Continues with Wings 君の心に翼を | 桃象コラム

桃象コラム

音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

いよいよ今日となったパレードを前に、仙台はなにやらすごいお祭り騒ぎになっているようなのですが、私はまだContinues with Wingsを引きずっております。はい、4月13日の初日を見てきました。

 

あれからライブの余韻にひたりつつ、録画したCS放送を繰り返し再生しちゃっているわけですが、考えてみたらあのショーを見られた人数ってすごく限られている。3日分の会場の観客と最終日のライブビューイングの観客、そしてCS放送加入者だけというのは意外に少ない。来月、3日分すべて放送されますがこれもCS。そのうちにメイキング映像を加えた映像がブルーレイなりなんなりで販売されるような気がしています。テレビ朝日さんがんばれ。

 

いやー、しかし、ものすごく濃いショーでした。終わってから時間を経て感動が熟成するというか、ああ、こんな意味があったんだ、あんな意味があったんだと思いつくばかり。

 

これはあくまでも羽生さんによる羽生さんのための羽生さんのショー。凱旋公演というとチャンピオンの実績を讃える方向性で演出を考えそうなものですが、このショーはあくまでも羽生さんがこれまで教えを請いてきた人や影響を受けてきた人たちへの感謝を表すためのショー。羽生さんの好きなスケーターに出演を依頼し、好きなプログラムを滑ってもらう。ある意味で、世界一のスケーターであり、世界一のスケオタだからこそできる企画です。

 

公演の看板にも、プログラムの表紙にも、チケットの券面にも、どこにも「羽生結弦」の字はありません。プログラムには、「この世に生きる人は皆、周囲の人たちと関わって、影響を受け合って生きています」「スケートをご指導くださった先生方、憧れたスケーターたち、刺激をうけた選手たち、プログラムを作ってくださった振付師の皆さん、ずっと応援してくださったファンの方々…たくさんの人たちとのつながりがあったからこそ今の羽生結弦がある」「みなさんへの感謝の思い、敬意とともに、みなさんから受け継いだものを継承していく」――と書かれています。このような思いを込めて作られたショーだから、羽生さん、スケーター、ファンが集まって、感謝の気持ちが多方向へ行き交う、暖かい空間でした。

 

プル様の「ニジンスキーに捧ぐ」と「タンゴアモーレ」、ジョニーの「アヴェ・マリア」と「Creep」、川口悠子・スミルノフペアの「マンフレッド」、無良くんの「オペラ座の怪人」と「美女と野獣」など過去の名作の数々。さらにジェフとシェイの素晴らしいプログラム。おまけにオープニングでジェフがバラード1番の、シェイがSEIMEIの一部を滑るという贅沢。このラインナップだけでも飛田給まで行った価値があったというものです。

 

そしてなんといっても、佐野稔先生、22年ぶりのアイスショー出演!佐野さんといえば、今では居酒屋解説などと言われてしまうけれど、本来、5種類の3回転ジャンプを全部試合で跳んだ初めての人です。特に、切れ味のいいトリプルルッツには世界が喝采したのです。さすがに今回はジャンプもスピンも抜いてはいましたが(スピンは練習したけどお尻が痛くなったのでやめたそう)、77年のワールドで銅メダルを取ったフリー「ブダペストの心」の短縮版を滑ってくれました。あの時、フリーは1位だったんですよ!

 

羽生さんがビデオでスケーターを1人ずつ紹介していくスタイルは、長年の羽生ファンにも各スケーターとの関係性がわかるうえに、初めてアイスショーを見る方にもそれぞれのスケーターの人となりが分かり、とてもいいなと思いました。何より、各スケーターへの羽生さんの思いがストレートに伝わってとてもよかった。

 

稔氏の解説、無良くんの実演による技術解説コーナーも斬新です。当初は羽生さんがリハビリ加療中のため、スケーティングでの出演はなくトークのみということだったので、このような企画も楽しいなと思いながら見ていました。

 

しかし第2部が進んで、羽生さんがチゴイネルワイゼンの衣装で登場。この第2部後半では、過去のプログラムを、その衣装を着てメドレーで滑る(ただしジャンプ抜き)という眼福な企画でした。オリンピック後の安静期間で足首の状態はよくなってステップやスピンは痛みを感じずにできるようになったけれど、ジャンプはまだダメなので、スピンとステップのみで過去のプログラムを滑ってくれました。

 

1日目:「チゴイネルワイゼン」の衣装で、「ロシアより愛をこめて」「チゴイネルワイゼン」「バラード1番」
2日目:「悲愴」の衣装で、「ミッション・インポッシブル」「悲愴」「パリの散歩道」
3日目:旧ロミジュリの衣装で、「Sing Sing Sing」「ロミオとジュリエット(旧)」「SEIMEI」

