TPPは1%の利益のために99%を犠牲にし日本の主権をアメリカ企業に売り飛ばすもの | すくらむ

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 全国食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)が9月22日、全国代表者・活動者会議を開きました。その中で、東京大学大学院・鈴木宣弘教授による講演「TPP参加をめぐる局面――アメリカの世界戦略を背景として」が行われました。鈴木宣弘教授の講演要旨をいくつかに分けて紹介したいと思います。今回はまず講演の導入部分を紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


 TPP参加をめぐる局面
 ――水面下で進む既成事実化


 政局が流動的な中で、原発問題や消費税増税の問題がクローズアップされ、TPP(環太平洋連携協定)問題は動いていないかのように言われることがありますが、それは間違いです。政府が国民に「情報収集のために関係国との事前協議」と説明しているのはウソで、実務レベルでは水面下でアメリカの要求するTPP参加への「入場料」とも言うべき「頭金」支払いの交渉は着々と進んでいます。ゼロ関税の日本の自動車市場において「最低輸入義務の台数を設定せよ」というようなアメリカからの「言いがかり」の要求に対して、あからさまに国民的議論をすれば日本の国民も猛反発するに違いないから国民には知らせずに水面下で譲歩条件を提示し、「頭金」支払いの水準が詰められているのです。


 藤村官房長官は8月29日に、9月にロシアで開かれるAPEC首脳会議では交渉参加の是非を判断しない考えを明らかにしましたが、「関係国との協議が煮詰まっていく段階ではあるが、まだ煮詰まったということではない。最終的に煮詰まっていない部分がある」として、「参加について決定ではない状況だ」と述べました。つまり、日本の国民の反対意見が多いかどうかか「最終的に煮詰まっていない」理由ではなく、アメリカから「頭金」を日本がまだ支払っていないと言われているのが理由なのです。


 アメリカが「決意を示せ」と迫っているのは、何らかの機会に「TPPに入りたい」と日本が再度明言するという意味では必ずしもなく、自動車などの懸案事項に対して、しっかりとアメリカの要求に応える覚悟が示されるかどうかという意味です。日本はすでに2011年11月に「TPP参加」の意思表示をしているのだから、日本が再度「決意表明」しなくても、アメリカが「頭金」を払ったと認めたら、日本の「決意」は示されたということで、次の国際会議のタイミング云々でなく、今後いつでもアメリカが「日本のTPP参加を正式に認める」とアナウンスして、すべてが決してしまうかもしれないという状況にあるのです。


 アメリカ政府は議会に日本のTPP参加を承認してもらう手続きとして、「日本がここまで我々の要求を飲むと言っているので承認してくれ」というアメリカ議会への「通告文書」を作成しています。韓米FTAの交渉開始においても、「韓国にここまで主権侵害を認めさせたから承認してくれ」という恐るべき内容の「通告文書」が作成されました。このような「通告文書」が完成できた時点が日本の「実質的なTPP参加承認」となります。


 野田首相が不信任決議案の成立を恐れてTPPにゴーサインを出せない、総選挙も近いから動けない、アメリカも大統領選までは動けない、といった観測もありますが、「通告文書」が完成されていれば、時期はずらされたとしても、日本のTPP参加承認は既成事実として、正式なアナウンスのタイミングだけの問題になりかねません。ですから、このような「通告文書」の完成自体をストップさせる必要があります。


 日本政府は情報をかくし国民をだまし
 国を売り飛ばそうとしている


 アメリカに対して必死の譲歩をしてTPP参加承認を画策しながら、政府は5月22日の市民サイドの呼びかけによる集会の場でも、「日本のTPP参加と自動車、郵政、BSEなどの問題は何ら関係がない」と口裏を合わせて答えました。しかし、日本政府サイドがそう言った数日後には、アメリカ側の資料から5月7日にアメリカからの使者が日本にTPP参加の「頭金」として10項目の自動車関連の要求事項を突きつけ、日本側からも譲歩案を提示したことが判明しました。そこで、国会議員の有志が説明を求める緊急集会を招集しましたが、政府側は「何も説明できない」と1時間に渡って繰り返すだけで、何も語りませんでした。テレビカメラも回っていたのに、この様子は地上波では一切報道されませんでした。日本政府は情報は隠すもので、出す内容はごまかすことしか考えていないのです。こんな国民無視の勝手な暴走を一日も早く止めなくては国がもちません。


 脱原発のデモも10万人を超える大きなうねりになって、マスコミも報道せざるを得ない状況になってきました。TPPについても国の将来に禍根を残さないように、早急に大きなうねりをつくり、政治家、一部の官僚、企業、マスコミ、研究者が国民をだまして国を売り飛ばすような行為をストップさせなくてはなりません。


 TPPの本質
 1%の利益のために99%を犠牲にしてもかまわない


 経済学には規制緩和を徹底し、1%の人の富が増加し、99%の人々が損失を被り、食料も医療も十分に受けられないような生活に陥っても総計としての富が増加していれば、それが効率だという乱暴な論理があります。それをアメリカ主導で徹底しようとするのがTPPの本質と言っても過言ではありません。


 TPPはいままで日本がアジア諸国中心に締結してきたFTA(自由貿易協定)の一つの種類ではあってもまったくレベルが違います。いままではお互いに関税撤廃の困難な分野をある程度認め合い、国内企業と外国企業がまったく同じ条件で活動できるところまでは国内制度の撤廃はできないというように柔軟性を持って互恵的にやってきました。


