被災者の命と暮らし見捨てる復興予算19兆円の使われ方-補助金の9割以上を被災地以外の企業に投入 | すくらむ

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 9月9日に放送されたNHKスペシャル「東日本大震災 追跡 復興予算19兆円」。まさにナオミ・クラインが著書『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』で警告した事態の一端が震災後の日本において跋扈していることを告発した番組でした。


 ショック・ドクトリンとは、「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」のこと。日本においては、東日本大震災という大惨事につけこんで、復興予算が必要として、消費税増税と所得税増税が強行されようとしています。しかも、庶民増税などによってまかなわれる復興予算が被災者の命や暮らしを守ることには十分に使われず、相も変わらず新自由主義のトリクルダウンの論理で企業さえ儲かれば被災者の生活も再建できるとするやり方が横行しています。


 さらに驚くべきことは被災地の企業を支援するのではなく被災地以外の企業の儲けをはかるトリクルダウンになっていること。被災地以外の企業が儲かれば被災者の生活再建になっていくのだなどという、ここまで来ると一種の妄想としか思えない“超新自由主義”“超トリクルダウン理論”が平然と使われているのです。被災地以外の企業に復興予算が注ぎ込まれる一方で、被災地の命を守る医療の現場に再建資金が十分に届かず被災者が思うような治療を受けられない事態が起きているのです。被災者の命より被災地以外の企業の儲けを優先するやり方を「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」と言わずして何と表現すればいいのでしょうか?


 震災を利用して庶民増税を強行しながら、被災者の命と暮らしを十分に守らず、被災地以外の企業の儲けをはかっていることを告発したこの番組の一部要旨を紹介します。(by文責ノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


 被災地の復興が進んでいません。お金は一体どこに使われているのでしょうか? いま東日本大震災の被災地から、切実な悲鳴があがっています。被災地復興のためにつぎ込まれる復興予算は、2012年度までに19兆円が計上されています。増税を前提としてつぎ込まれることになった復興予算は、一体どのように流れ、どう使われているのでしょうか? “巨額のマネー”の行方を追い、その実態を徹底検証します。


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 災害予算としてはかつてない規模の金額19兆円。この復興予算の財源のうち半分以上は所得税や個人住民税など私たちへの増税でまかなわれます。とくに所得税については納税額の2.1%が上乗せされ来年から25年間に渡って私たちの新たな負担となります。


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 「被災地の復興のためであれば」と考えて私たちの痛みを伴う増税に納得された方も少なくないのではないでしょうか? しかし、取材を進めるとその使い道があまり知られていないだけでなく被災地以外のところにも復興予算が投入されている実態が分かってきました。


 9割以上が被災地以外の

 企業への補助金に使われている


 第3次補正予算の9.2兆円は「本格的な復興予算」と位置づけられています。


 岐阜県関市。国内最大手のコンタクトレンズメーカーの工場の一角で新しい製造ラインの建設が進められています。この設備投資に投入されていたのが復興予算でした。経済産業省による復興予算の一つである「国内立地補助金」の約3千億円の中から投じられました。成長分野の産業であり被災地への波及効果があることが企業が復興予算を利用できる条件です。企業側は被災地における将来の雇用拡大の可能性をあげ、経済産業省はこの申請を認めました。経済産業省が「国内立地補助金」を認可したのは全国で510件にのぼります。被害が大きかった岩手・宮城・福島の3県は30件。9割以上が他の地域に投入されていました。


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 なぜ被災地以外で行われる事業に復興予算が使われているのでしょうか? 各省庁が予算要求の根拠としたのは、去年7月、政府が閣議決定した「東日本大震災からの復興の基本方針」です。冒頭に掲げられた理念は「被災地域における社会経済の再生及び生活の再建に国の総力をあげてとりくむ」ですが、それと並んで掲げられていたのが「活力ある日本全体の再生」です。この文言によって被災地以外にも復興予算を投入することが可能になったのです。どれぐらいの復興予算が被災地以外に投入されているのでしょうか?


 3次補正の復興予算4分の1=約2兆4,500億円が
 被災地以外に使われていた


 かつて阪神淡路大震災の復興予算の使い道を検証した神戸大学名誉教授の塩崎賢明さんに、3次補正予算の9.2兆円を分析してもらいました。事業数は488事業で、その中には、塩崎さんが「被災地関連とは言い難い」と指摘する事業が多くありました。


 たとえば、公安調査庁は「被災地域における治安確保・調査基盤の強化」などとして公安調査庁のテロ対策として2,800万円を使っていました。震災後、過激派が社会不安に乗じて勢力を拡大しているというのがその理由で、車14台の購入などにあてられました。


 老朽化した国立競技場の補修費に3億3千万円をあてた文部科学省。東日本大震災後の「減災」の考え方にかなうとしています。


 農林水産省は反捕鯨団体対策などに22億8,400万円。南極で行われる調査捕鯨を安全に行うことが引いては被災地の水産業の復旧・支援につながると説明しました。


 塩崎さんは、「被災地関連とは言い難いですね」、「膨大な復興予算がいるんだと言って増税しながら集めているわけですけど、使い道が被災者や被災地のところにいくのかどうかという観点で見た場合、首をかしげざるを得ないような内容になっていますね」と語ります。


 3次補正の復興予算9.2兆円のうち約2兆4,500億円が被災地以外に使われていました。3次補正の復興予算の4分の1が被災地以外に使われていたのです。


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 また、これまで別の予算で使われていた事業が復興予算で使われるようになったケースも明らかになりました。


