国家公務員賃金を2年で100万円カットするブラック政府とブラック企業の人権蹂躙スパイラル | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 民主、自民、公明の「密室談合」による「議員立法」として「国家公務員賃下げ法案」が突如持ち出され、労使交渉もまともな国会審議もなく2月23日、衆院本会議で採決が強行され、参議院におくられました。


 もともとの「国家公務員賃下げ法案」も国家公務員労働者の基本的人権を蹂躙する憲法違反の法案でしたが、ここへきて「密室談合」という形式の上でも民主主義を破壊する暴挙を重ねています。


 地方においては、橋下徹大阪市長などが民主主義破壊の暴挙を連発していますが、日本政府みずからが労働者の基本的人権を侵害する憲法違反・民主主義破壊の暴挙を強行しようとしているのです。


 いま、労働者の基本的人権を蹂躙するブラック企業――直近では居酒屋「和民」で過労自殺を強いた渡邉美樹ワタミ会長のブラックぶりがなまなましいところです ――が大きな社会問題になっています。ブラック企業の蔓延とともに、日本においては政府みずからが率先して国家公務員労働者の基本的人権を蹂躙する「ブラック法案」=「国家公務員賃下げ法案」を強行しようとしているのです。


 賃金水準の面で、国家公務員労働者の賃下げは、民間労働者の賃下げへと波及していく「賃下げスパイラル」を加速します。


 そして、労働者の権利の面で、国家公務員労働者の基本的人権を平気で蹂躙するブラック政府というあり方は、民間労働者の基本的人権を平気で蹂躙するブラック企業をあとおしすることにならざるをえないでしょう。公務と民間の賃下げ競争は、公務と民間の労働者の人権蹂躙競争でもあります。「賃下げスパイラル」は、「ブラック政府とブラック企業の人権蹂躙スパイラル」でもあるのです。


 こうした問題に警告を発している研究者などの指摘を以下紹介します。(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 ▼結局ツケは国民に
  ニッセイ基礎研究所 松浦民恵氏


 「震災によって業務量が増大している公務員が少なくないなかで、給与カットが行われ、さらに増税ということになると、公務員だけが二重、三重に重荷を背負うことになる。」、「(公務員は)公的サービスの担い手であることから、彼・彼女らの働きぶりは、国民の生活に多大な影響を与える。拙速な労働条件切り下げのツケは、結局国民が負うことになる。」(ニッセイ基礎研究所のサイトより抜粋 2011年5月16日)



 ▼大手から零細まで賃下げの口実に
  経済評論家 奥村宏氏


 「企業はいま、とにかく人件費削減を進めたい。日本経団連が2007年にホワイトカラーの残業代をゼロにできる制度の導入を働きかけたように、人件費削減を狙ってきた。今回の公務員の賃下げは、経営者が組合や社員に震災後の業績悪化を補うための賃金カットを求める口実になる」(※『週刊ポスト』2011年6月3日号「公務員の給与カットに『ザマアミロ』というとしっぺ返し来る」より抜粋)



 ▼消費減退は避けるべき
  兵庫経営者協会 寺崎正俊会長


 「これから必要なのは、国民の経済が沈滞するのをいかに防ぐか。国家公務員の給与引き下げなどで消費が減退するようなことは避けるべきだ」(『朝日新聞』神戸版 2011年5月28日付より)



 ▼国家公務員のほうが民間より

  賃金が低いことははっきりしている
  国家公務員はこの10年、

  年間賃金が平均100万円も下がったうえに
  さらに2年で100万円年収が減ります。
  関西大学教授 森岡孝二氏


 今回の民自公合意(自公案の民による丸のみ)どおり国会で決まれば、国家公務員は、2011年人勧の遡及分(△0.23%)と、12年度、13年度の7.8%引き下げによって、2年間で平均100万円近い減収を強いられます。


 ではこれまでどうなってきたか。それを確認するために苦労して見つけたのは、人数が最も多い行政職俸給表(一)適用者のモデル給与例です。


               2001年    2010年     減少額
25歳
(係員、25歳、独身)  315万8000円 281万7000円 △34万1000円


30歳
(係員、配偶者)    405万3000円 357万7000円 △47万6000円


35歳
(係長、配偶者、子1人)552万3000円 455万8000円 △96万5000円


40歳
(係長、配偶者、子2人)617万8000円 513万3000円 △104万5000円


*給与は両年とも人勧実施後の年間給与


 40歳(4人家族)の係長の例では、この10年ほどで年収が100万円以上減っています。平均年齢は41~42歳ですから、行政職(一)の国公労働者は全体の平均でもこの間100万円以上減っていることになります。これほど下がっているというのは私も知りませんでした。これには、この間にボーナスが4.7ヵ月から3.95ヵ月に下がったことと、人勧の引き下げ率が若年者では低く、中高年では高いことに関係しています。


