火沢睽 六三の易占 | 心の経営コンサルタント(中小企業診断士) 日本の心(古典)研究者 白倉信司

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六三
六三。見輿曳。其牛掣。其人天且劓。无初有終。
○六三。輿(くるま)の曳(ひ)かるるを見るに其(そ)の牛(うし)は掣(せい)、其の人は天(てん)且(か)つ劓(ぎ)。初めなくして終り有り。
角が上下に曲っている牛を御している正応上九を、額に入れ墨があり鼻を切られた罪人と勘違いする。始めは上九を敬遠するが、やがて疑念は氷解して上九と親しみ合う。
象曰、見輿曳、位不當也。无初有終、遇剛也。
○輿(くるま)の曳(ひ)かるるを見るとは、位(くらい)、当(あた)らざればなり。初めなくして終り有りとは、剛に遇(あ)えばなり。
上九を罪人と勘違いする。過ぎたる位(過剛)に居て、目が曇っているのである。やがて親しみ合う。上九に遇って疑念が解けたのである。
(占)思ってもいなかった理由で、災難を招き寄せることがあるが、一時的な誤解が原因なので、やがて解決するという占いである。
○この爻が出た時は、何事にも関わらないことが望ましい。
(占例)東京から友人がやって来て、「昔、功績を上げたある貴人から一つのことを委託されたのだが、その吉凶を占ってほしい」と頼まれたので、筮したところ睽の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
睽は自分(下卦兌)は沢の水だから下に降り、相手(上卦離)は火の性質だから上に昇るという形をしている。
すなわち、依頼者である貴人と依頼を受けた君との関係はギクシャクする時。睽は自分と相手が背き合う時である。
だが男女関係は別で、お互いに志が通じ合う。だから彖伝に「睽(けい)は、火動きて上(のぼ)り、沢動きて下(くだ)る。上卦離(火)が上に進み、下卦兌(沢水)は下に進む。お互い向かうところが異なり背き合う形」と云い、「男女睽(そむ)きて其(その)志通ずるなり。男女も時に反発し、相交わって子孫が繁栄する」と云う。
また、睽の卦德については「説(よろこ)びて明に麗(つ)き、柔進みて上り行き、中を得て剛に応ず。是(ここ)を以て小事は吉。「悦んで(兌)明に麗く(離)」という性質があり、柔順な天子六五が中庸の德を得て剛健な家臣九二と志を通じている。全体を和合一致させることはできないが、柔順な天子と剛健な家臣が志を通じて、小事は成就する」と云っている。
以上のことから、君にあることを委託した貴人は、婦人を使いとして君に頼んできたのではないだろうか。婦人を通して君に何かを伝えようとしているのかもしれない。「小事は吉」の意味をよくよく考えた方がよいだろう。
爻辞には「輿(くるま)の曳(ひ)かるるを見るに其(そ)の牛(うし)は掣(せい)、其の人は天(てん)且(か)つ劓(ぎ)。初めなくして終り有り。角が上下に曲っている牛を御している正応上九を、額に入れ墨があり鼻を切られた罪人と勘違いする。始めは上九を敬遠するが、やがて疑念は氷解して上九と親しみ合う」とあるが、牛は陰であり人に制御される存在である。婦人もまた陰であり男性に制御される存在である。
睽の時は、五爻(上位)の貴女が二爻(下位)の男子に身を任せて、上下逆さまである。このことを「輿(くるま)の曳(ひ)かるるを見るに其(そ)の牛(うし)は掣(せい)」と云うのである。
よって、君がこの委託を受けると、婦人が絡んだ事件が起こり、貴人から責められて、面目を失い、多大な損失を出して、過ちを償うことになる。このことを「其の人は天(てん)且(か)つ劓(ぎ)。額に入れ墨があり鼻を切られた罪人」と云うのである。
一つの委託を受けたばかりに、このような顛末に巻き込まれる。このことを「初めなくして終り有り」と云うのである。
貴人の委託を受ければ、凶運を招くことは以上のように明らかなので、君は決して委託を受けてはならない。
友人は易占を深く信じていなかったので、この易占に従わなかった。
終には、この易占で示したような顛末に巻き込まれて、大いに後悔したのであるが、幸い、この易占を事前に聞いていたので、途中で身を引いて大事には至らなかったと云う。
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