※全労連の談話を紹介します。
「新成長戦略」の閣議決定にあたって
政府は6月18日、「新成長戦略(『元気な日本』復活のシナリオ)」を閣議決定した。
この「新成長戦略」は、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の実現を目標としている。6月22日に閣議決定された「財政運営戦略」での「財政健全化目標(基礎的財政収支の2020年までの黒字化など)」や「安定的な財源を確保するための税制改革」と一体のものである。そのことからして、「新成長戦略」の中には、消費税率引き上げを正当化するための生活関連分野での歳出カットや、財政規律優先の社会保障制度みなおしなど、自民党政権の経済、財政政策を焼き直した部分も少なくない。
また、同じく6月22日に閣議決定された「地域主権改革」では、国の行政サービス実施責任を極少化し、地域住民に自己責任を押し付けるものとなっている。「新成長戦略」では、「地域資源の活用による地方都市再生、成長の牽引役としての大都市再生」が主張されるが、「地域主権改革」とあわせ読めば、地域間格差の是正や地域経済の安定に資する内需型経済よりも、大企業の産業競争力(国際競争力)強化を優先している。この点でも、これまでの政権の「成長のシナリオ」との差は見いだせない。
かつて2001年9月20日に、小泉純一郎首相(当時)の下で決定された「総合雇用対策(雇用の安定確保と新産業創出を目指して)」は、「医療福祉、環境」などの分野が「新しい市場創出の鍵を握る」としていた。「待機児童ゼロ作戦」が打ち出され、保育所設置の基準緩和などが強調された。「技術革新による新事業の創出(イノベーションの促進)」が主張され、大学への競争原理導入を強制した。「中高年齢者等の就業促進」、「女性が働き続けられる経済社会基盤の構築」などが「就業形態の多様化に対応した環境整備(有期雇用や裁量労働制の規制緩和など)」とともに強調され、雇用の不安定化と安あがりの労働力づくりを加速することとなった。
こうしてみると、小泉政権の「総合雇用対策」と菅政権の「新成長戦略」との違いは必ずしも明確ではない。「構造改革」への後戻りを宣言したのが「新成長戦略」だと言わざるを得ない。
閣議決定された「新成長戦略」では、「グリーン・イノベーション」(環境)、「ライフ・イノベーション」(医療・介護、子育てなど)、「アジア経済」(鉄道などの社会資本整備の官民一体展開など)、「観光・地域」(ビザ発行の条件緩和や民間資本活用など)が成長分野とされる。そして、これらの分野の成長を支えるために、「科学・技術・情報通信」、「雇用・人材」、「金融」を総動員するとされる。
そのことから、例えば、「医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出」の目標として、「新規市場約50兆円、新規雇用284万人」を2020年までに達成することが掲げられている。
総論では、「持続可能な財政・社会保障制度」が「雇用を創出」するとともに「経済成長の礎」になるとして、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体性が強調される。
これらの総論や、各論相互の関係に異論があるわけではなく、目標を設けた政策実施も当然のことである。しかし、内容には、疑問があり、同意できない点が少なくない。
一つは、この間、大きな社会問題となっている貧困の解消に向けた明確な目標が掲げられていないことである。相対貧困率が15.7%にものぼる「貧困大国」であることを明らかにした後の政府の「成長戦略目標」としては、その不十分さは否めない。
二つに、「ディーセント・ワーク」実現の観点から「同一価値労働同一賃金」、最低賃金の引き上げなどが政策課題とされている。このこと自体は歓迎するが、その具体化のプロセスが明確にされていない。また、これらの政策課題と並列的に「新しい公共」の担い手育成が述べられており、官製ワーキングプアが大きな問題となっている現状をふまえたものとなっていない。
三つに、個人金融資産(1400兆円)などを成長分野の投資に誘導することや、民間資本による公共資本整備、成長分野での規制緩和などが随所で強調されている。個人金融資産の投資への誘導が、「カジノ資本主義」を煽る一因となったことは、08年の金融危機でも明らかになった。その点での総括と反省が十分になされてはいない。
四つに、財政運営とかかわって、「成長のために必要な分野への重点配分、税制による対応」が強調される。経済成長を優先する結果、社会保障など国民生活関連の予算を削減し、あるいは大企業優遇税制を聖域化してきたことが、労働者・国民の貧困と格差を深刻化させてきた。その点での総括は極めて不十分である。
「新成長戦略」での「強い経済」は一部大企業の国際競争力強化や、アジアへの投資増にとどまり、効果が国民に還元されないことが懸念される。「強い財政」は消費税率引き上げによる「財政当局にとっての安定財源確保」と、アジア進出を強める大企業の法人税減税にしかならないことを恐れる。国の責任が明確にされない「強い社会保障」は、医療、福祉、保育などの営利化・市場化が強行される危険性がある。
そのような懸念が払しょくされないままの「新成長戦略」の強行には反対する。雇用問題での政労使の対話での公正な取り扱いも含め、国民的な議論を通じた適切な政策の採用に努力するよう求め、全労連として、そのための運動を組織することを表明する。
2010年6月28日
全国労働組合総連合
事務局長 小田川義和