『永遠の仔』 | めんどくさい生き方のための処世術

めんどくさい生き方のための処世術

動物と触れ合っていると心が癒されますよね?

天童荒太 著


天童作品4作目のレビューです。

物語の核心部分のネタばれは配慮しますが、一応ネタばれ注意です。


幼少期に虐待を受けた3人の少年少女、優希・生一郎・梁平。彼らは小児病棟で出会い、それぞれの虐待の秘密を共有し、さらに、ある事件をきっかけに特別な関係に至る。18年後、3人は運命の再開を果たすが、幼児虐待、幼児わいせつ事件へと巻き込まれ、それぞれの呪縛と直面する。

過去の呪縛に囚われた3人は、それにどのような決着をつけるのか。


あらすじはこんな感じです。

物語構成は、過去(幼少期)編、現代(大人)編が交互に展開され、過去の傷と現代の事件の真相が徐々に明かされる形になっています。

個人的には、いままで読んだ天童作品の中で、もっとも救われないエンドを迎えた作品ではないかと思いますね。


以下ではレビューと称して、思ったことを書きなぐっていこうと思います。『』内は登場人物の台詞の引用です。



我々は、いつかは親となり仔を育てるが、生まれたときから永遠の仔なのである。



この物語は、あらすじからも分かる通り、親から子への虐待を大きなテーマとしています。

虐待を含め、家族間の問題は簡単に一般化できるものではありません。この物語が描く虐待というものが、虐待の実態のすべてを形容しているものではないということは自覚しなければいけませんが、私が、今まで持っていた虐待に対する認識を改めなければならないと感じました。


私たちは虐待に対してどのようなイメージを持っているだろうか。親が子を虐待したという類いのニュースは、しばしば目にするが、それに対してどのようなイメージを抱くだろうか。



『自分が、子どもを虐待する母親だなんて、ばかげている。自分は娘を愛している、誰よりも愛している。子どもを虐待する親のことは、テレビや雑誌で見た。人間以下だと思ってきた。自分はあんな連中と同じじゃない。』


メディアは「親が子に暴力をふるった」という事実しか伝えないし、伝えることができない。情報を受け取る私たちは虐待した親に罵詈雑言をぶつけ、最低な親という烙印を押す。

しかし、そのような家庭にも家族愛はあり、幸せな日々があったはずである。虐待が起こるのは、その家族が異常だからであるという世間の常識が、私たちを油断させ、もしくは、抑圧する。いわゆる普通の家庭であっても、虐待の現場になりかねないということである。また、しつけと虐待の線引きは微妙であるのに、その扱いは天と地の差なのである。



『ときどきこの世界って、親が大人とはかぎらないってことを、忘れるみたいね。子どものままでも、親になれるんだから。……子育ては競争じゃない……未熟な親を責めるのは、間接的に子どもを叩いてるのと同じかもしれないのに』

『親は親なりに苦労してるんだから、完全でなんてあり得ないんだから、たとえ気に入らないところがあったとしても、多少のことは許してあげなきゃ。……親だって懸命だったんだから、わからないことだってあったんだから、間違えたとしても、許してあげなきゃ。』


親は完璧であることを世間から要求されている。そして、間違いを犯すと、親失格の烙印を押されてしまう。私よりも年下で親になる人はたくさんいる。親になったからといって、いきなり聖人君主に生まれ変わるわけではない。そのような世間からの重圧に耐えながら、子を育てていくというのは大変なストレスになるに違いない。重さに耐えきれなくなったものを責めるのではなく、重さを分かち合っていくことが大切なんじゃないのか。



『おまえはたまたま生まれたの。……わたしなりに、可愛がって育てようとしたんだよ。おまえが出てくるまで、しぬかと思うほど痛かったんだから。やっぱり可愛くなるよ。……おまえの世話だけじゃなく、あの男やババアの世話まで押し付けられて、じゃあ、わたしの人生は何?わたしだって、親から可愛がられて育ったんだよ。……わたしだって、少しはおまえの幸せを考えてるんだよ。』

『ばか野郎。なんだって、親のせいにしやがって。子どもが普通じゃないって言われた親の気持ちがてめえにわかんのか……こっちだって生きてるんだよ。必死に生きてるなかで、子どもを産んだんだ……そうそう都合よくいかないことだってあるさ。』


すべての責任を、虐待をおこなった親(片親)にかぶせることが非情な場合も少なくないのだろう。

それでも、子どもには何の罪もない、虐待は絶対悪だ、と思う人もいるだろう。しかし、虐待した親を責めても、世の中から虐待が減ることはないのではないかということを、私は投げかけたい。




今回はここまでです。まだ別に書きたいことがあるので、それは次回にまわそうと思います。

今回のレビューの印象だけだと『永遠の仔』は虐待した親を擁護する内容なのかと勘違いするかもしれませんが、決してそういうものばかりではありません。子の立場から、親を痛烈に批判する場面もあるので、そのあたりは次回に。

実際のところ、『永遠の仔』で描かれている虐待問題を、私自身もうまく整理できず、レビューを書こうか迷ったり、結論が出る問題でもないし、知らぬが仏なのかなと考えたり、あまり知人にはお勧めしない本だなとか思ったりしたんですが、考え続けることが大切であるという心情のもと、無理矢理まとめさせていただきました。

引用した台詞など、興味をひかれるものがありましたら、ぜひ読んでみてください。