子どもは貧困の被害者であるばかりか次代への「貧困の運び手」をさせられている-『子どもの権利手帳』 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 ※「こどもの日」のきょう、「いのち・そだち・まなび」京都子どもネットが、『子どもの権利手帳』を発表しました。その『子どもの権利手帳』から「子どもの貧困を根絶するための当面の社会政策課題」を中心に、一部を紹介します。『子どもの権利手帳』は、「こどもの日」にあらためて「子どもの貧困問題」を考えるための必読書です。(★『子どもの権利手帳』の全体については、「いのち・そだち・まなび」京都ネットのブログ http://blogs.yahoo.co.jp/inochisodachimanabi  から、PDFファイルで入手できます。byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 あなたは、毎日十分な食事を食べられていますか。
 あなたは、清潔で体にあった服を着ていますか。
 あなたは、病気を予防し、かかったときには治療を受けることができますか。
 あなたには、安心できる場所がありますか。
 あなたには、信頼できるともだちがいますか。
 したいと思ったとき、あなたは勉強ができる環境にいますか。
 会いたいと思ったとき、あなたの大切な人と会うことができますか。
 言いたいことを言えない、意見を真剣に聞いてもらえない、そんなことはありませんか。
 あなたの意見は、あなた自身の暮らしのなかでどの程度尊重されていますか。
 いま一番必要な「子どもの人権」とは何か、一緒に考えていきましょう。


 「人権(じんけん)」ってなんだろう?


 権利とは一般に、あることをする自由、またはしない自由のことをいいますが、そのうち重要なもので、すべての人が生まれたときから持っている権利のことを特に、「人権」といいます。


 人権は誰かにもらうものでもないですし、誰にもうばうことのできないものです。ですから、子どもであるあなたにも当然に、人権は保障されます。


 子どもの人権とは?


 子どもは毎日成長し、発達します。また、おとなと比べ、差別や虐待、搾取などを受けやすい弱い存在でもあります。


 このため、「子どもの人権」については常に、子どもという存在の本質に立ち返って考える必要があります。


 「したいこと」が「できる」?


 「したいこと」が「できる」ことが人権の重要な要素だったとしても、それが「できない」子はどうすればよいのでしょう。あるいは、したいことが「見つからない」子もいるかもしれません。


 ただし、この子の「したいこと」はもしかすると、限られた選択肢しかないなかで、やむなく選んだものかもしれません。また、したいことが「見つからない」子のなかには、ただのんびりしている子だけではなく、傷つき、自尊心を失い、とてもそんな余裕はないという子もいるはずです。


 だとすればこの子たちは、したいことを「見失っている」ともいえるでしょう。そんな子たちにとって、今、いったい何が必要なのでしょうか。


 昼食の時間、お弁当もなくクラスメートから隠れるように菓子パンを取り出す子。


 昼も夜も懸命に働くお母さんの影で、一人じっと留守番をする子。


 体調がわるくてもお金の心配をして、言い出せない子。私たちはこうした子どもたちの声をたくさん、聞いてきました。さまざまな困難を抱える子どもたちにとって必要な「子どもの人権」とは何だろうか、本当に必要な人権カタログを作りたい、これが私たちの動機でした。


 私たちがこの手帳を作ったわけは…


 この世に生まれた子どもたちには、例外なく「生まれてきてよかった」と思ってほしい。


 「子どもは大人に従うべき」で、「子どもに権利がある」なんて考えたこともない大人たちに、子どもには立派な権利があることを知ってほしい。


 ちゃんと子どもを育てるのは親の義務と、自分を追い詰めているパパやママに、子育ては独りではできないことを伝えたい。


 「親や子どもはこうあるべき」と、「あるべき」「ねばならない」に縛られないで、大人も子どもも失敗してもよいことをみんなに知ってもらいたい。


 『子どもの権利』を切り口に、大人が他者をみる眼や自分をみつめる機会になればと思います。貧困、虐待、自己責任とは無縁の生き方を、子どもたちに教えられる大人になりたいと願い、私たちはこの手帳を作りました。


 私たちが特に大切と考える子どもの人権は、6つの柱からなっています。どこからでも、関心のあるページから開いてください。
(2010年5月5日 「いのち・そだち・まなび」京都子どもネット)


