国に家計を管理される - 現実味帯びる納税者番号制度 | すくらむ

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 ※「連合通信・隔日版」(2010年10月23日付No.8385)からの転載です。【★連合通信の購読申し込みは下記アドレスへ
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 〈連載企画〉消費税引き上げはなぜダメか(5)
  国に家計を管理される/現実味帯びる納税者番号制度


 消費税引き上げとともに、国は家計をくまなく管理しようとしている。国民一人一人に政府が番号付ける「納税者番号制度」だ。


 ●低所得者対策を口実


 番号制は、国が納税者に番号を振って給料などの収入状況をつかみやすくすることで、税金の徴収を確実にしようという仕組みだ。消費税との結びつきは、皮肉にも低所得者対策がかかわっている。


 夫婦と子2人で年収300万円の世帯では、消費税10%で年間約10万円の負担増になる(第一生命経済研究所の試算)。政府は低所得世帯が支払った消費税額を後で戻す仕組みを検討中だ。そのためには、各世帯の所得を正確に把握する必要があり、番号制は欠かせないとしている。


 番号制導入の動きは加速している。政府の検討会は6月に中間報告を公表。各国の事例から年金保険料の支払いなどにも使われる米国型を有力とし、すでに運用中の住民基本台帳ネットワークを生かして番号を付ける方式を提案した。


すくらむ-納税者番号の仕組み


 税の方向性を決める政府税制調査会も「社会保障の充実に利点がある」と導入の方向で一致。年金を扱う日本年金機構を廃止して国税庁と統合する「歳入庁」構想とともに、各省庁で調整を進めている。納税者の権利を守る団体「税経新人会全国協議会」の佐伯正隆税理士は「消費税引き上げよりも先に実現するかもしれない」と語る。


 ●米国では悪用事例も


 番号制導入は1984年にも計画されたが「プライバシーを侵害する」との反発から中止。06年にも安倍政権がめざし、同じ理由で見送っている。導入は税務当局の悲願だが、今でもプライバシーが侵害されることに違いはない。


 そのせいか、中間報告では懸念材料をわざわざ示している(表参照)。ここでは国の対応策も合わせて示されているが、例えばプライバシー保護に第3者機関を置いても、政府の関与を完全に取り除くことは難しいだろう。目的外使用に厳罰を設けたとしても、それを上回るメリットがあれば悪用を目論む者は現れるはずだ。


すくらむ-納税者番号の心配


 不安はこれにとどまらない。モデルとされた米国では、9ケタの数字が書かれたカードを国民に配り、不動産取得や選挙の投票などの身分証明書として広く使われている。そのために番号流出の危険は高く、他人が悪用して勝手に借金をする被害も出ている。


 ●納税の公平性保てず


 税制調査会などからは「番号制を導入すれば、脱税などの不正行為ができなくなり、公平性が担保される」と強調する意見も出ているが、これも正しくない。


 なぜなら、農業や漁業を含めた自営業者の所得は自己申告であるのに対し、サラリーマンなどの給与所得者は税務署に収入を把握されているからだ。前出の図表で示した通り、仮に番号制を導入したとしても、自営業者が税務署に収入を自己申告する点は同じ。「公平性の担保」に番号制が功を奏すわけではない。


 ジャーナリストの斎藤貴男氏は著書「消費税のカラクリ」でこう記す。


 「私たちの日常の何もかもが政府に見張られ、彼らに都合よく管理される時代の幕開けを意味する」
 民主党は10月13日に「税と社会保障の抜本改革調査会」の初会合を開き、消費税引き上げ議論をいよいよ本格化させた。会長の藤井裕久元財務相は「税率の話はしない」としつつも「年内に骨格をまとめたい」(読売新聞)と議論を進める意向を見せた。今後も政府与党の消費税論議は「引き上げありき」で報道されるはずだ。
 消費税引き上げは日本社会を壊す危険を抱えている。黙って弊害を受け入れるか、もしくは「NO」の声を上げるのか。一人一人が考えて動く良識が問われている。(※連載おわり)