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201841日。春風に桜が舞う、よく晴れた日曜日のエイプリルフール。

「あれから一年。一年かあ」

桜の木を見上げ、オレはそうつぶやいた。オレたち家族にウソみたいなホントのことが起きたのは、今からちょうど一年前の2017年の4月1日だった。その日はオレの弟 大介の結婚式で、その結婚式当日の朝に、父がお空の星となったのだ。よりによってなんて日に!そう思うかもしれない。でもこれが、家族を心から愛した男の、なんともロマンチックな最期だった。


 

あれから一年。

本当にあっという間だった。歳月の遠慮のないスピード感には毎年ホント驚くのだけれど、この一年はなんだかその"はやさ"とはちがっていた。家族がみんなで手を取り合い、ともに励まし合い、そうやってそれぞれに前を向いて歩いてきたからなのかもしれない。


弟夫婦は、新婚生活を謳歌している。ふたりともホントに仲が良くて、母もオレもそれをとても嬉しく思っている。

 あるとき、ネズミが出た!とふたりが実家に逃げ込んできたことがあった。嫁のリカちゃんは、ミッキーマウスは大好きだけど、ネズミは大嫌いなのだ。とはいえ、相手はミッキーマウスだ。いつまでも実家に避難しているわけにもいかない。そんなリカちゃんに母はこう言ったという。「リカちゃん。強くならなくっちゃね」ふたりは自力でミッキーマウス駆除をし、まもなく元の生活に戻っていった。


大丈夫大丈夫!あれはミッキーマウス♬

あの家はディズニーランドさ♬


オレのこのシャレのきいたことばに、リカちゃんがちょこっとだけムスっとしたことも、今となっては楽しい笑い話だ。

 そんなリカちゃんは、本当に母のことを大切にしてくれている。時間をみては大介と一緒に実家に顔を出し母と時間をすごしてくれる。今思えば、あのネズミ騒ぎも、一人寂しく家で過ごす母を気遣った、彼女の優しさなんじゃないかと思うくらいだ。それくらい、彼女は母のことを大切に思ってくれている。ホントに感謝しかない。


「大介は最高のひとに出会ったな」


きっと、父はそんなふうに喜んでいるにちがいない。こんなふうにして、弟 大介は父が亡くなってなお、今もこうして父と母に親孝行をしている。



母はといえば、あれから毎日元気に過ごしている。と言いたいところだけど、やっぱりそんなに簡単じゃない。最愛のひとがいなくなる現実。一年経っても、やっぱりまだどこか寂しそうにしている。今でも父の話になると母は涙を流すくらいだ。

 でも、だからといっていつも落ち込んでるわけではない。お隣さんやお友達が、母を気遣って食事に誘ってくれるので、母は母なりに楽しい時間を過ごせているようだ。最近では、近所に友達もできたという。そんな話を嬉しそうによくしている。

 もともと明るいひとだから、ゲラゲラ笑うこともよくある。そんな顔を見ると、なんだかホッとする。父は亡くなる数日前、病床で「これからは栄ちゃん(母)をたくさん笑わせたいんだ」そうオレに言った。その願いは、オレと大介に託されたと思っている。だから、ゆっくり。ゆっくりでいいから、母には元気を取り戻してほしいと思っている。



オレはといえば、【11爆笑】というスローガンを掲げるようになった。実家に帰ったときは、母を11回必ず爆笑させるという自分だけのゲームみたいなことをやっている。そして、今日もよく笑ってたよって、仏壇の父に報告するのが日課になっている。日課といえば、オレが実家に帰ると必ずやることがある。それは母をマッサージすることだ。父の介護で痛めた腰は、背骨湾曲症といって、背骨が正面から見てもS字に曲がっている病気からくるものだった。長く立っているのがしんどいようで必ずマッサージをせがんでくる。


「ねえ、マッサージして」

「またかよー!」


と言いつつ、いつまでも元気でいてくれよと、そんな想いでいつもマッサージをしている。まあ、たいてい母は打ち上げられたトドのようにすぐに寝るのだけれど。


そんな毎日を過ごしながら、オレはあいも変わらず好きなことをひたすらやっている。でも、そんなオレにも、この一年でひとつだけ大きく変わったことがあった。それは、命について考えるようになったことだ。母よりは絶対に長く生きなくっちゃいけない。それが最低限、オレがやらなくちゃいけない命との向き合い方だと、そう思うようになった。

 

あるとき、去年の夏だったかな。突然血尿が出たことがあった。街の小さな泌尿器科に行って検査をしてもらったところ、もしかするとガンかもしれないと言われ、大きな病院での再検査をすすめられた。ガンの可能性が10%あると。


もしかしたら、母より先に


一瞬最悪の事態が頭をよぎったが、結果はガンではなく腎臓結石だった。命が蘇ったみたいな安堵感だった。この日から、命をもっと大切にしようと思うようになった。オレの命は、オレだけのものじゃない。ちゃんと命と向き合って生きなくちゃいけないと。

 そして、この頃からだろうか、オレもいつの日か、父が作った家族というものを作ってみたいと、柄にもなく思うようになったのは。いや、正確には早いとこ家族を作らなくっちゃ!命には限りあるんだから!だ。


えーっと、今すぐ結婚したとしてこどもができてー、その子が20歳のときオレは?げ!!60とっくに過ぎてるぅー!


みたいな、よくある想像をひとまずしてみたりした。まずは想像からだけど。

 そんなふうにして、父がいなくなってから命というものについて、家族というものについて考えるようになっていた。



あれから一年。


今、オレが思うこと。それは


家族って素晴らしいなあ


ってことだ。こんなステキな家族を作った父と母ってすげーなあって。家族というチームを作り、オレと大介に命をプレゼントしてくれて、愛を教えてくれたんだから。もうありがとうしか出てこない。いなくなってなおも、オレたちに家族の大切さを教えてくれるんだから、ことばもでやしない。けど、ことばは出ないのだけれど、ちゃんとことばにしたいと思う。そのことばを今日41日に、お空の星に届けたいと思う。



父よ。今日はあなたと栄ちゃんが散歩していた公園に花見に来たよ。


父よ。今夜はあなたの大好物 栄ちゃんのミートソーススパゲティーだよ。


父よ。たまには栄ちゃんの夢にも出てきてやって。見てみたいらしいよ、ふたりで一緒にいる夢。


父よ。家族っていいものなんだね。オレもそんな家族作ってみたいよ。


父よ。あなたが大切にしてきた家族は、今もこうしてみんなで仲良く楽しくやってるよ。


父よ!聞こえるかい!


父よ!聞いてるかい!


父よ!!


素晴らしい家族をありがとう!!



父よ!!


父よ。


あなたが作ったこの家族、一生大切にします。



家族代表 オレより。



おしまい


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