 TPPの関税撤廃に例外はない
 例外があるかのように言うのはウソだ


 しかし、TPPには関税撤廃に例外はありません。米や乳製品のように日本がこれまで高関税を残してきたごくわずかの農産物もすべてゼロ関税になります。例外ができるようなことを匂わせているのはウソです。ゼロ関税にするまでに7年間程度の猶予期間は認める、というのが交渉参加国でほぼ合意されています。それをとらえて7年間の猶予期間に農業もコストダウンすればよいと言う人には、日本の1俵(60kg)14,000円の米生産費が7年でアメリカの2,000円程度になりますか? 1kg65~70円の生乳生産費が7年でニュージーランドの15~20円程度になりますか? と問いたい。猶予期間が何年あってもゼロ関税なのだから例外ではありません。革とか履物の関税もゼロ関税になります。歴史的にも日本が革とか履物の関税をゼロにできますか? このことを考えても大変な問題です。


 国民生活守る制度・仕組みを「参入障壁」とし
 日本の社会制度そのものを破壊する


 しかも関税だけではなて、日本の社会のシステム、社会制度そのものが崩されて行きます。TPPは国民生活を守る制度・仕組みを国境を越えた自由な企業活動の「非関税障壁」として撤廃・緩和をめざします。そもそも政策・制度というのは、相互に助け合い、支え合う社会を形成するためあるわけですが、1%の人々の富の拡大には、それは邪魔なものです。そこで、アメリカの言う「競争条件の平準化」の名の下に、相互扶助制度や組織=国民健康保険、様々な安全基準、共済、生協、農協、労働組合などを攻撃するわけです。そして、食料、医療のみならず、水道・電気・ガスなどの公益事業にも外国企業が参入し、国民生活の根幹を握られてしまうことになりかねません。それを許したイギリス国民はいま嘆いています。


 「ISD条項」により日本の主権は侵害され
 アメリカ企業が主権を握ることになる


 しかもこれに「毒素条項」と呼ばれる「ISD条項」(Investor-State Dispute)が加わると、TPPを始めた時点ではアメリカが問題にしなかったかのように見えたので大丈夫だと思っていたら、たとえばアメリカの保険会社が日本の国民健康保険が参入障壁だと言って提訴すれば損害賠償と制度の撤廃に追い込むというようなことができます。地方自治体の独自の地元産業振興策でたとえば学校給食に地元の食材を使いましょうという奨励策も競争を歪めるものとして攻撃されかねません。「ISD条項」が発動されなくとも、その可能性への恐怖が威嚇効果となって、各国、各自治体が制度を自ら抑制するようになることもアメリカの大きな狙いだと指摘する研究者もいます。


 アメリカはいままでもNAFTA(北米自由貿易協定)でメキシコやカナダに「ISD条項」を使って、人々の命を守る安全基準や環境基準、社会の人々の公平さを守るセーフティーネット、そういうものまでも自由な企業活動を邪魔するものだとして、メキシコやカナダ政府を国際裁判所に提訴して、本当に損害賠償を払わせたり制度の撤廃に追い込んできました。こんなことができるようになるわけです。


 日本政府は「アメリカは国民健康保険については問題にしないと言っているのだから大丈夫だ」と言っていますが、これは間違いです。いま言った「ISD条項」もありますし、たとえば日本の薬価を決める過程にアメリカ企業を参加させるよう求めていますから、これで日本の薬価は25%程度は上昇しますし、製薬会社の特許が強化されて安価な薬の普及ができなくなります。こうして、国民健康保険の財源が圧迫され、崩されていく、こういう流れもあります。


 所得の低い人にも医療が薬が行き渡るようにしているシステムを各国が持っているわけですが、これをアメリカの製薬会社が崩そうとしています。日本の医療制度をアメリカが攻めてこないなんてことはまったくありえません。いままでも長い間、アメリカは日本の医療制度を崩そうとしてきたのですから、TPPでさらに強く言ってきます。世界に冠たる国民健康保険と言いますが、負担ゼロの欧州、カナダ、キューバなどとは違い、日本では患者負担割合が高まってきています。地域医療の後退は深刻で、私も故郷もそうですが産婦人科がなくなり小児科がなくなりお産ができない地域が拡大しています。こうした流れを徹底しようとするのがTPPです。


 「ISD条項」については、オーストラリアでさえ、アメリカに対してTPPの議論の中で、こういう国家の主権を侵害するような条項は認められないと主張しています。しかし、日本政府はまた言います。「日本もISD条項をアジアとのFTAで入れているじゃないか、だから何が問題なんだ」と。これは大きな間違いです。「ISD条項」そのものは確かに問題ですが、それ以上にアメリカが「ISD条項」を濫用するということに大きな問題があるのです。アメリカは「ISD条項」を濫用して国際裁判所に提訴するわけですが、国際裁判所そのものがアメリカの息がかかっていてアメリカに有利な判決ばかり出るようになっているわけです。このアメリカが好き勝手に濫用できるという「ISD条項」の大きな問題点を無視して日本もアジアで入れているのだから大丈夫だなどと言っている日本政府がまったくおかしいのです。


 「ISD条項」は、各国が決めている制度をアメリカの企業が変えてしまえるわけですから、まさに主権の侵害を可能とするものです。韓国の方が先日、日本に来たときにこう言っていました。「韓国の主権は韓国国民にもうありません、アメリカの企業が主権を持っているのです」と。