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その昔。ノストラダムスは、1999年に地球が滅亡するって予言した。だけど、2000年はいつもと同じように、なんの音もたてずにやってきた。


あれから11年。


地球は色々あったけど、まだ滅亡はしていない。でも、今度はマヤ暦がなんたらで、2012年に地球が滅亡するなんて言われている。

地球は、やっぱり滅亡するのだろうか。


そんな新たな地球滅亡説を耳にしたある日、オレはすべてが崩れるかの勢いで、滅亡していた。


オレには、中学のときからずっと片想いの女の子がいた。髪が長くて色が白い、アイドルみたいな女の子だった。とにかく、オレは彼女が大好きだった。

そんな彼女に、あろうことかオレはあっさりフラられたのだ。


まさに一瞬で滅亡だった。


高校3年の夏。人生初の滅亡をしたオレは、昼休みの屋上にいた。雲ひとつない青空が、やけにまぶしかった。気づくとオレは、そんな青空に向かってこう叫んでいた。


「バカヤロー!!」


すると後ろの方から、聞き覚えのある声がした。


「おいおい。青空に罪はないだろ」


コイツの名前は、たけし。セリフがちょっとくさいのには、理由があった。


オレたち2人は、小学校からの同級生だった。2人とも全然モテなかったけど、いつもロマンチックでいようって決めていた。

男はロマンチックじゃなきゃはじまんないぜ!って、いつも2人でロマンチックにやってきた。

それに、この世の中、ロマンチックがあればたいていのことはなんとかなるはずだろって。

だからたけしは、フラれたオレにくさいセリフを、いやロマンチックなセリフをあえて言ったのだった。


そして話は、オレが屋上で叫んでいたところに戻る。



「バカヤロー!!」


「おいおい。青空に罪はないだろ。」


「たけし…」


「そよ風に聞いたら、ここにいるっていうからさ」


さすがだ。さらっとロマンチックだ。

たけしは続けて言った。


「今日の青空はきれいだなあ。来年地球が滅亡するなんて、想像もできないな。」


「オレさ、フラれちまった…」


「おん」


「好きな人がいるんです、ごめんなさいって」


「そっか」


「…かっこわりぃな、オレ…」


「お前さ」


「ん?」


「あの子のこと、本気で好きか?」


「え?…好きだよ。あんな素敵な子、いないからな」


「だったら、よかったじゃんか」


「え?」


「あんな素敵な子を好きになれたんだから。あんな素敵な子に、出会えたんだから」


「たけし…」


「きっとさ、誰かとちゃんとつながってるから。この広ーい青空の下にいる、誰かとさ」


ホントは、「ナイスロマンチック!」って返したかった。けど、なんかうまくことばにできなかった。そして、そんなオレの気持ちを知ってるかのように、たけしはロマンチックを続けた。


「大丈夫だよ」


「え?」


「地球はそんな簡単に、滅亡しないから」


この場合の地球は、オレのことだ。なんか、やけに胸がアツくなった。


「あれ、なんでかな。青空って、こんなににじんでたっけ」


「そういう日も、あるさ」


「今のオレには、まぶしすぎるや」


「なあ、まさき。運命って信じるか?」


「運命?」


「うん」


「運命か。地球滅亡みたいな悲しい運命はいやだけど、幸せな運命は、あったらいいな」


「あるらしいぜ、幸せな運命」


「え?」


「へい!」


そう言うと、たけしはポケットから真っ赤ななにかを取り出しオレにパスするように投げた。


「え!?なんだよ、これ?毛糸の玉?」


「お前の運命の赤い糸だよ。」


「運命の赤い糸!?」


「自分の力で切り開くんだよ、幸せな運命ってやつを」


「自分の力で?」


「ああ。その赤い糸の端をお前の小指に結びつけろ!」


「え?」


「いいから」


「おん。え?どうすんだよ、これ?」


「あの青空に向かって、思いっきり投げてやるんだよ!」


「ええ!?なに言ってんだよ!」


「きっとどこかで、つながってるはずだから」


「たけし…」


スゲー。オレの心がそうつぶやいた。

そして、たけしは青空をまっすぐ見て、こう言った。

「まさき!青空に叫ぶことばは、バカヤローなんかじゃない!いつだって、あ・り・が・と・う・だ」


スゲー!スゲーロマンチックだ!オレの心は大絶叫した。そしてオレも、滅亡からのロマンチックをキメてやろうと思った。オレは、右手で掴んだ赤い毛糸の玉を見つめ、ロマンチックにこう言った。


「オレといつか出会うキミへ。アップルティーでも飲んで待っててくれ。これから迎えに、行・く・か・ら・さ」


一瞬、スベったかのような静寂が訪れた。でもたぶん気のせいだ。


「…うん、ナイスロマンチック!」


「サンキューサンキュー」


「よーし切り開いてやれーまさきー!!」


「よーし!せーの!」


オレたちは、声を合わせて地球が揺れるくらいでっかい声で叫んだ。


「ありがとーー!!」



オレは、赤い毛糸の玉を青空に向かっておもいっきり投げた。それはきっと、野茂英雄よりも早い玉だったと思う。

赤い糸は、青空にきれいな放物線を描いた。



ロマンチック。

アイツは、恥ずかしげもなくおもいっきりロマンチックでオレを救ってくれた。

世の中、ロマンチックがあったらたいていのことはなんとかなる。本当にそうなのかもしれない。

だからオレたちは、今日も叫ぶんだ。ロマンチックのカケラを集めて。


なんて、そんなドラマみたいにきれいに終わらないのがオレたちだ。


たけしは、速攻でオレを裏切った。


「おーいみんなー!その赤い糸は、まさきの運命の赤い糸だってさあー!ワハハ!!」

毛糸の先は、校庭のみんなのもとに飛んでいた。校舎に垂れ下がる赤い糸。校庭にいるみんながみんな、こっちを見て笑っていた。


「いや、ちがう!ちがうんだよ!たけしにだまされたんだってー!!」


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン。



こうして、オレの恋はきれいさっぱり、そして清々しく終わった。

オレは、滅亡の淵からロマンチックで生還したのだった。


そして、物語にはまだちょっとだけ続きがある。



オレは今、まるであの滅亡がウソだったかのように、立ち直っていた。


新しい恋をしているのだ。

相手は、同じクラスの瞳がまっすぐな女の子。


あの日、運命の赤い糸を投げたオレは、はじめてその子と話すことになった。

帰りのホームルームで、ちょっと許せないことがあって。


それをきっかけに仲良くなったオレたちは、それからしばらくして付き合うことになった。

彼女は、ランニングボーイズっていうバンドが大好きで、気づいたらオレもすっかり彼らの大ファンになっていた。


そして、オレは今、彼女の赤いイヤホンの左側を耳に入れ、彼女はその右側を耳に入れ、一緒に「ホントの戦い!」って曲を聴きながら学校に向かっている。

彼女のイヤホンで一緒に聴いているのは、オレの黒いイヤホンが、まだ買ったばかりだったのに壊れてしまったからだ。


でも、これってもしかしたらって思う。

そう。もしかしたら、これは運命なのかもしれないなって。


だってオレたちは今、赤いイヤホンでつながっているんだから。

それに、これはたぶん奇跡なんだけど、今彼女が飲んだペットボトルの飲み物


それはまぎれもなく、アップルティーだから。



オレの人生、今最高にナイスロマンチック!



そして、今オレは、幸せな運命の中で、最高に無敵だ!♪



2011年11月

地球は簡単に、滅亡しない!



おしまい。


※この物語は、半分フィクションです。