 

これがなんとも素晴らしくて、ジャンプが抜いてあるなんて言われなかったら気が付かないほどまとまったプログラムになっていたのが驚きでした。物足りなさみたいなものはみじんも感じなかった。ああ、そういえばあそこに4T が入るんだっけ?と後から気が付くぐらい。過去のプログラムを時々滑るという話は前にしていたけれど(確か荒川さんの番組だったか)、ひとつひとつのプログラムを大切にしているのがよく分かりました。なによりご本人もおっしゃっていましたが、チゴイネの衣装でバラード1番という貴重なものを見られてハッピー。

 

羽生さんが少年の頃から憧れた選手や憧れたエレメンツ、コーチや振付師や選手から受け継いできたスケート、そしてそれを同時代で見てきたファンの人たち。新しくスケートを始める少年や、新しくファンになった人たち。すべてが一緒になって、フィギュアスケートっていいね、って言っているような、そんな空間でした。そういう気持ちはずっと続いていく。だからContinues。稔氏の現役時代を覚えている私としては、あのトリプルルッツにしびれて世界が喝采した稔氏が60歳を過ぎてもラメのジャケットを着てきれいなスケーティングを見せてくれて嬉しかったし、無良くんも川口さんも羽生くんも同門の後輩。これが続いていって、羽生さんに憧れてスケートを始める子供たちがメダリストになり、コーチになり、そのうち、「羽生さんの現役の時はすごかったんですよ、今は居酒屋解説だけど」なんて言われながら意地でハイドロとかやってるところが見たい(笑)。羽生さんが60歳過ぎるまであと40年ぐらいあると思うと、まず自分が生きているとは思えないのが悲しいけれど。そう考えると長生きしたいと思いますね(笑)

 

このショー自体がこれ一回きりなのか、それとも続くのかは分かりません。羽生さんとしては、少なくとも現役でいる間はこれほどどっぷりと企画にかかわることはできないと。引退してプロになったらやりたいとも。今後、どのようになっていくのかは彼自身も分からないのでしょう。今後に期待していましょう。

 

それにしても私はまだ羽生氏を甘く見ていました。ブライアン、Never underestimate Mr. Hanyu.ですよ、本当に。今回、このショー限定のグッズは恐ろしい勢いで完売。初日、私が開演ギリギリに会場に着いた時にはガイドブックしか残っていませんでした。結局は通販になったのはとてもよかった。珍しく私も買っちゃいましたよ、Tシャツ。だって、裏面には出演者の名前と一緒に、軌道好きの私が泣いて喜ぶ3Aのトレースがデザインされていたんですもん。しかも表面にはロゴと羽のモチーフだけで、羽生の「は」の字もなし。どこまでもツボを心得ているね。

さらに驚いたのはライブビューイングです。いくらなんでも全国66か所の会場を埋めるのは厳しいんじゃないかと危惧していました。何しろ66か所ということは、ざっと見積もっても25,000人ぐらいを動員しなければならないわけですから。しかも料金は4,000円と決して安くなく、大きな広告も打たず、ほとんどの告知がTwitterで、ライブビューイングと現地3日間合計で5万人近く、しかも本人は滑らない、というのは条件悪くないのかと。もし閑古鳥が鳴いちゃうようなら悲しいので、私もライブビューイングに行こうかなと思いました。しかしフタを開けてみたら、現地はおろか、ライブビューイングもかなりの劇場で売り切れ。私もチケットは買えませんでした。結果、大盛況でした。羽生、おそろしや。どれだけ愛されているのかと。

 

でもだからこそ、最終日の最後に口にした言葉は悲しかった。受け取り方もさまざまでした。依然としてなくならない捏造記事やアンチから投げられる心無い言葉に対しての彼のSOSだと受け取る人もいれば、もう乗り越えられたから口にできたのだと受け取った人もいました。答えは彼にしか分かりません。ただ、あの一言を聞いてから、オリンピック直後の「生きていてよかった」「いろんな幸せを捨ててきた」という言葉はさらに重みを持つことになりました。いろいろな思いがあっただろうし、これからもいろいろあるだろうけれど、とにかく幸せになって欲しいと心から願っています。金メダリスト羽生結弦でもスケーター羽生結弦でもなく、羽生さんの心の中の素の羽生結弦が自由に羽ばたける人生でありますように。

 

今日のパレードは、現地参戦はおろか、用事があって生中継も見られないけれど、お天気にも恵まれたようだし、羽生結弦が一番幸せな1日になることを願っています。私も夕方から紫のTシャツ着て録画見るよ!

 

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