貧困を家族の責任にする生活保護バッシングは新型の「日本型自己責任論」 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 「会社が倒産してから80社ぐらい受けたのですが私がいたらないばかりに不採用が続き今年の2月にとうとう生活破綻してしまい生活保護を受給しています。先週末からテレビ、ラジオ、新聞、SNSなどで私たち生活保護受給者は叩かれています。本当に辛く、生活保護を辞退して餓死したいぐらいです。きょうも不採用通知が届きました。餓死した方がいいのかな」


 ――これは昨日放送されたTBSラジオDig「タレントの親の生活保護受給が国政レベルの問題に!?生活保護における扶養義務とは何なのか?」に寄せられた生活保護受給者の声です。


 小宮山洋子厚生労働大臣が、河本準一さんの母親が生活保護を受給していた問題を受け、生活保護受給者の親族が受給者を扶養できない場合、親族側に扶養が困難な理由を証明する義務を課す生活保護法改正を検討する考えを示したという点について、TBSラジオDigで話された生活保護問題対策全国会議の代表幹事で弁護士の尾藤廣喜さんは要旨次のように指摘していました。


 小宮山厚労大臣は25年前の札幌白石区の餓死事件などをご存知ないのでしょうか?


 子ども3人を抱えた母親が生活保護を申請したのですが、窓口で「離婚した前の夫から扶養できないという証明書を持ってきなさい」と言われたわけです。その母親はDV被害者で、DVを受けていた前の夫から扶養できないという証明書を取ってくること自体できないわけですが、その証明書がない限り生活保護の受給はできないと追い返されているのです。


 そのため、子ども3人にはなんとか食事を与えていたのですが、自分は食べることができずに餓死したという事件です。この餓死事件の原因はなんでしょうか? 小宮山厚労大臣が言っている「親族側に扶養が困難な理由を証明しろ」と法的根拠がないのにすでにずっと生活保護の窓口で現実に行われていることによって餓死しているという経過があるわけです。


 DV加害者に対してそうした証明書を出してもらうということはDV被害者の居場所を知らせてしまうことにもなり、この点でも命の問題にかかわることになってしまうわけです。


 最近でも北九州などで起こった餓死事件も同じように扶養を求められて生活保護の受給ができずに餓死しているのです。この日本で餓死事件がどんどん起きていて、その大きな原因として扶養の問題があるのです。そのことを小宮山厚労大臣はご存知ないのでしょうか? 小宮山厚労大臣がもし知った上でのことなら許されないことです。(※尾藤廣喜さんの発言要旨はここまで)


 また同日、生活保護問題対策全国会議が抗議の緊急記者会見を行いました。以下、緊急記者会見での発言要旨を紹介します。


 ▼NPO法人自立生活サポートセンターもやい代表・稲葉剛さん
 「新型自己責任論」「日本型自己責任論」が作られつつある


 生活保護バッシングでメディアが騒ぎ、自民党が取り上げて、政府がそれに乗っかっていくという恐ろしい状況になりつつあります。


 大阪維新の会が発達障害というのは家庭で予防できるのだという条例案を出して撤回したという問題がありましたが、私はこれらは一連の動きではないかと見ています。ひとことで言うと「新型自己責任論」「日本型自己責任論」とでも言うべきものが意図的に作られつつあるのではないでしょうか。


 私たちはこの間、「貧困は自己責任ではない」「貧困は社会の問題である」「貧困を生み出す社会を変えて貧困問題を解決していく必要がある」とずっと訴えてきて、ある程度そのメッセージは伝わって広がってきたと思っています。貧困状態にある人に対して、「自分ひとりの努力で頑張ればいい」「ひとりで頑張ればなんとかなる」という人は今でもいますが少なくなってきたと思います。ただその変わりに「家族で支え合いなさい」という言説があちこちで出て来ているのが今の状況なのではないでしょうか。


 ▼元日本テレビ解説委員、法政大学教授・水島宏明さん
  テレビ報道は取材者側の偏見と差別に満ちたもの


 一連のテレビ報道は、取材者側の偏見に満ちたものになっています。河本準一さんの記者会見で、レポーターが「恥ずかしくないのですか?」という質問をし、「生活保護は恥ずかしいものだ」というメッセ―ジを国民に伝え、それを制作者側は差別的な発言であるという意識さえ持っていません。そして、連日、生活保護問題を報道しているのに、この会場に、テレビカメラが1台もないこと自体、今のテレビ局の抱える問題を象徴しています。


 ▼弁護士・林治さん
  生活保護バッシングは「餓死者」を増やすことに


 今でさえ、自分が生活保護を申請したことで親や兄弟に迷惑にかけるのではないかと躊躇する人がいる中で、今回のバッシングでさらに躊躇する人が増えることになります。現時点でも扶養照会があるから生活保護を申請したくないという人がいる中で、それを一層強化することになればまさに「餓死者」を生み出すことになりかねません。


(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)