「活きの良い会議」が組織を甦らせる――自発性を引き出す工夫【リレー連載⑫ 中嶌聡/はたらぼ】 | くろすろーど

くろすろーど

国公労連オフィシャルブログ★貧困と格差なくし国民の暮らし守る行財政・司法へ

中嶌聡/NPO法人はたらぼ
第7回:「活きの良い会議」が組織を甦らせる


多様なメンバーが集うようになれば、関心や要求も多様化し焦点がしぼれなくなったり、組織としての力が分散するリスクがある。
一方、その多様性を活かすことができれば組織にとって重要な資源になる。

多様性は自然に開花するものではなく、組織が大きくなればなるほど意図的な働きかけ・仕掛けが必要になる。

多様性を活かせているかどうかは、組織としての意思を決定する会議の場面に最も表れる。
だが、大企業でも中小零細企業でも同じだが、NPO、労働組合などの民主的であろう団体でさえ、意識的に会議に取り組めているとは言いづらい。

今回は会議の在り方について、私自身の経験から考えてみたい。


組織の悪循環

地域労組の青年部として活動し始めた当初、私たちは月1回の役員会議を開いていた。
しかし、当初は人数も少なく、さらに残業などで遅れてきたり、参加できないメンバーも多く、なかなか会議にならなかった。
一方で、会議をしたところで、普段から情報の共有がされていないと、議論にもなりにくい。
結果、中心になっている役員からの報告形式になり、その確認が主になっていく。
そうすると、特段活発に意見する必要もなくなるので、参加する意義も薄れてしまう。
参加者が確保できないので、会議を開くことそのものの優先順位がさがり、開催が不定期になり、ますます情報を共有できなくなっていく。
必然的に、役割の分担ができず、中心メンバーに役割が集中していくことになった。
役割が個人に集中し始めると、処理能力に限界が来て、個人の限界が組織の限界になってしまった。

私たちはこうして、幾度となく定期的な会議を頓挫させてきた。
そのうち、比較的時間の融通がきく数人のメンバーの間でのみ密に情報交換がされ、酒の席のような非公式な話し合いの中で意思決定がされるようにもなった。



半年の停滞で立て直しを決意

こうして、少人数ながらいわゆる「いつものメンバー」による意思決定はできるようになったが、そのメンバー数人にかかる負担は大きく、さらに組織としては脆弱な状態になった。
実際、私たちの組合には解雇などの労働相談から加入するメンバーも多く、無職の間は大いに参加できるが、就職が決まると仕事に集中しなければならず、参加が遠のいていく傾向があった。

ちょうど2年がたったとき、「いつものメンバー」が就職するタイミングが重なって相次いで参加できなくなり、半年間活動が停滞した時期があった。
そのとき、改めてしっかりとした組織として立て直す必要に迫られた。
つまり、仕事をしながらでも続けられるように、限られた時間で情報共有と意思決定、役割分担ができ、定期的で、公式な会議を継続できる方法を導入しなければならない、ということである。



「会議の技術」=ファシリテーション

では、どうすれば限られた時間の中で情報を共有し、効果的な議論の結果として意思決定をできるのだろうか。
ヒントになったのが「ファシリテーション」である。

ファシリテーションとは、「促す(facilitate)こと」を意味する言葉で、参加者同士の相互作用を促すための方法論として確立されてきた。
例えば、会議においては、問題の背景を共有し、アイデアを出し、それを整理し、意思決定していく一連の行為を効果的に進める具体的な方法だ。
大ざっぱに言うなら、「会議の技術・ノウハウの集積」である(会議以外でも多様な話し合いやワークショップでも使われている)。

今ではビジネス界でも当然のように導入されているファシリテーションだが、実は、草の根の社会運動の中で生まれてきたとも言われている。
社会からないがしろにされ虐げられてきた人々をサポートしていくために、意見を出しやすいように開発されてきた技術なのだ。
近年、あのアメリカの金融街を占拠したオキュパイ・ウォールストリートの運動でも、数千人の市民が話し合い、合意を形成していくために、毎日希望者にファシリテーションの技術トレーニングが開講されていたという。


情報の共有、役割の交換


まず、私たちは、「ネガティブなことでも本音でOK」という基本的なルールを定めた。
そして、全員で「効果的な会議をみんなでつくっていくこと」を申し合わせた。
毎回の会議はそのための実験であると位置づけ、会議終了時に「より効果的な会議にするためのアイデア」をテーマに5分ほど時間を取って振り返って議論した。

そこでは例えば、「議題を事前に役員ML(メーリングリスト)にて共有しておくこと」が提案され、さらに「資料はスマートフォンやノートパソコンで見られるので全員分印刷しなくていい」というエコプランも出てきた。
議題を事前に明確にすることで、ポイントもわかりやすく、議事録が取りやすくなった。
会議後に役員MLにて議事録を共有することで、参加できなかったメンバーにも情報共有が図れるようになった。

さらに、司会と議事録係を交代制にして、いろんな人のやり方を試してみよう、となった。
実際、司会が変われば会議の雰囲気も変わり、普段あまり話さないメンバーが司会役になると張り切ったり、議事録の書き方にも個性が出て、わかりやすい書き方などが洗練されていった。



会議が良くなると組織が活性化した


私にとって大変だったのは、「議題を明確にすること」だった。
議論が不明確だと、議論のしようがなく、雑談を誘発するだけになってしまう。
議題に対するたたき台を準備することも重要だ。叩き台としての案がなくても、いくつか選択肢までは出してみるようにした。
また、どうしても選択肢まで事前に煮詰めきれない時は、まず情報を共有した上で、みんなで選択肢を出すことに集中して、その後、選択肢を吟味するといった手順を取り入れた。

大まかなタイムテーブルもレジュメに記載するようにした。
そうすることで、参加者全員が、大体どの報告・議題を何時くらいまでに終わらせないと後で詰まってくるのかがわかるようになり、議論の収拾がつきやすくなった。
事前に議題を設定する上でも、何分くらいでこの議題を終わらせるかの想定を立てることになり、その時間内で議論をまとめるために、どんな情報を提供する必要があるかなどを逆算的に考えるようになったのだ。

こういった工夫で、会議は驚くほどに活性化した。
みんな毎月1回の会議を楽しみに感じはじめ、役割分担が進み、前回紹介した「政策提言会議」「多様性委員会」「女子会」や「ユニオンカフェ」のバージョンアップが図られ、HPも更新され、ライブハウスを借り切り労働問題を語り合うイベント「U-night」まで実現していったのだ。






なかじま あきら 1983年大阪府茨木市生まれ。大阪教育大学を卒業後、外資系人材派遣会社での正社員経験を経て、大阪の個人加盟ユニオンで活動。役員として4年間で200回以上の団体交渉を経験する。ネット中継やトークイベント等の新しい運動でも注目を集める。2013年に「NPO法人はたらぼ」を立ち上げ、代表理事に。ブラック企業淘汰を目指し、企業・労働者・行政の3者をつなぐ中間団体として活躍中。新聞・テレビ等からの取材多数。



イラスト 大江萌


※リレー連載「運動のヌーヴェルヴァーグ」では、労働組合やNPOなど、様々な形で労働運動にかかわる若い運動家・活動家の方々に、日々の実践や思いを1冊のノートのように綴ってもらいます。国公労連の発行している「国公労調査時報」で2013年9月号から連載が始まりました。