[国立公園鉄道の探索]
伊達盆地の農園を訪ねる
阿武隈急行線の向瀬上で降りて、伊達盆地(福島盆地の北東部)の一角で自然農園を営む友人宅を訪ねました。
駅まで迎えに来てもらい、まずは展望台のある愛宕山に向かいました。
愛宕神社は徒歩5分と記されています。
向瀬上駅は「ももの里」と愛称されていますが、
桃園は、ここから少し離れた伊達市内に入った伏黒地区で多くみられます。
福島市に入っている向瀬上駅周辺にはリンゴ園が広がっています。
福島盆地では、明治中期以降果樹栽培が盛んになり、ここ瀬上や伊達ではリンゴ園が拓かれています。
福島県のリンゴ生産量は2022年産で23700tに達して、全国5位の生産量になる、ということです。
本年はそれ以上になるのかどうか。
見事に育ったリンゴがみられました。
さて、友人の車に乗せてもらい愛宕山へやってきました。
ここには展望台があり、福島盆地の変わり目の地勢が遠望できます。
福島盆地は、ここ瀬上付近を境目として、
南東部の信夫盆地、
北東部の伊達盆地
と概観されることがあります。
福島盆地南東部の信夫盆地を流れる阿武隈川は、盆地西部の急峻な山岳地帯から流れ下る松川や荒川などが造り出す複合扇状地に押される形で盆地東部の山に沿って流れます。
向瀬上駅付近でも、福島盆地東縁丘陵地帯の一角・愛宕山の真下を流れています。
瀬上地区を抜けると、阿武隈川は伊達盆地と呼ばれる福島盆地北東部に進んで行きます。
標高の高い信夫盆地を抜けだした阿武隈川は伊達盆地に入ると、ほぼ中央を流れていきます。
河床の低下、丈夫な堤防の構築、といった河川改修が行われる以前は、幾たびか流路を変えたこともあったようで、
伊達盆地では鮮明な旧河道地形も見られます。
愛宕山展望台から伊達盆地の沃野を望みます。
友人の自然農園に到着しました。
脱穀も終わっておりましたが、この夏の猛暑は、ここで育つ作物にも大きな影響があったようです。
これは、後に友人から指摘されたのですが、
稲刈りが終わった後の水田、
稲株が斜め方向にも綺麗に揃っています。
機械で植えた場合はこうはならない、
目盛りを付けた針金を定規にして一定間隔で手で植えた時、このような揃った稲株が出現するそうです。
こうして約40cmメートル程の間隔を開けて稲を栽培することにより、化学肥料もいらなくなり、いもち病など稲の病気も抑止され、それでいて一反あたりの収穫量はほとんど変わらない、とのことです。
蜂蜜づくりも行われています。
ミツバチの様子も特別に撮影させてもらいました。
蜂蜜は花の種類によって味が変わりますが、これは率直にいってどれも美味い。
飲み比べならぬ舐め比べをさせてもらいました。
向って左側の瓶の蜂蜜は柿の花のもので、独特のコクがあり、私にとっては一番合う、と感じられました。
向って一番左側の瓶の蜜は、ウリ科のツル植物・アレチウリの花のもの、とのことです。
これがまた、南欧的風味とでもいいますか、驚くほど甘美です。
特定外来植物の指定を受けたアレチウリは、農地に侵入すると莫大な被害を発生させ、駆除しなければならない植物です。
日本生態学会は「日本の侵略的外来種ワースト100」に選定しているようです。
河川敷に多く群生して、農地を侵略する恐ろしいアレチウリは、意外な一面も持ち併せているようです。
幾つもの興味深いものがある友人宅の中で、特に面白いと思ったのがこの冷房機です。
この冷房は、化学的冷媒は使われていません。
地下水が通されています。
地下水をコイルに通して、後ろのファンで風を送って室内を冷やす、というシンブルな構造の空調設備です。
地下水の温度は通年14℃、
この夏は福島地方でも39℃に達する猛暑日が続いたようですが、地下水を利用した空調が効いたこの部屋は寒いほどであったそうです。
通常のエアコンのように、圧縮~凝縮~膨張~蒸発 という冷凍サイクルではないので、使用する電気量は10分の1程度であったはずです。
空調で使われた地下水は、ホースで農地へ導かれ、そこでスプリンクラー散水で作物涵養に利用されたそうです。
自然水をリサイクルする古めかしい空調設備、
大量生産、大量消費、大量廃棄の時代に対するアンチテーゼのような存在と感じられました。
廃棄せずに、よくメンテナンスを続けて残してくれた、と思わずにはおられませんでした。