 沖縄本島最北端にある国頭村。海沿いの国道1.4キロに渡って工事が行われています。防波堤や斜面を補強する工事で、8年前から台風・大雨対策として通常の道路予算で行われてきました。ところが今年度はその予算7億円のうち5億円が復興予算から出ていました。


 塩崎さんは、「被災者のため被災地のためにという旗印で枠取りしたお金ならば、被災地にもっと使われるようにすべきじゃないでしょうか」、「被災地や被災者が口実に使われて集められたお金が必ずしも被災者にいかない、被災地にいかないという構図になっていると言えるんじゃないでしょうか」と指摘します。


 被災地の商店街再建など6割が見捨てられている


 岩手県大槌町。津波によって町の中心部は壊滅的な被害を受けました。5年前に借金をしてようやく開いた飲食店を津波で失ったMさん。店も家も津波で流されたため仮設住宅で暮らしています。家族7人の暮らしのためにも1日も早い店の再建をめざしています。Mさんが店の再建のために利用しようとしたのが「グループ補助金」と呼ばれる復興のための制度です。


 復興予算19兆円のうち約2千億円が「グループ補助金」にあてられています。Mさんは商店街の仲間と一緒に申請し、「商店街の再建は地域の復興に向けて大きな力となる」と強調しました。人口流出に歯止めのかからない大槌町も復興の柱と期待していました。4カ月に渡って商店街の仲間と議論を積み重ね申請にこぎつけました。しかしその1週間後、グループ補助金の認定は見送られました。「グループ補助金」の岩手県分は150億円しかなく、それに対して申請額は255億円(申請数929)と殺到し、商店街の復興よりも水産加工業などの復興が優先されたためMさんたちは見送られてしまったのです。認定からもれた事業者は岩手・宮城・福島の3県で2,704事業者。およそ60%の事業者がこの補助金を使えませんでした。

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 「グループ補助金」が見送られたMさん。いまはアルバイトで働き、収入は震災前の半分以下に落ち込んでいます。「正直、先が見えないっていうか。本気に首つる覚悟で借金しなければやっていかれない状態です」と語るMさん。津波で壊滅的な被害を受けた街の再建は進まず、復興予算を頼りにしていた商店主たちは支援を受けられず追い詰められています。Mさんと一緒に申請した商店主は「つらい思いをしたけれど乗り越えようと思って補助制度があるって飛びついて審査で落とされるっていう。俺らはどうしたらいいかという思いがものすごい先にたってしまって」と語ります。


 被災者の命と健康が見捨てられている


 復興予算が被災地に届かないという深刻な事態は命を守る医療の現場でも起きています。宮城県気仙沼市。震災前から医師の数は全国平均のおよそ半数でした。医師不足の街を津波が襲い、35あった医療機関のうち21の施設が大規模半壊以上の被害を受けました。1年半がたった今も震災前の状態に復旧した医療機関は21のうちわずか7にとどまっています。


 気仙沼市で15年間地域医療を支えてきた村岡正朗医師(※村岡医師は全国保険医団体連合会[保団連]の仲間です)は、診療所を津波で流されましたが地元にとどまって被災者の命と健康を支えています。医療機関の不足に加え不便な仮設住宅での暮らしを余儀なくされている被災者たち。村岡医師は一人ひとりのもとに出向き診療を行っています。


 厚生労働省の医療分野の復興予算は2,382億円。そのうちもっとも多いのが地域医療再構築事業720億円。しかしこれは中長期的な医療の復興を目的に使われています。医療機関の緊急的な災害復旧に使われたのは約160億円。ところがその対象は公立病院が中心で民間の医療機関は一部にとどまり補助率も低くなっています。そのため村岡医師のような街の医師は大きな負担を抱えています。村岡医師は今年5月、別の場所に土地を借り診療所を再建しました。再建費用は建物だけで9千万円かかりました。村岡医師の場合、市の休日診療を行っていたため補助の対象になりました。しかし受け取れるのは9千万円のうち6分の1の1,470万円だけでした。しかもこの補助金は建物の再建にしか使えず医療設備の購入費にあてることはできません。外科に欠かせないレントゲンなど最低限の医療機器にしぼりましたが、それでもかかった設備費は5千万円。震災前の診療所のローンも残っていたため、村岡さんの借金は2億円にのぼりました。医師が多額の自己負担をしなければ再建できないため、気仙沼市では6割を超える医療機関が震災前の規模に復旧できないでいます。


 復興予算が十分届かないなか、再建をあきらめ気仙沼市を離れる医師も多く、そのため村岡医師のところには、いま多くの被災者から訪問診療の依頼が相次いでいます。1カ月に行う訪問診療は120件以上。残された医師が大きな負担を抱えながら被災地の医療を支え続けています。


 村岡医師は、「費用対効果だけで、こういう田舎は捨てられているのかもしれないと思うときがある」と語ります。


 地域の経済を支える中小の企業や商店。そして何よりも人々の命を守る地域の医療。被災地復興の担い手となるべき一人ひとりに復興予算が十分に届いていない現実が見えてきました。それは被災地全体の復興がさらに遠のくことにつながるのです。また被災地以外では数々の事業が認められている一方で、たとえば商店への「グループ補助金」が予算の制約で認められなかったり、民間の医療機関に十分な再建費用が届いていなかったりする現実を見ると被災地の現状が反映されないまま予算が決められていったようにも思います。復興予算の配分のあり方、そしてその優先順位が果たしてこのままでいいのでしょうか? あらためて検討する必要があるのではないでしょうか?


 もっとも苦しい状態に置かれている被災地の人々が置き去りになっているという復興予算から見えてくる現実。この国が将来どのような国になるかを問いかけてきているのです。