オータムクラシック―陰陽、長短、悲喜こもごも  ブライアンのインタビューも | 桃象コラム

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音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

羽生さんの今季初戦となるオータムクラシックが意外な結果で終わり、自分ながらにあれこれ反芻していました。

 

なにしろ、ザ・両極端。

 

ショートのバラード1番でいきなり世界最高得点を更新したのは驚きましたが、あの演技はまさにマスターピース。どこにも引っかかりのない、まさにFlawlessな滑り。細かな動きまでひとつひとつが音楽とマッチしていて、羽生さんの手から、指から、エッジから、音楽が生み出されるよう。キャメルスピンに入るときのフライングの高さと軽やかさ。史上初めてGOEで満点を取ったシットスピン。4トゥループ+3トゥループのコンビネーションは後半のセカンドジャンプの3Tで両手を上げて、まっすぐな軸のまま高速回転。「スピン」は英語で「独楽」のことだけれど、もうあの細さは独楽というより電動ドリル?上半身がさらにしなやかに、表現豊かに動き、アピール力がさらに高くなったのは、「Let's Go Crazy」の恩恵かと。もうこれ以上はないという素晴らしい演技でした。なにより、4回転を基礎点の低いほうからの2種類(トゥループとサルコウ)だけで世界最高点をたたき出した意味は大きいです。これで最初の4サルコウをループに、4T+3Tを4S+3Tに変えれば、さらに点を稼げる。また、他のスケーターにとっては、たとえ4ルッツや4フリップを入れても、それ以外の要素を羽生さん並みに完璧に滑らないと勝てないという大きなプレッシャーをかけたわけで。今季の出だしとしては幸先のよい形になったと思ったわけです。

 

そして期待高まるフリー。最初の3ルッツがシングルになってから、ジャンプがどんどん崩れ出す。原因はいろいろ言われていますが、私の想像では(あくまでも想像ですよ)、ジャンプの構成がまだ本決まりになってないところへ、膝の痛みで練習を休んでいたため、今回のフリーの構成はほぼぶっつけ本番だったのではないかと。また、3ルッツを最初に持ってきたのは「鬼門だから」ということでしたが、私にはあれは3ルッツへの入り方には見えませんでした。おそらく4ルッツを入れるつもりなんだろうと思います。それを3ルッツにしたのだ感覚が狂った。アクセルだって、もはや3アクセルを跳びすぎて2アクセルが苦手だとおっしゃっていましたからね。ジャンプの回転数をあえて落とすのは難しいのだろうと思います。

 

でも、心配はしていません。ジャンプはよくなかったけれど、それ以外はそんなに悪くないし、PCSはなかなか良い点が出ています。フリーの直後、まずはキスクラでトレーシーにマシンガントーク、そしてそちらこちらでマシンガントーク。しゃべって、しゃべって、吐き出して、自分の考えをまとめていくタイプでしょう。もう何が悪かったか、どうすればいいのか、分かっていることと思います。とにかく、体を万全なコンディションに整えて。これはロステレが楽しみになってきました(バラ1の新衣装お披露目とともに)。

 

そして今日、共同がブライアン・オーサーの独占インタビューを公表しました。とりあえず訳しました(多分に意訳です)。

 

 

羽生の姿にコーチは若き日の自分を想う

 

ブライアン・オーサーは、男子フィギュアスケートを象徴する存在である羽生結弦のコーチを、彼が17歳の時から務めており、チームワークこそが生産性の向上と来年の平昌オリンピックでの成功をもたらしてくれるものと考えている。

 

共同との独占インタビューで、羽生が今季初戦となったオータムクラシックで2位に終わった後、オーサーと羽生が腹を割って話し合ったことを明かした。

 

「いい話ができたよ。問題はコミュニケーションをとること。ただ、必要だったんだよ」

 

「どんな関係でも同じことだけれど、よりよいチームであるためには、心に引っかかっている些細なことを話し合わなければならないんだ。僕たちはもう6年も一緒にいて、それだけの時間を一緒にすごしたのだから、なおさら新鮮な気持ちでいなければならないんだよ」

