「政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は、労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方を一般社員に広げることを検討する。仕事の成果などで賃金が決まる一方、法律で定める労働時間より働いても「残業代ゼロ」になったり、長時間労働の温床になったりするおそれがある。」
「対象として、年収が1千万円以上など高収入の社員のほか、高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員を検討する。いずれも社員本人の同意を前提にするという。」
朝日の記事の中にある「高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員を検討する。いずれも社員本人の同意を前提にするという」というのが、何の歯止めにもならないことは、「合法的に過労死・過労自殺を認めている日本社会」という現実がすでにありますから、「残業代ゼロ社会」となってしまうのは目に見えているといえるでしょう。
私は、労働総研の労働者状態分析部会に入っているのですが、そこで、安倍政権が狙う「残業代ゼロ」等の導入でどのくらい賃金が減少するかをシュミレーションしました。その結果が下の表です。
ここからが試算ですが、政府の規制改革会議「雇用ワーキンググループ報告書」にもとづいて、上の表の注1~注4を設定。そして、週労働時間を55時間と控えめに設定し(※「控えめ」の理由は下記注意書き参照)、所定内労働時間は週40時間、週残業時間は15時間(=55時間-40時間)として、月を4週間とし、月間60時間、年720時間でシュミレーションしました。(※週労働時間を55時間とするのがなぜ「控えめ」なのかと言うと、総務省の「就業構造基本調査」では、年250日以上、1日35時間以上働く正規労働者の中で、「週労働時間60時間以上」は19%なのです。現在でも2割近く占める正規労働者の労働時間は今回の安倍「雇用改革」の中でさらに長時間労働になると想定されているのですが、今回の試算では週労働時間を55時間と低く「控えめ」な数字にしています)
以上でシュミレーションすると、上の表の「みなし労働8時間の裁量労働制の場合の残業代減収額」のところの「一人当たり残業代減収額」の欄にあるように、年収275万円で残業代減収額119.5万円、年収350万円で残業代減収額152.1万円、年収450万円で残業代減収額195.6万円、年収550万円で残業代減収額239.1万円、年収650万円で残業代減収額282.5万円、年収750万円で残業代減収額326万円、年収850万円で残業代減収額369.5万円、年収950万円で残業代減収額412.9万円となり、1人当たりの残業代減収額は労働者全体の平均で166.1万円になります。「残業代ゼロ」で総額10.5兆円も労働者は減収となるのです。