5月に訪れたエジプト考古学博物館。

メインブログですでにご紹介しましたが、とっても可愛いタシェドコンスのコミック風パピルスをご紹介します。
階段の所に展示されていた(上の段)、可愛い絵柄のパピルス。

今まで何度もこの階段を上り下りしたけれど、今までは全然パピルスには興味がなく素通りしていたのですが、あら、このパピルスの絵柄なんか現代的と言うかコミック&漫画ちっく~。 

このパピルスの持ち主は自分では誰だか分からなかったのですが、考古学に詳しいbastetさんにこのパピルスの写真を送ってみた所、タシェドコンスのものと教えてくれました。

タシェドコンスは第3中間期第22王朝のオソルコン1世の妻で、次王のタケロト1世の母にあたる女性。
タイトルはアモンの歌い手(詠唱者)、アモンのイペトの女性神官、ムートの誕生の家の女性神官、ネクベトの女性神官など。

タシェドコンスは第3中間期の方だと思うのですが、basteteさんも不思議がっていた1番右の名前の上にセティ1世のカルトゥーシュがあるのは何故?(Bastetさんが教えてくれたパピルスの説明ページには「セティ1世の座の偉大なる者」と書かれている様です。)

パピルスは7つのシーンが黒のインクのみで描かれています。
 
この1番最初のシーンは供物を前にオシリス神が座っていて、その後ろにイミウトが置かれネフティスがいます。
その前にドレープのあるドレスを着た(胸をはだけてる?)女性がタシェドコンス。
タシェドコンスが右手に持っているのは、花束?って思っていたら、お花ではなくネギの束。
スーパーでネギの特売があったのでしょうか。笑

3人は19のコブラが上部を保護した祠の中にいます。
 
ちなみにこちらはタシェドコンスさんのシャブティ(ウシャブティ)
そしてタシェドコンスさんのヒエログリフはこちら。
※シャブティとヒエログリフの画像はお借りしたものです。
 
こちらは2つ目のシーンで、死者の裁判の場へ向かうシーンらしいですが、裁判を受ける緊張感は全くなくウキウキした感じが伝わってきます。笑

真ん中のタシェドコンスはまるで可愛がっているペットの様に、自分の魂であるバーを腕に抱いています。

タシェドコンスの後ろには裁判の様子を記録する為にいるのでしょうか、トト神がいます。
そしてタシェドコンスとトト神の間にはイミウトが描かれています。
 
タシェドコンスの前にいる男性は名前不明な神様ですが、ドアを開ける役割の神様の様で、足元には「貪り食うもの」を意味する、裁判で死者の魂がマアトの羽よりも重かった場合(=有罪だった場合)死者の心臓を食べてしまうアメミットがいます。
 
裁判で有罪になるかもしれないのに、ルンルン笑顔なタシェドコンスさん。
腕に乗ってるタシェドコンスのバーもニッコリ笑っています。
 
心臓食べる気満々?のアメミット。 
 
これがアヌビスの呪物と呼ばれるイミウト。ツタンカーメンの埋葬品の中にもあります。
記事中にイミウトの説明があります。 
 
このシーンでは32名の(裁判官としての?)神々が描かれていいて、ほとんどは体育座りをしている人間の姿で描かれていますが、良く見ると4番目に塔門の上に乗ったヤギが、17番目にはプタハ神がいます。

下の欄に書かれているのは、有名な死者の書第125章の「死者の否定告白」が書かれているそうです。
 
ひとつひとつ何が書かれているかは読めない&分かりませんが、罪の否定告白の場には通常は42名の神様がいるそうです。でもこのパピルスの説明では32名となっています。

で、その罪の否定告白の内容ですが、たくさんあるので大雑把に言うと「私は盗みをしなかった」「私は人や動物を殺さなかった」「私は嘘をつかなかった」「私は人を侮辱したりしなかった」などなど、あらゆる罪を否定する事を告白します。
 
罪の否定告白を全て済ませると、上下冠を被ったアヌビスが「カモーン♪」と死者を迎えてくれます。

アヌビスの上にはウジャトの目のある羽と、マアト(真実、正義)の羽と供に、死者のバーが描かれています。

アヌビスの横には神々の言葉が書かれており、登場する神様はラー・ホルアクティ、アトゥム、プタハ・ソカリス・オシリス、ゲブ、オシリス(ウネン・ネフェル)、ヌト、ネイト、セルケト、イシス、ネフティス、アヌビスなどで、それぞれが死者に対して守護する内容を語っています。
 
そして3つ目のシーン。

上の段左から、死者の内臓を守るホルスの4人の息子であるイムセティ(人間の頭)、ハピ(ヒヒの頭)、ドゥアムテフ(山犬の頭)、真ん中の段左にケベフセヌエフ(隼の頭)とタシェドコンス。
下の段にはそれぞれの内臓(肝臓、胃、肺、腸)を収めたカノピス(カノポス)容器と、蓋の部分がホルスの4人の息子の頭で描かれています。

タシェドコンスの横には、タシェドコンスのタイトル「オシリス、女主人」「アモンの歌い手」「アモンのイペトの女神官」「ムートの誕生の家の女神官」などと供にタシェドコンスの名前が書かれています。 
 
そのホルスの4人の息子の左横には、上の部分にはイチジクの木の前で跪きうつむく男性の姿と、下の部分ではイアルの野で男性が作物を刈り取る様子や、タシェドコンスが2頭の牛を使って土を耕したり、種を撒いて農作業をしているシーンが描かれています。

このシーンにも神々の言葉が書かれており、右の4行は左からオシリスやイシス、ネフティス、セルケト、真ん中から向きが変わってアヌビスの名前と、タシェドコンスのタイトルが書かれています。
 
これは何のポーズでしょう?反省のポーズ?

