【はじめに】

このお話は、喉頭がんとたたかう父に贈ったロマンチックな紙芝居です。



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イノチくんとオモイデくん



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あるところに、イノチくんという元気のない男の子がいました。ある日イノチくんは、オモイデくんという元気な男の子に出会いました。


オ) やあ!どうしてこんなにお天気なのに、キミのところだけ雨が降ってるの?
イ) ちょっとイヤなことがあったからかな。
オ) どんなこと?
イ) ボク、病気なんだ。ガンていうこわい病気。
オ) ガン!?ガーン!!



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イ) わるいんだけど、ひとりにしてくれる?
オ) あれ、今のダジャレおもしろくないの?
イ) ガンなんだよ、ボクは。
オ) うん、だからダジャレ。ガンはキミが笑うと逃げていくからさ。
イ) ガンが逃げていく?
オ) ガンてね、すごく弱虫なんだ。キミが笑えば、勝てないよー!ってすぐに逃げていくんだ。
イ) そうなの?
オ) じゃあ次ね!ボクサーはボクさー



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イ) ちょっと待って!またダジャレ!?
オ) うん、おもしろいでしょ!
イ) …ううん、全然。
オ) またまたあー!じゃあ次はこれ!キリンがトイレですっキリン!どう!
イ) え、おもしろくない…。
オ) はっはっはっー!じゃこれでどうだあ!取りにくい鶏肉ぅーっ!!
イ) …つまらない
オ) ガーン!!



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イ) アハハ!それはおもしろい!!
オ) あ!やっと笑った!キミが笑うこと。これ大切!
イ) そっか、ガンて弱虫なのか。
オ) うん、だからすぐに弱音もはくよ。
イ) 弱音?
オ) ガンは暑いのが苦手だから、暑いとすぐに弱音をはいて逃げ出すんだ。
イ) そうなんだあ。
オ) だから、まずはカラダをあたためるといいんだ。はい、これあげる。



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オモイデくんは、イノチくんに手袋をあげました。

オ) あと、これとこれとこれとこれもあげる。



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オモイデくんは、帽子とマフラーと腹巻きと靴下をイノチくんにあげました。

オ) これでカラダをあったかくしたら、ガンは暑くて逃げてくよ!
イ) ありがと!
オ) カラダをあたためる。これ、大切!
イ) なんかちょっと元気でてきた。でも、これだけじゃやっぱダメなんだろうなぁ。
オ) どうして?
イ) だって、そんなすぐに元気になったら病院なんかいらないでしょ?



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オ) じゃあクイズね。イノチくんが持っているもので、イノチくんが元気になるために一番必要なものってなーんだ?
イ) ボクが持ってるもので?なんだろう、わかんないなぁ。

オモイデくんはにっこり笑って言いました。

オ) 正解はね、思い出。
イ) 思い出??



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オ) イノチくん、キミにはたくさんの思い出があるでしょ?家族みんなでいろんなとこに遊びに行ったよね?春は公園で野球や凧揚げをしたり、夏は海に行って泳いだり釣りをしたり、秋は動物園や遊園地に行ったり、冬は雪山でソリをしたりクリスマスパーティーもしたよね。みんなでおいしいものもたくさん食べたし、旅行にもたくさん行ったよね?
イ) うん。
オ) そうやって、みんなで作った思い出ってキラキラしてるでしょ?そのキラキラってね、明日を生きるためのパワーになるんだ!
イ) パワー?



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オ) そう!思い出の数だけ、キミは強くなれるんだよ!
イ) ボクが強く?
オ) うん!だから大丈夫!イノチくんには、明日を生きるためのステキな思い出がたくさんある!弱虫なガンが勝てっこなんかないから!
イ) ねえオモイデくん。どうしてキミは、そんなにボクのこと知ってるの?

オモイデくんは、またにっこり笑って言いました。



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オ) それはね、ボクがキミの思い出だから。
イ) ボクの思い出?
オ) キミが忘れちゃってんじゃないかと思ってね。キミの前にあらわれたんだ。思い出した?キミのステキな思い出?
イ) うん、すごくキラキラしてる。

イノチくんは、涙を流しながら笑顔で言いました。



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オ) その笑顔があればもう大丈夫!
イ) ひとりじゃないんだね、ボク。
オ) キミには家族がいる!ボクがいる!これからも、ボクたちはずっと友達だ!
イ) うん!ボク、強くなる!

イノチくんとオモイデくんは握手をしました。

オ) よし。じゃあ、ボクはそろそろ帰るね。
イ) ありがとう、オモイデくん。
オ) うん。またね、イノチくん!

そう言うと、オモイデくんはゆっくりとイノチくんの胸のなかに帰っていきました。



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気づくと、イノチくんの上に降っていた雨は上がり、空にはきれいな虹がかかっていました。イノチくんは、笑っていました。その笑顔は、思い出とおなじくらいキラキラに輝いていました。


ガンは弱虫。オモイデくんとトモダチになったイノチくんにはかなわない。

これは、イノチくんとオモイデくんの友情のお話。

おしまい。


【あとがき】

2017年4月1日。父は喉頭がんとのたたかいの末、この世を旅立ちました。そんな父に、オレはこの紙芝居を贈りました。亡くなるまで2回読みました。1回目は、ガンがもう完治しないと分かったとき。家族で行った箱根旅行で、もう歩くのが精一杯の父に読みました。2回目は、亡くなる2日前。病室で意識が混沌とする父の枕元で弟の結婚式に出ような!って、読みました。オレから贈る父への最後のプレゼントでした。

この紙芝居が、ガンとたたかうひとの、そして、オレと同じように、ガンとたたかうご家族のみなさんの、ささやかなパワーになってくれたら嬉しいです。

こくぶ たかし