イラク帰還の陸上自衛隊員の自殺率は日本平均の18倍-集団的自衛権の行使は多くの自衛隊員の命を奪う | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 私たち国公一般(国家公務員一般労働組合)は、正規、非正規を問わず、国関連の職場で働く仲間の労働組合ですから、同じ国家公務員である自衛隊で働く正規・非正規の方や、防衛省の正規・非正規の事務職の方などからも労働相談が寄せられます。

 ごく最近も、防衛省の地方出先の事務職の方からタダ働き残業が恒常化していること、自衛隊で働く非常勤職員の方から労働条件が劣悪であること、自衛隊で働く女性の方からパワハラ・セクハラ・いじめがあること、などの労働相談を受けています。

 昨日、東京高裁が、たちかぜ自衛官いじめ自殺事件で、当時21歳の1等海士が自殺に追い込まれたのは先輩隊員による暴行・恐喝などのいじめが原因として、先輩隊員に計440万円の賠償を命じた一審横浜地裁判決を変更し、賠償額を計7,330万円に増額する判決を出しました。あわせて判決は、海上自衛隊による証拠隠し(艦内アンケートに自殺といじめの因果関係を証明する多数の証言があったのに、これを隠蔽したこと)の違法性を認め、国に対して別に20万円の支払いを命じ、海上自衛隊の組織的隠蔽をも断罪しました。

 このたちかぜ自衛官いじめ自殺事件もそうですが、私たち国公一般に寄せられる自衛隊員の労働相談からも感じるのが「自衛隊の暴力性と密室性」です。

 あらためて、以前紹介したジャーナリストの三宅勝久さんの指摘を再掲します。

 「平和を、仕事にする」――自衛隊員募集ポスターのキャッチフレーズです。私は自衛隊員の自殺問題を取材する中で、こうした理想とは裏腹に、自衛隊の現場では人権を無視した残酷ないじめや暴力事件が蔓延していることを知りました。

 私が自衛隊の取材を始めたきっかけはサラ金の取材でした。みなさん、自衛隊とサラ金とはまったく関係ないと思われるでしょうが、今から5年前、私がサラ金問題を取材していたとき、サラ金の多重債務に苦しむ自衛隊員のあまりの多さに驚いたことが自衛隊員の問題を取材するきっかけになったのです。

 国から衣食住が保障されている自衛隊員がなぜサラ金で借金を重ねるのか? 疑問に思った私が取材を進めると今度は自衛隊員の自殺が多いことに気づきました。

 1994年から2008年までの15年間で、1,162人もの自衛隊員が自殺しています。2004年度が100人、05年度101人、06年度101人と3年続けて過去最悪を記録し、2006年度の10万人あたりの自殺率は38.6で、一般職国家公務員の自殺率17.1の2倍以上にあたります。

 また、2007年度の数字を見ると、暴力事件での懲戒処分80人。わいせつ事件での懲戒処分60人。脱走による免職326人、そのうち半年以上も行方が分からず免職になった自衛隊員は7人。病気で休職している自衛隊員は500人にのぼっています。

 私は『自衛隊という密室――いじめと暴力、腐敗の現場から』(高文研)という書籍の中で紹介しましたが、取材を進める中で自衛隊というのは「暴力の闇」の中にあると感じています。男性の自衛隊員から殴打も含む虐待を受け、声を出すこともできなくなり自殺に追い込まれた女性自衛隊員。異動のはなむけとして15人を相手に格闘訓練と称したリンチを受け亡くなった自衛隊員。先輩の暴行を受け左目を失明した自衛隊員。自衛隊員の自殺の原因に、日常的な上官らのいじめがあったとして遺族が提訴しているケース。守るべき一般市民を自衛隊員が襲った連続強姦事件。上司からセクハラされた上に退職強要を受けた女性自衛官の裁判闘争。自衛隊員へのアンケート結果によると、女性隊員のうち18.7%が性的関係の強要を受け、強姦・暴行および未遂は7.4%にものぼり、自衛隊全体で700人以上が強姦・暴行および未遂の被害を受けているのです。その上、“臭いものにフタ”をして隠蔽する組織の取材を続けているうちに私は「死は鴻毛よりも軽し」という言葉が浮かびました。

 また、制服幹部一佐の年収は1,000万円以上、退職金は4,000万円。そして納入業者に役員待遇で再就職。防衛省との契約高15社に在籍しているOBは2006年4月に475人もいて、三菱電機98人、三菱重工62人、日立製作所59人、川崎重工49人などとなっています。2008年度の1年間で、防衛省と取引のある企業に再就職した制服幹部一佐以上は80人。三菱重工と防衛省との年間契約高は2,700億円にのぼっているのです。

