無駄に長いジャパンオープン雑感 | 桃象コラム

桃象コラム

音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

10月7日、さいたまスーパーアリーナでジャパンオープンを観戦してきました。はるばると埼玉まで。あ、埼玉の皆様すみません。埼玉というと、「さいたまんぞう」の「なぜか埼玉」を思い出してしまう。でも実は、たまアリのある浦和・与野周辺は、美味しいお店もいっぱいあって、なかなかラブリーな街です。

 

電車を降りて、たまアリまで行く途中にゴールドジムを見て、ああ、ここには「ジョンレノン・ミュージアム」があったんだな。ジョンのTシャツがあまりにも小さいのに愕然としたっけな、などと想い出に浸りつつ、開場とほぼ同時に入ります。

 

「たまアリ」は比較的新しいのでエスカレーターも完備されているし、シートもクッション付きでアリーナとしてはまあまあ快適です。トイレの行列だけは何とかならんかと思いますが、これはもうしょうがないでしょう。1万人以上を楽に収容できるキャパシティは頼もしく、チケット争奪戦の激しいNHK杯やグランプリファイナル、全日本は、もうずっとここでやればいいじゃん、と思ったり。

 

ジャパンオープンはフリーだけで争う団体戦ですが、3チームしかないし、カテゴリーも男女シングルのみで、全員で12人しか出ないし、試合としては今一つ寂しいものがありますが、今回は豪華な顔ぶれがそろったし、それにもうすぐ始まるグランプリシリーズを前に仕上がり具合を見るという意味でも、とても意味のある試合です。また、オープン戦なので、現役を引退したスケーターの試合モードの演技が見られる点でも貴重。

 

結局、団体戦としては本当に僅差でヨーロッパが勝って日本が2位、北米が3位でした。正直、チームの勝敗はまあ、どうでもいいかなぁ、という空気がどことなく漂っていましたが、1位8万ドル、2位6万ドル、3位4万ドルという賞金は大きいだろうなぁと。選手としては活動費をどう捻出するかって、大きな問題だから。

 

さて、それでは各選手の滑りの勝手な感想をば(滑走順)。

 

まずは女子。

 

長洲未来

トリプルアクセルが両足着氷ながらも認定されていました。ちょっと軸が曲がっちゃったのですが、転倒しなくてよかった。今になって進化を続けてるって素晴らしい。だって彼女、バンクーバー五輪の4位ですよ。もう24歳ですよ。一時期、なかなかいい成績が出せなくて苦労していたけれど、それを乗り越えて今季、3アクセルも決めているなんて素晴らしい!今のアメリカ女子の中でも安定しているほうじゃないかと思うので、全米でも上位に来ると思っています。そうすれば五輪も見えてくる。

 

本田真凜

パーソナルベストを出してはいるんですが、ちょっと何かが足りないというか、心ここにあらずというか、そんな感じに見えました。「トゥーランドット」は7月のドリーム・オン・アイスで見たのが一番良かったように思います。もしかしたら、真凜ちゃんはその時の気持ちの乗り方に左右される人なのかも。また、真凜ちゃんはマスコミ受けがいいのか事務所の営業力が高いためか、このところメディアの露出も多いですが、それとは関係ない出来不出来は自分が一番よく分かっているだろうし、メディアでの扱われ方と本人の気持ちが乖離してしまったときは辛いかも、と老婆的に心配しています。

 

アリーナ・ザギトワ

なんだか、さすが。バレエのチュチュのような衣装もよく似合って。世界ジュニアでも、本田真凜を寄せ付けなかった実力は本物だなと思いました。ただ、彼女、まだ15歳で身長も低い。これからの成長期をどう迎えるのか、ユリア・リプニツカヤの悲しい引退を見てしまった後だけに心配です。でも今季はかなりのところまで来るんじゃないかな。

 

カレン・チェン

決して悪くはない演技だったのですが、とにかく回転不足をとことんとられてしまってスコアが伸びなかったのがかわいそう。今季、チャレンジャーシリーズをちらほらと見た限りでは、回転不足とエッジエラー、特にルッツとフリップは厳しめに取られているような印象があります。また、回転不足とは関係なく、彼女に「カルメン」はちょっと荷が重いように見えました。

 

三原舞依

場内が一番盛り上がったのは舞依ちゃんの演技でした。素晴らしかった。舞依ちゃんの良いところは何といってもあのスピードだと思います。それも、1-2蹴りでぐんと加速して、スピードに乗ったままジャンプを跳び、着氷後もそのスピードが落ちないのはすごいです。スピンの軸もきれいだし、うまいなあと思います。演技後のインタビューで、「世界平和を願いながら滑りました」と。大げさに聞こえますが、つまりは、「みんなの幸せを願って」ということだそうです。そして、「自分に負けないように」頑張ったとも。こういう頑張り方のできる人は強いなぁと思います。

