカは優れた移動能力と環境適応力をもっているために,人間の力が発揮できない山岳地帯に新たな生息地を求めていったのであろう。
  シカの採食種は,1,000種以上と云われておりほとんどの植物を食べることができる。これらの植物種の中から,植生の違いや四季の変化に応じて流域毎か林相毎にメニュ-を組み立てていることが考えられる。冬季は餌が少なくなるためにスズタケ等のイネ科草本に依存していることは,全国的に共通しているであろう。シカは条件に応じて,栄養価の高い木本の葉を選択的に食べるブラウザ-にも,繊維質の多い草を非選択的に食べるグレ-ザ-にもなりうる動物である。従って,今年に採食されていない種が周年を通じては採食される可能性が高いに違いない。なお,アセビ・トベラ・ナギなるものは,私の調べてきた結果から,シカの食性に不向きな特定種であると断言できる。父ヶ谷では,アセビが多く生存・生育していることから,この地のシカ社会はアセビに不嗜好性が特に強い傾向をもっていると云えるであろう。

 結果,私の見てきた丹沢や足尾などは高密度な生息環境にさらされているものと考えられるが,生息数の激減に至っているとは未だ聞いていない。これは何を意味するのであろうか?私たちは,あまりにも食物連鎖とかその捕食性とかによってシカの個体数が決まるものと勘違いしてはいないだろうか?ここで,この常識を非常識として考えて見る必要はないだろうか?要するに常識の非常識としてシカの個体数を捉えてみることだ。そうすると,シカの個体数なるものは食物連鎖なるもので決まるわけでもないのではと云う疑問が起こって来るであろう。シカの個体数なんてものは,シカの起源から永い年月をかけてきたシカの種社会なるものの系統とかシカが動物社会で占める位階なるものによって決まっていることも考えられるではないか?何もシカを捕食するオオカミが絶滅したからシカは増加したんだと単純に考える必要はないのである。そういう単純性は,海外からオオカミを輸入してニホンオオカミの役目をこの輸入オオカミに代役としてやって貰おうなんていいだす浅はかな学者まで出現してしまうのである。

  なお,父ヶ谷において荒廃の主なる要因はシカの摂食害と思われるが,現地を歩いた結果や既存気象資料等の結果から,下記の①と②を特に指摘したい。

 ① シカの増加は,冬の厳しさや生息地の積雪状況が,10年来続いている暖冬で緩和さ     れたことによる。
 ② 経済木間伐による生息環境の変化(草地の出現)に伴う餌量の変化が,雌の成長や体
    長に影響を与え,繁殖率を高めている。