そしてイチジクの木の枝に引っ掛けられている黒い物体は何でしょう?黒い鳥?
木の下には水を現す波線が書かれた枠があるので、これは池かな。
 
※追記
カイロ在住の友人が、エジプト考古学に詳しい方に教えてもらったのを教えてくれたのですが、この黒い鳥みたいな物体は 皮で出来た水入れだそうで、イアルの野で良く描かれているそうで、ルクソールの貴族の墓にあるメンナの墓にもあるそうです。
メンナの墓のレリーフ。あ、ほんとだ~、似たようなのがありました~。
 
そして4つ目の炎の池のシーンと、5つ目のタシェドコンスが船を漕いでいるシーンが描かれています。

4つ目のシーンは死者の書の第126の章で、池のそれぞれの岸に向かい合うヒヒと2つのランプが描かれています。
 
上の部分は死者の書第110の章で、死者であるタシェドコンスが、ジャッカルの乗る船を漕いでいて、その上に
「オシリス、家の貴婦人、アモンの歌い手、アモンの神殿の女性神官、ムートの誕生の家の女性神官、ネクベトの女性神官、白き者、二国の主の座の偉大なる者、プタハに愛されし者・セティ1世、貴婦人タシェドコンス、神によって正当化された者 」と書かれています。

そして船の下には、死者の書第86章を示唆する2つの円丘が描かれ、
左には「生けるし魂、ネフティス」
右には「偉大なるイシス」
と書かれています。

画像ではちょうど切れてしまっていますが、左の円丘の後ろにはコブラが描かれ、2つの円丘の下には掲げた両手にマアトの羽を握ったタシェドコンスの姿と、縛られた牛や、パンの塊、キュウリやブドウ、容器に入った軟膏などの供物の数々が描かれています。 
そして6つ目のシーン。

タシェドコンスの前に玉座に座り手にとかげを持った奇妙な顔をした神様がいます。 
右手にジェド柱、左手にイシスの結び目と呼ばれるチェトを握ったタシェドコンスが立ち、その後ろには裸のネズミが従い、タシェドコンスの前にはネギの束やパンとビールの供物と、両手を掲げ祈りのポーズを取るタシェドコンスのバーと、イミウトが描かれています。
 
通常人物や動物の頭の神様は横向きで描かれるのですが、この神様は正面を向いている、ロバの頭を持つ神様だそうで、ロバの神様初めて見ました。
ロバと言うよりも悪魔みたい。。。

古代エジプトの壁画などで描かれるロバは、荷物を背に乗せて運んでいる姿は良く見掛けますが、可愛らしい姿で描かれていて、こんな奇妙な顔の神様って珍しいかも。

ロバ頭の神様の上には羽のあるウジャドの眼が描かれ、「彼は西の首長である」と書かれていて、
これがこの神様の名前の様です。

このシーンはタシェドコンスの魂が、下界からエンネアドの神々のいる永遠の聖地に迎え入れられる様子が描かれている様です。 
 
そして最後の7つ目のシーン。

上の部分は太陽光線が降り注ぐ太陽円盤が真ん中に、その両脇に白冠を被ったウラエウスと羽のあるウジャドの眼が描かれ、その下に寝台から起き上がるオシリスの姿が描かれています。

オシリスは通常アテフ冠を被っていますが、このシーンでのオシリスは太陽神ラーが被るコブラの付いた太陽円盤を頭に掲げています。

体も通常はミイラの姿で描かれますが、袖なしのマントと腰布を身に付け足も布で覆われていない姿で、両手に上下エジプトの象徴のヘカとネケクを持っています。
 
寝台から起き上がるオシリスの左右には、手を挙げた嘆きのポーズをするイシスとネフティスが描かれており、イシスの上には「イシス、偉大なる神の母」、そしてネフティスの上には「ネフティス、神の姉妹、生命の家の女主人」と書かれています。

オシリスの上には「偉大なる神、永遠の主、西方の主、オシリスによって語られた言葉」と書かれています。

オシリスの寝台の下には、ホルスの4人の息子が守護するカノピス(カノポス)容器(左から順番にイムセティ(人間の頭)、ハピ(ヒヒの頭)、ドゥアムテフ(山犬の頭)、ケベフセヌエフ(隼の頭)と、下エジプトを象徴するネケク(殻竿)と上エジプトを象徴するヘカ(杖)、そしてアテフ冠と上エジプトを象徴する白冠が描かれています。

人間は死後オシリスになると考えられていたので、このシーンは恐らくオシリスとなったタシェドコンスがめでたく再生復活を果たしたシーン・・・でいいのかな。

※パピルスの説明は教えて頂いたこちらを参照しました。(訳や理解が間違っているかもしれません。)

今まで死者の書やパピルスに興味がなかったのですが、書かれている内容が分かると面白いですね。
ヒエログリフもそのままでは部分的にしか分からなかったのですが、説明を見ながらヒエログリフを見ると、どの言葉が当たるのかが良く分かりとても勉強になりました。

このパピルスは、エジプト考古学博物館の建物(正面玄関から見て)右側の階段踊り場右手に展示されていますので、興味のある方は是非見てみてくださいね。
 
間違えているかもしれないので、修正&加筆するかもしれません~。