 

羽生がリンクに出て行ってリンクをステージに変えるのをみると、オーサーは自分自身がそのスポットライトの中にいた頃を思い出す。オーサーは、羽生が自らの現役時代によく似ていると語る。オーサーはフリースケーティングで優れた演技をするスケーターで、オリンピックで銀メダルを2回獲得し、世界選手権では6回表彰台に乗っている。

 

「僕みたいだよ。僕はああいうタイプのスケーターだった。みんなが僕を見ているのが好きだった。僕は観客に見てほしいものを繰り出した。そういう人物であることは楽しいよ。懐かしいね」と現在55歳のオーサーは言う。

 

オーサーが言うには、今季、羽生はフリープログラムで5本の4回転ジャンプを入れるが、オーサーはジャンプの種類や新しいアプローチを増やすのではなく、羽生がすでに手中に収めているもの、つまり、安全で安定した着氷に力を注いで欲しいと思っている。

 

オータムクラシックでは、トレーニング中に発生した右膝痛のために4回転ループを回避したが、オーサーはそれを、他のことに集中するようにと、スケートの神様が羽生に与えた時間と考えたいと言う。

 

羽生は練習すれば完璧にできるし、新しいトリックを習得しなくても、彼のスケートを新しい高みに引き上げることができるとオーサーは考えている。しかし羽生もそう思うかと言えば、それは分からないと言う。

 

「彼はまだ若いよ。彼にとってスケートをすることの目的は上達し続けることだ。若い人にとって上達するということは、4回転ルッツや4回転フリップの習得を意味する。僕も止めはしないよ。そうしたくなる気持ち、僕は好きだよ」

 

「ハビについては話は全く別だ。でもゆづは他の子たちがクワドルッツやクワドループを跳ぶのを見ると、彼もそこにいたいんだよ。それはとてもいいことだよ。ゆづはとても負けず嫌いだからね」

 

オーサーは、今季も他のシーズンとなんら変わらないが、ただ、オリンピックを控えて、コミュニケーションと前向きな気持ちがこれまで以上に必要だと語っている。

 

羽生もフェルナンデスも、リンクですべきことは分かっているし、トレーニング方法を教えられる必要はないとオーサーは言う。オーサーは、そのカリスマ的な存在が注目を集める羽生との作業がどんなに楽しいかを語り続けずにはいられないのだ。

 

「氷の上のゆづを見ると、そこには特別な何かがある。彼のスピード、流れ、トリプルアクセル、クワドですらも、何かがあるんだ。ほかのスケーターと一緒に滑っているところを見ると、その違いが分かる。言葉にするのは難しいけれど、ゆづが滑るときの、何にも縛られない自由、それは特別なんだよ」

 

以上です。原記事はこちらです。

 

最後のパラグラフはとても素敵な表現をされていたので、ここだけ原文も貼っておきます。

"When you see him on the ice, there's something special," Orser said. "There's something about his speed, his flow, his triple axels, even the quads. When you see him with other guys you can see the difference. It's hard to find the words, but there's something special about his freedom when he skates."

最後のところ、羽生さんの背中に羽が生えて、氷の上を飛ぶように滑る姿が目に浮かぶようでした。

 

ブライアンにとっても、やっぱり羽生さんは特別な存在なんですね。若いころの自分を思い出すとは…

ブライアンの現役時代をよく覚えています。ブライアンもやはり、エキシビションで大喝采をあびるタイプのスケーターでした。コンパルソリよりも、フリーで順位を上げるタイプの人。懐かしい、サラエボ、そしてカルガリー。

 

話が逸れました。

 

今回のショートは王者の風格を確認するものとして、そしてフリーは課題として、きっと後から振り返ると実りの多い試合だったということになるでしょう。

 

次はロステレだ。待ってろロシア!(私は行かないけど)

 

桃象