幼い頃から、ストーンだのハムスターだのと興味を示しては、自分でどんどん調べていた長女とは、正反対の性格の次女。


「めんどくさい」が口癖で、自分から積極的にやることといえば、アニメやマンガに関することばかり。


その彼女に、異変が起きています。


勉強に目覚めた…というわけではありません。



次女が今、人生最大の危機感をもって取り組んでいるのはトロンボーンなのです。


読譜力が発展途上中の彼女は、よく譜面を持ってきては「これどういうリズム?」と質問してきます。


吹奏楽の曲はポップなものが多く、シンコペーションが多用されているため、譜面がちょっと複雑です。


拍をとりながら教えますが、理解すると、今度はCDを聞きながら自分でリズム打ちをしたり、得意の「ピアニカ」を吹いたりしておさらいして、身につけていました。



「マンボウ」も、えさをつかまえるときなどに結構なスピードで泳ぐことがある、とウィキに書いてありましたが、今の彼女はそんな感じだわ、とちょっとうれしく思っていました。


それが、合宿に行く前の日の夜のこと。


ごはんを食べながら、思い詰めたような顔をして

「私、吹奏楽部辞めようかな」と言います。

「なんで? 友だち関係?」

「ちがう。だって、できないんだもの。私みたいに下手なのは、辞めた方がいいんだ」

めったにネガティブなことを言わない次女なのに、一体何があったのかというと…


今度のコンクールには二つのグループに分かれて参加することになりましたが、次女は先輩方とは別グループ。

中1の後輩と二人だけでトロンボーンを担当することになったのだそうです。


これまでは先輩にくっついて、出だしのタイミングなどもはかっていたのに、それができなくなってしまったのでした。


後輩に質問されてまちがったことを教えてしまうし、練習を見に来た先輩には「できていないよ」と叱られるし…


さすがに脳天気でマイペースな彼女も、窮地に立たされているというわけです。


「二人でパート練習をやっているときにはできるのにね。みんなで合わせると、どこで入ればいいのか、わからないんだよ。わたし、バカだから。…もう、合宿行きたくない」

泣きそうな顔をしています。


「ああ、それわかる! 私も器楽部(オーケストラ)のとき、変なところで弾いちゃったり、ずれちゃったりして友だちと爆笑してたよ。休みが多いと、数えていてもわからなくなっちゃうんだよね」


「それは、どうすればできるようになるの?」


「最初は仕方ないんだよ。そのうち慣れてきて、わかるようになるから。そうなるまでがつらいんだよね」


あまり実効性のないアドバイスに、深いため息をつく次女。


適当に流していても、たいていのことは何とかなっていた彼女にとって、初めての試練のときです。


そして、こんな試練こそ、彼女に味わってほしいと願ってきたことでもありました。


自分でなんとかしなければどうにもならないんだよ。


口でいってもなかなか教えられないことを、部活で教わっているように思います。


楽器の演奏であれスポーツであれ、苦しい状況を自分でなんとかして乗り越える経験を積むことが、たくましい、生きる力になるはずです。


合宿も今日で4日目。


まだべそをかきながら吹いているのかな。

もう、上手にできるようになったかな。


お菓子もジュースも携帯も禁止の、吹奏楽漬けの5泊6日。


あさっての「帰還」が楽しみです。