初めて冬獅郎を、ここに連れて来たのは、愛染の偽殺害事件の後だった。冬獅郎は隊士にはもちろん、他の隊長格にも何一つ変わらない態度で接していたが乱菊が席を外して戻って来ると一人窓際に立ち深いため息を吐いているのをよく見た。家族である雛森に躊躇いなく斬りかかられた事が少年の心に深い傷を創ったのだ。水仙に囲まれた芝生で乱菊に無理矢理膝枕されたが冬獅郎は、疲れた様にあまり抵抗しなかった。ばかりか、クルリと向きを変えて乱菊の腹部に顔を埋めた。銀髪を指で梳き髪にくぐらせ。形の良い頭を撫でると微かな震えを感じる。
それがまるで雛森への気持ちの欠片のようで乱菊の心を傷つけた。
乱菊にとって冬獅郎は上司
、仲間の枠を越え身内の様に親しみ家族の様に思えていたからだ。
けれど、冬獅郎の嘆きを見るにつけ、冬獅郎の家族は雛森なのだと
想い知らされる気がした。
そうしている内に落ち着いたのか、くぐもった冬獅郎の声がした。
「松本……今この場限りの泣き言だ。聞いたら直ぐに忘れてくれ」
「……はい。」
「雛森の奴、家族『なのに』躊躇い無く斬りかかってきやがった」
ここで雛森の悪口の一つたも言える気性なら乱菊の人生は遥かに楽だっただろう。乱菊は直ちにに冬獅郎の心の傷の修復に入った。
「たいちょそれ違います。家族『なのに』ではなく家族『だから』です」
「どういうこった?」
冬獅郎は起き上がって首をかしげた。そして、乱菊の背に凭れて座った。
「敬愛する隊長の死を目の当たりにして混乱したと思うんです」
「そうだな」
一応は落ち着いたのだろう、素直に頷いている。
乱菊は髪を引っ張られる。
冬獅郎は手持ちぶさたになると、よく乱菊の髪を指に絡ませている。