 こうしたいじめ、暴力、汚職などが蔓延する職場が自衛隊という密室なのです。そうした職場のストレスから酒やギャンブル、女遊びにはまって借金を作り、身動きがとれなくなる人は後を絶たず、自殺者も続出しているのです。

 そうした職場の歪みから来るストレスに加えて、屈強、精強なはずの自衛隊員を自殺に追い込む大きな矛盾が背景にあるのではないかと私は思っています。それは、「旧日本軍」と「自衛隊」の矛盾、言い換えれば「軍国主義」と「民主主義」の間の迷走です。かつて他国の人々と日本の国民を脅かした「旧日本軍」のあとを今現在の「自衛隊」が追うという矛盾のなかに「兵士」の苦悩や多くの問題が隠れているのではないかということです。

 2007年度の1年間で、海上幕僚長の行った20回の訓示の中には、「帝国海軍」「海軍兵学校」などという「旧海軍」を讃える発言が15回もあるなど、いま現在も自衛隊そのものの中に「旧日本軍」が脈々と生きているのです。「旧日本軍」のように、他民族の命を抹殺できるようになるには、他民族への蔑視、他民族への人権侵害などの点でも「旧日本軍」のあとを追うことにならざるを得ません。他民族に対する蔑視や人権侵害を行おうとする組織において、その組織内部においても人権侵害が横行するであろうことは容易に想像がつくでしょう。

 「旧日本軍の伝統を、陸海空自衛隊はそのまま引き継いでいます」と言ってはばからない田母神俊雄・元航空幕僚長の姿に、「軍隊あって国家なし」のようだった「旧日本軍」への憧憬を見出すのです。国民の生命・財産を守るはずの自衛隊は、かつて国民を苦しめたこの「旧日本軍」の背中を追いかけようとしているのではないでしょうか。

 ――以上が、三宅勝久さんの指摘です。それから、自衛隊の問題に関連して、NHKクローズアップ現代が4月16日、「イラク派遣 10年の真実」を放送しています。

 この番組の中で、イラクへ派遣された陸海空の自衛隊員は、5年間でのべ1万人にのぼり、このうち帰国後28人が自殺していたことと、睡眠障害や不安など心の不調を訴えた自衛隊員が、どの部隊も1割以上にのぼり、3割を超える部隊もあったことなどが指摘されていました。

 番組では、イラク派遣から1カ月後に自殺した20代の自衛隊員の母親が取材に応じ、「(派遣中の任務は宿営地の警備だった息子が)『ジープの上で銃をかまえて、どこから何が飛んでくるかおっかなかった、恐かった、神経をつかった』、夜は交代で警備をしていたようで、『交代しても寝れない状態だ』と言っていました」、「息子は帰国後自衛隊でカウンセリングを受けましたが、精神状態は安定せず、カウンセリングでも『命を大事にしろというよりも逆に聞こえる、自死しろと言われているのと同じだ、そういうふうに聞こえてきた』と言って、この数日後、息子は死を選びました」と語っていました。

 東京新聞の半田滋編集委員は、イラク帰還の自衛隊員の自殺が25人で自殺率を計算していて、「自衛隊全体の2011年度の自殺者は78人で、自殺率を示す10万人あたり換算で34.2人。イラク特措法で派遣され、帰国後に自殺した隊員を10万人あたりに置き換えると陸自は345.5人で自衛隊全体の10倍、空自は166.7人で5倍になる」としています。

 自殺者28人は、25人の1.12倍なので、単純に考えてそれぞれ1.12倍すると、陸自の自殺率は386.96、空自は186.704となります。警察庁の発表によると2013年の日本の自殺率は21.4なので、陸自は18倍、空自は8.7倍も自殺率が高いことになるのです。

 米兵の自殺者も多くイラク帰還兵が殺人を犯す確率は市民平均の114倍で、27分ごとに発生する米兵の性暴力で女性兵士3割がレイプ被害にあい、イラク帰還の多くの母親兵士は子を愛する感情さえ奪われています

 いま、安倍政権は、集団的自衛権の行使容認を狙っていますが、集団的自衛権を行使するということは、自衛隊員が戦地で実際に戦闘行為を行うことになり、上記の米兵と同じような惨状に自衛隊員も陥るということです。戦闘行為を行っていないイラク派遣の自衛隊員でさえ、PTSDとなり、自殺者が多発しているわけですから、集団的自衛権の行使容認によって、自衛隊員は戦闘で命を落とすだけでなく、多発する自殺によっても命を奪われてしまうことは明らかでしょう。同じ国家公務員の命を奪うことが明らかな集団的自衛権の行使を認めるわけにはいきません。

(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)