 世間で国家公務員の賃金は民間よりかなり高いと思われている理由の一つは、誤った比較の仕方にあります。官民の給与の比較は、職階、勤務地域、学歴、年齢などを同じくする者同士で行われなければなりませんが、公務員の賃金は高いという議論は、民間の非正規労働者や中小企業労働者の女性労働者を含む賃金の実感や数字をもとになされています。民間では賃金の性別および規模別格差がきわめて大きい点も注意を要します。


 総務省「国家公務員給与等実態調査」と厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を用いて、大卒について、国公(正職員)を民間の大企業・男性(正社員)と比べると、2010年は、国公38万1000円、民間39万5000円で、民間大企業のほうが1万円以上高いことがわかります。


 ここで注意すべきは、年齢と勤続年数です。2010年の数字で見ると、平均年齢は国公41.9歳、民間41歳、平均勤続年数は国公20.5年、民間12.5年です。もし民間大企業で40歳、勤続20.5年の労働者を抽出して、国公行政職(一)の平均と比較すると、国公のほうが民間より賃金が低いことがよりはっきりします。


 平均年齢がほとんど違わないのに、平均勤続年数に8年の開きがあるのは、国公のほうが民間より雇用が安定していることの表れです。勤続年数が長い分だけ、退職金も国公のほうが高いはずです。しかし、だからといって、国公の勤続年数を短くしろ、退職金を減らせと主張するのは間違っています。今回の7.8%(人勧遡及分を含めると8%)の削減にかぎらず、国家公務員の賃金切り下げは、必ずあれこれの行政法人や地方公務員だけでなく、民間労働者に波及せずにはおきません。


 人事院の存在がどうなるかは、国家公務員へのスト権付与問題との絡みで不透明ですが、人事院とその勧告の機能が残るとしても、準拠すべき民間が一段と下がる可能性があるために、2014年度以降もとのレベルに戻るとはかぎりません。逆にスト権が付与されたとしたら(その可能性は低いにせよ)、スト権のある民間も長らくストができないでいる現状を考えると、今回の臨時特例法による2年間の落ち込みはいったん回復されたとしても、長期的には民間と競うように際限なく引き下げられていく恐れがあります。(「森岡孝二の連続講座 - 第113回 国家公務員はこの10年、年間賃金が平均100万円も下がったうえにさらに2年で100万円年収が減ります。」2012年2月23日 『働き方ネット大阪』より抜粋)


 ▼憲法違反の公務員賃金カットは震災復興財源の
  調達もできず、財政赤字も膨らむ
   神戸大学名誉教授、

   法学館憲法研究所顧問

   浦部法穂氏


 人事院勧告は、公務員について労働基本権が大きく制限されている(団体交渉権や争議権は認められない)ことの「代償措置」であり、これがあるから公務員の労働基本権制限は憲法に違反しないのだ、というのが、これまでの政府の説明であり、また、最高裁判決の論理であった。だから、人事院勧告によらずに、あるいは勧告以上に、公務員の給与を引き下げることは、これまでの政府見解や判例の立場からしても憲法違反ということにならざるをえないのである。


 公務員の給与を下げるべきだという議論は、公務員の給与は私たちの税金で払われているのに公務員が民間よりも高い給与を受け取っているのはけしからん、ということなのであろう。公務員の給与が私たちの支払う税金によってまかなわれていることは間違いない。「もとは私たちのお金だ」というのは、たしかである。だから、税金を負担する側の立場からすれば、公務員の給与を引き下げることで税負担が少しでも減るならば、それは歓迎すべきことだ、ということになろう。その意味で、多くの国民が、公務員給与引き下げキャンペーンに同調する気持ちはわからないでもない。しかし、公務員の給与が私たちのお金から出ているとして、では民間サラリーマンの給与は誰のお金なのか? 自分の甲斐性で稼いだお金だから自分のお金だと思っている人が多いかもしれないが、そういう観点でいえば公務員も同じことになるはずである。民間サラリーマンも、その給与が誰のお金から出ているのかといえば、すべて「私たちのお金」である。会社勤めの人の給与は、その会社の商品等を買った私たちが支払ったお金から出ているのであり、そういう意味で「もとは私たちのお金」であって、公務員の場合と大差はない。要するに「金は天下の回りもの」であって、公務員の給与だけが「もとは私たちのお金」であるわけではない、ということである。そう考えれば、公務員給与引き下げキャンペーンが理に適わないものであることがわかると思う。そのキャンペーンを精力的に張っている新聞社やテレビ局等の社員の給与は、「もとは私たちのお金」なのに、たぶん、公務員よりも、もちろん民間平均よりも、かなり高いはずだから。


