その民宿は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。となりの部屋とはふすまでつながってるような、合宿所のような宿だった。


オレたちは、熱海駅で買って冷やしておいたビールを出し、乾杯した。

もちろん、今日というロマンチックな夜に乾杯だ。ビールを2本くらい飲んで、ロマンチックに花が咲いた頃だったと思う、ふすまをノックする音が聞こえてきた。

「すいません」

男の声だった。

「どうぞ」

すると、そこには、二十歳そこそこのカップルが、浴衣を着て立っていた。

「すいません。このへんに、ビールって売ってませんか?」

二十歳そこそこの彼氏が遠慮気味に言った。そう、初島にはコンビニなどないのだ。

「上のエクシブってホテルなら売ってると思うよ」

「ありがとうございます!」

そう言うと、カップルはビールを買いに外にでた。

オレたちは、また三人で今日のことを振り返りながらビールを飲んだ。魚がたくさん泳いでたとか、岩場にいた子かわいかったなとか、そんなことをロマンチックに話していた。

20分くらい経った頃だったろうか、またふすまをノックする音が聞こえた。

「すいません」

さっきのカップルだった。

「ビール売ってました。ありがとうございます!あの、よかったら一緒に飲んでもらえませんか?」

こうして、オレたちロマンチックボーイズは、それが台風のまえぶれだと気づくこともなく、ふたりを部屋に招いたのだった。

乾杯のことばは、この出逢いに、乾杯!確かオレたちは、そう言ったと思う。


つづく