 

エフゲニア・メドベデワ

女王の貫録でしょうなぁ…絶句。なんだか別次元のところにいるような気がします。テレビで見ると、あのタノジャンプもうーん、と首をひねったりするのですが、実際に見るとすごく安定していて、技術の高さを感じます。ちょっと強すぎて可愛げがないって、昔の北の湖さんのような雰囲気があります。ただ、個人的には、ドラマ仕立てにするあまり、顔芸やマイムが多いのはちょっと気になるのですけどね。マイムも滑りながらやるという技術はすごいんですけどね。それと、昨年といい今年といい、愛する人が帰ってこない、最後は死んじゃう、みたいな渋い物語と、20世紀終わりごろの東欧映画のような雰囲気は大人のテーマで、17歳の彼女はどこか背伸びしている感じがします。私は彼女がエキシビションで滑る「セーラームーン」がとても好きです。

 

そして男子。

 

アレクセイ・ビシェンコ

冒頭の4頭ループでとても痛そうな転び方をしてしまい、そこから明らかに動きが悪くなって、最後までちゃんと滑れるのかとても心配しました。とりあえず無事に滑ったので良かった。怪我をしていないといいのですが。まだシーズンは始まったばかり。

 

ジェレミー・アボット

ツルツルのすてきなスケーティングは健在。「マイ・ウェイ」を選んだということは、いよいよ競技からは引退するということでしょうか。寂しいけれど、今までありがとうと言いたいです。ずっとコーチを務めてきた佐藤有香さんもリンクサイドで見守っておられました(ついでにいうと、関係者席で佐藤信夫さん・久美子さんご夫妻もいらっしゃいました)。

 

織田信成

のぶくんは今回を最後に、もう競技会にはでないとのこと。図らずものぶくんの引退試合を見ることになってしまった。しかし見事に4回転を2本も決めて、もうこのままオリンピックも狙えるんじゃないかぐらいの演技でした。この「トリスタンとイゾルデ」は本当に美しいです。普段のおちゃめな関西人のぶくんからは想像もつかないです(ごめん)。以前の「愛の夢」も素敵なプログラムだったし、実はのぶくんはとてもロマンティックな人なんだと思います。それにしてもきれいなスケーティングに猫足着氷。ホント素晴らしいです。この人が世界選手権のメダルを持っていないことが信じられない。まぁ、いろいろとありましたからね。のぶくんにとっては「心をえぐられるような」予想外のアクシデントが(ごめんごめん)。

 

ハビエル・フェルナンデス

ちょいちょいレベルを落としてましたね(落としたのか落ちたのかは謎なれど)。コンボのセカンドジャンプがトリプルからダブルになったりとか。まだこれからブラッシュアップしていくでしょう。私的には「ラマンチャ」といえば、どうしても松本幸四郎さんの顔が浮かぶ。来年のファンタジー・オン・アイスあたりで幸四郎さん(その頃はすでに松本白鷗さんになっている)にお出ましいただいてコラボできないですかね。あ、あちらは襲名披露公演中だ。無理だ。でも幸四郎さんならきっとのってくれるような気がしてるのですが。なんたって染五郎くんのお父さんですから(幸四郎さんの息子さんだから染ちゃんもああなんだとも言えるけど)。

 

ネイサン・チェン

このプログラムで使用する曲「Mao's Last Dancer」はとても好きです。中国のバレエダンサーの実話が映画化されていて、日本でも「小さな村の小さなダンサー」というタイトルで公開されました。中国の小さな村に生まれ、のちにアメリカに亡命したダンサーです。途中でいきなり曲相が変わるところは、ストラヴィンスキーの「春の祭典」が少し顔を出します。子供の頃にバレエの舞台にも立っていたネイサンにはぴったりじゃないですか。随所にバレエ的な動きも取り入れられていて、見ごたえのあるプログラムです。ただこの日は、出だしの4ループはすごくきれいに決まってましたが、そのあとはちょっと辛かったかも。点数もあまり伸びませんでしたが、これはやはり、まだ前哨戦で様子見という段階なのでしょう。

 

宇野昌磨

昌磨くんは割と安定した人だと思うのですが、この日はちょっと不調だったのでしょうかね。ジャンプがかなり乱れました。まあこれで厄落としとして、GPSに臨んでください。あくまでも私の好みなんですが、昌磨くんにはもうちょっと上半身のバリエーションと着氷後の流れが欲しいなと思うのですよ。ところで、3アクセルからの3連コンボの予定が、2つ目のシングルループループで止まってしまい3つ目が続けられず、ループはノーカウントになり、3アクセルにREPが付きました。つい先週の「KENJIの部屋」で岡崎さんが解説していたとおり、今年からはハーフループ(コンボの時のみシングル扱い)は3連続ジャンプの真ん中に入った時のみ表中ジャンプのループとみなすというルール変更を、いきなり実戦で拝見することになったわけです。解説では見事にスルーされていましたが…

