ブラック企業が若者をメンタル疾患に追い込み「民事的に殺す」-パワハラ専門部が存在する日本企業 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 パネルディスカッション「ブラック会社で働く若者たち――周辺的正社員の明日」から、NPO法人POSSE 代表・今野晴貴さんの報告要旨です。(※「非正規の惨状が「ブラック企業化」と正社員の「働きすぎへのムチ」として利用される」 の続きとなるエントリーです。私の要約メモによるものですのでご容赦ください。by文責ノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 NPO法人POSSE は、若者からの労働相談を年間200件ほど受けています。私自身の活動のきっかけは、若者に投げかけられている「自己責任論」への疑問がありました。現代の若者の意識の方に問題があってニートやフリーターになっているのだから、「ニート・フリーター問題は若者の自己責任だ」などと責められ、「若者はゲームをやりすぎてニートになった」とか、「食べ物がやわらかくなって若者のあごの発達が悪くなってニートになった」とか、果ては「若者とチンバンジーが似ているからだ」などのひどい言説が跋扈してきました。


 若者のニート・フリーター問題は「自己責任」などではなく「労働問題」なのだということを、私たちは若者の労働相談やアンケートなどに取り組みながら、それを調査・分析し、提言していきたいと考えています。


 POSSEでは、働く若者の労働実態と意識を調査するため、2006年から毎年、アンケート調査を実施しています。その中から、2008年のアンケート調査を紹介します。アンケートの調査対象は18~34歳で500人から回答を得ました。調査結果のポイントは次のようなものでした。


 ◇500人を雇用形態別に見ると、①中心的正社員30.6%(定期昇給がありかつ賞与がある正社員)、②周辺的正社員25.1%(定期昇給または賞与が無い正社員)、③派遣・請負労働者28.0%、④パート・アルバイト16.3%、であった。


 ◇正社員だけを見ると、定期昇給がありかつ賞与がある中心的正社員は6割で、定期昇給または賞与が無い周辺的正社員は4割にものぼることが分かった。


 ◇周辺的正社員は、定期昇給または賞与が無いため低収入であるにもかかわらず、周辺的正社員の労働時間は平均週54時間で、中心的正社員の平均週50時間よりも長時間働いている。


 ◇雇用形態別の職歴から、正社員から非正社員への一方通行の転換があることが明らかになった。とりわけ周辺的正社員から派遣・契約といったフルタイム型非正規雇用への転換として顕著に表れており、ここに太い転換のルートが形成されている。


 ◇若者全体の2割以上が職場で「使い捨ての雰囲気」を感じていた。


 ◇残業代不払い、有給休暇が取得できない、社会保険・雇用保険未加入、パワハラ、セクハラ、不当解雇などの違法状態を経験したことのある若者は全体の5割にのぼった。


 次に、リーマンショック以降に寄せられている若者の労働相談の問題です。相談で一番多いケースが、「自己都合退職で会社をやめさせられそうになっているが会社都合にできないか」というものです。そこで、2009年調査はハローワーク前で500人の若者にアンケート調査を行いました。


 離職理由を聞くと、①自己都合退職69.9%、②解雇19.3%、③退職勧奨3.4%という結果で、自己都合退職が7割にのぼりました。


 ところが、その自己都合退職の理由を聞いたところ、パワハラやセクハラ12.5%、雇い止め12.8%、賃金・残業代の不払い4.0%などといった違法状態までが「自分の責任」と受け止められしまっていることが分かりました。自己都合退職とされているのに会社の違法行為に関連している場合が少なくないということです。


 私たちに寄せられる労働相談事例から見えてくる自己都合退職へと追い込む代表的な手法は、会社側が、若者に対して、「うちの会社は自己都合退職でしかやめられない」、「今まで実際ひとりも自己都合以外でやめた人はいない」、「自己都合退職以外の前例はない」と言ってくるケースが多いのです。こんなふざけた話はないのですが、こうしたケースは中小零細企業だけでなく大企業で働く若者からも多くの相談事例が寄せられています。


 さらに、会社側が「自己都合扱い以外では離職票を出さない」と若者を脅迫するケースも多く、離職票が無いとハローワークに行って雇用保険の手続きを始めることさえできなくなってしまいます。これは企業が国の福祉政策に介入して脅迫の材料とする悪辣な手法です。こうしたひどいケースはまれではないのです。


 企業側はこうして若者を自己都合退職に追い込むことによって解雇する際に至るまでコストを削減し、訴訟のリスクを回避しているわけです。一方、若者は自己都合退職とされることにより雇用保険の給付制限など、職業移動にかかるあらゆるコスト負担を余儀なくされるのです。


 また、会社側は雇用調整の手法として、「いじめ・パワハラ」を用いて、退職勧奨から退職強要を行います。面談を通じて若者を追い込む手法がよく使われるのですが、その内容は、若者の能力や人格の問題を徹底的に追及し、自己批判をさせるというものです。「生まれてからこれまでのことを反省し、レポートを書け」「努力してこなかった人間だから仕事ができないんだ。反省しろ」などといったことを毎日強要するのです。こうしたことを毎日強要されると、通常の若者はメンタルヘルスに支障をきたすようになります。これは複数の企業で同じ手法が用いられていましたので、企業の中に一定流通している手法と考えられます。こうした企業の行いによって、メンタルヘルスに支障をきたした若者は働くこともできなくなり、家族がいなければ生活保護に頼るほかなく大きな社会的損失となっているのです。


 私たちはこうした労働相談事例から、「日本の企業の中には無限の指揮命令権がある」ような状態だと言っています。日本の企業には労働者に対するあらゆる業務命令が許されているような信じがたい無法状態が広がっているのです。日本には法的規制がほとんど無いため、配置転換など通常の指揮命令の範囲で労働者をいくらでも追い詰めることが可能になっています。


 こうして追い詰めた若者を、企業は「民事的に殺す」のです。たとえば、職場のことを思い出すだけで過呼吸になるなどのケースが実際に何件も相談で寄せられていますが、若者の親が相談に来るわけですが、私たちは本人に会うことすらできないのです。こうした状態になると労働組合はおろか弁護士との相談も不可能になってしまい、労災だと訴えることなどもできないため、私たちは企業が若者を「民事的に殺す」ことを企業のコスト削減、リスク回避のシステムとして行っていると指摘しているのです。


 従業員1,000人規模の企業で働く複数の若者から寄せられた相談で判明したのですが、その企業にはパワハラを専門とする部署があって、職場の労働者へのメンタルヘルス攻撃をシステム化し実際に仕事として行っています。ブラック企業と言うと、小さな企業が多いように思われるかも知れませんがそうではないのです。


 私たちが労働相談を受けていて実感するのは、日本の企業は中小・大手を問わずやりたい放題だということです。それなのに、「正社員の解雇規制を撤廃しろ」などと主張し続ける学者が未だに存在していますので、POSSEでは2010年のアンケートで解雇問題をさらに調査を進め、職場の事実からそうした議論の間違いを指摘していこうと考えています。