 そして、より肝心なことは、公務員給与の引き下げは公務員だけにとどまらず、必ず民間に波及するということである。公務員の賃金カットは、業績が一向に上向かない民間企業の経営者が従業員の賃金カットに踏み切るきっかけになるだろう。そうして民間の賃金水準が下がれば、また公務員の給与引き下げ圧力が出てきて公務員の賃金カット、それに連れてまた民間の賃金カット、そしてまた……、というように「賃金カットのスパイラル」に陥る可能性すらある。かくして賃金がどんどんどんどん下がれば、国内需要はどんどんどんどん低迷し、いくら増税しても震災の復興財源は調達できず、財政赤字も膨らむばかり、だからまた増税で需要がさらに低迷し……で、日本経済は崩壊するということにもなりかねない。公務員給与引き下げキャンペーンは、低賃金で苦しむ人や納税者心理には受け入れられやすいかもしれないが、安易にこれに同調することは自分で自分の首を絞めるようなものだと認識しなければならない。(法学館憲法研究所「浦部法穂の憲法時評 公務員の給与」2011年12月22日より抜粋)



 ▼「公務員の給与を下げろ」と叫んでどうなるのか
   斎藤貴男氏

    連載コラム「二極化・格差社会の真相」
    『日刊ゲンダイ』2011年12月14日付


 最近、テレビに出演して消費税増税について論争する機会を何度かいただいた。つくづく感じることがあったので書き残しておきたい。


 私は増税には大反対だ。ただし、それとこれとは次元がやや異なっている。「増税の前にやるべきことがある。まずは税金の無駄遣いを改めよ」という意見が出るのは当然だ。一般論として私も相手方の増税派も大いにうなずき、その場は収まる。


 ところが視聴者の反応がすさまじい。「そうだ、公務員なんか全員クビだ、でなければ給料をドカンと下げちまえ」のオンパレードなのである。


 懸命に話した消費税そのものの本質論など、まともに聞いてもらえていないのかと思うと悲しい。それは確かに、就労人口の圧倒的多数を占める民間のサラリーマンや派遣労働者より、公務員の方が安定しているのだろう。だがそう思うなら、どうして自分たちにも公務員並みの待遇や権利をよこせと叫ばないのか。


 まだしも比較的には恵まれている職種の人々を罵倒し、引きずり下ろすのに成功したとして、何かよいことがあるとでもいうのか。それでいて、まさに最悪の条件で働く労働者を搾取して、何億円もの上前をハネている企業経営者や株主らに対しては、皆さん、ジッとガマンの子なのだった。


 公務員の給料が下がれば、民間はさらなる人件費削減の好機と捉えよう。経営者や官僚や政治家や、要は世の中を支配する側から見たら、これほど都合のよい国民も珍しい。今やこの国の多数派は、上に搾取される以外の生き方を認められなくなっているのではないか。


 誰しもそれぞれの立場がある。私は自営業の家に生まれ育ち、自分自身も自由業だから、そこからの視点が価値判断のモノサシになりやすい。消費税率が引き上げられれば、仕事の対価に転嫁させてもらえない増税分を自腹で納めさせられ、いずれ廃業に追い込まれるのが自明だから反対しているのだが、だからってそこまでの被害は受けないサラリーマンを引きずり下ろせというふうには思わない。密かな誇りだ。


 消費税だけの問題ではない。TPPをはじめ小泉時代に逆戻りしつつある構造改革路線のことごとくは、エリートサラリーマンと派遣労働者の格差をますます広げると同時に、その他の生き方を徹底的に排除していく。


 連帯して抗(あらが)わなければならない時なのだ。虐げられる側の人間が反目し合うように仕向けられている現実に、いいかげんに気づこうよ。