 

この大会で、「トゥーランドット」を昌磨くんと真凜ちゃんが使っていました。二人とも調子のいい時にはおそらく何とも思わないのでしょうが、そうでないと、目の前の演技に集中できず、つい、この曲を使った他の選手の演技を思い出してしまう。奇しくも10月6、7日、イタリアのヴェローナで、Intimissimi on Iceというアイスショーが開かれていました。そのもようがボチボチ伝わってきていたのですが、これが夏に野外オペラが行われる野外劇場Arena di Veronaにリンクを作り、オーケストラ生演奏で滑る素晴らしいショーなのですよ。中でも、アンドレアン・ボッチェリの生歌にのせてプルシェンコが滑る「誰も寝てはならぬ」の美しいこと!もちろんこれと、昌磨くんや真凜ちゃんの演技を比べるのはフェアじゃないし、そのつもりもないんですが、改めて思ったのは、このような有名な曲には見る人それぞれに思い入れがあり、その印象に左右されてしまう可能性があるなということ。ジャッジにはそのようなことはないと思いますが、ジャッジも人の子。何度も使われてきた曲や他選手と同じ曲を使うことのリスクを実感しました。

 

その点で、今季のトップ男子選手みなさんの選曲は巧いなと思います。羽生さんのSEIMEI、ネイサンのMao's Little Dancer、ハビの「ラマンチャの男」・・・それぞれに自分の民族的背景を反映した選曲で、他の選手とかぶる可能性はほぼないと言っていい。今季、SEIMEIで滑ろうという度胸のある方います?「ラマンチャ」もいい曲ですが、ハビがこれを使うなら適わないと思いますよね。羽生さんの「バラード1番」はもっと普遍的な曲ですが、あれだけ世界最高を塗り替えられた曲に、他の選手はなかなか手を出せないでしょう。それはラヴェルの「ボレロ」に長く誰も手を出せなかったのと同じ。

 

1988年のカルガリー五輪は、ブライアン・オーサーとブライアン・ボイタノのBattle of Briansでした。二人ともテーマは「ナポレオン」で、曲こそ違ったけれど曲相も衣装も似ていた(衣装はオーサーが赤、ボイタノが青-五輪青伝説はこのあたりから?)。ボイタノが先に滑ってノーミス、続くオーサーはトリプルフリップをステップアウトした以外にミスはなかった(だからソチ五輪フリーで羽生さんが珍しく3フリップをミスした時、おおっ!ブライアンの呪い?と思ったよねww)。同じ1988年カルガリーでは、カタリーナ・ビットとデビ・トーマスの「カルメン対決」もあった。こちらは赤い衣装のカタリーナ・ビットが勝った。こういう経験をしているから、ブライアン・オーサーは結弦くんやハビの曲選びにおいて、他の選手とかぶることを嫌うんじゃないかなと想像しています。逆にその選手ならではのマスターピースを持っていると、落ち着いて五輪に臨めるのではないかと。このあたりも戦略なのかなと思います。

 

すべての滑走が終わったあと、長々と時間をかけて優勝したヨーロッパチームへのインタビューと表彰式が行われました。このインタビューの時、ロシア語の通訳さんが付いたのですが、問題はハビ。ビシェンコさんはウクライナ人なのでロシア語は分かる。アナウンサーさんが思いっきり日本語でハビに質問すると、ハビは、え?僕に日本語で聞く?と戸惑いの表情。アナウンサーさん、急に焦って、しどろもどろの英語で何とか質問。おいおい、英語の通訳はいないのか?いないんならやってもいいぞ。この客席に少なくとも3人はハビの通訳をできそうな人材いるぞ。それにほら、関係者席に安藤美姫がいるじゃないか。と思っているうちに英語通訳さん登場。日本について聞かれたハビの答えが、日本は好きだよと言った後に続けて、nice food, nice building…え?建物?聞いた私たちがびっくり。具体的に何を指しているのかなぁ?六本木ヒルズやスカイツリーかなぁ、それとも法隆寺とか姫路城とかのことかなぁ??

 

テレビ中継も見ましたが、実況と解説はちょっと???な感じがしました。この試合はどう考えても「熾烈な」「頂上決戦」じゃない。JOは初戦じゃない。ルールの変更を把握していない。ターンの種類を間違える。そしてゲストスケーター2組をカットしている!許せん(笑) まあそれでも、放送してくれるだけでありがたいです。後日、BSでも放送される予定。町田樹さんの驚きのドン・キホーテはそれまで取っておきましょう。同日に行われたカーニバル・オン・アイスの放送では、町田さんが解説デビューするそうですし、楽しみにしていましょう。

 

さて、長々と書いてしまいました。

JOも終わり、いよいよGPSが始まります。HDDの容量、空けとかなきゃ。

 

桃象