 「子どもの権利条約」とは…


 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は1989年、国連総会で採択されました。前文と本文54条からなり、世界中の子どもが幸福に生きることを願って、現在、約192の国と地域で締結されています。日本も1994年にこの条約を批准しました。


 「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」という4つの権利を子どもに保障しており、子どもにとって一番いいことは何かということを考えなければならないとうたっています。


 「子どもの貧困」から「子どもの時代」へ


 子どもの貧困


 長期にわたる貧困の中で、子どもの人間としての発達・成長が阻害され、本来、豊かな人間関係の中でこそ育まれるはずの自律した力、社会参加の力を蓄えられない子どもたちがいます。


 待ち受けている大人社会は、低賃金と雇用破壊が常態化している社会であり、人間関係を形成しにくい「弱肉強食」の競争社会です。そして貧困が世代を超えて連鎖し、社会の中で貧困層が固定化されています。子どもは貧困の被害者であるばかりか、次代への「貧困の運び手」をさせられています。


 貧困の深刻化する社会にあって、子どもの意欲や希望はその源泉のところで、すでに奪われています。一見、自己責任に帰すべきと考えられがちな「努力」する力さえも、貧困の中で奪われているのです。


 貧困は社会的孤立をもたらし、孤立は、「貧困の自己責任論」で増幅されます。家庭内の軋轢が増し、虐待や暴力、犯罪など、悲劇の背景は多くの場合、貧困と、それがもたらす孤立です。


 人はすべて、社会を構成し、社会を支える成員であり、存在そのものが掛替えのない価値あるものとして、自他共に、評価されるべきものです。そして、ときに、流動する社会の変革に参加する存在でもあります。貧困がその道を阻んでいます。


 子どもの時代へ


 「子どもは社会が育てる」。「病気は社会で治すべき」。2009年は、子どもに光が差し初めた一年でした。


 子ども手当の創設、高校授業料の無償化、生活保護の母子加算復活、子どもの医療費助成など、子育て支援策がたくさん実現しました。子どもの貧困が、放置し得ない事態に至ったからです。こうした施策の積み重ねで、子どもの貧困は解消に向かいはじめました。


 大切な視点は、子どもを権利主体として、権利を行使する存在と位置付けることです。これは、子どもが庇護されるべき存在である事と矛盾はしません。


 まず、子ども自身が、自らの権利を自覚し、考え、相談をし、救済を求められる仕組みを社会に整えることです。子どもの貧困を生み出さない社会です。


 貧困の自己責任論に亀裂が生じてきました。子どもの貧困への対処が切り拓いた地平です。


 子どもの貧困を根絶するために
 
――わが国の当面の社会政策課題


 1.「貧困」の発見


 人々の置かれたある生活状態を「貧困」ととらえることは、そうした生活状態を「容認できない状態」と社会が判断することで「発見」されるものであると同時に、貧困の克服に迫る制度づくりの第一歩になります。つまり、貧困認識とは貧困な生活状態を社会的に放置できない問題として、その是正に向かう「反貧困」の契機として位置づけられます。


 ところで、世界で最初に貧困が「発見」されたのは19世紀末のロンドンでした。大実業家であったチャ―ルス・ブースは、「大不況」(1873~96年)の最中に、社会民主連盟が「労働者の4分の1は人間としての健康を維持するのに不適切な生活を送っている」旨の調査結果を発表したことに対して、事実をもって否定しようとしたのが、そもそも調査を行った理由でした。


 ブースの調査は、まず子どもの生活状態を知ることから始まりました。ロンドンの学校委員会(school board)の250人の家庭訪問員(visitors)が、仕事中に入手した情報の聴き取りを行いました。家庭訪問員の仕事は、学齢児童の家庭を定期的に訪ね、家庭の基本情報と地域実態を調査することにあり、彼らは貧困家庭の実情をよく知っていたからです。その上で、子どもの親の就労形態と賃金に注目して、ロンドンのハックニー地区を対象に調査(1887年)を行い、規則的稼得者で「質素だが、他人に頼らなくても済む暮らし」を標準とみなし、これ以下の「貧困」「極貧」層が35.2%いることを発見しました。ちなみに、ブースがいう貧困とは、飢餓的貧困といえる水準でした。


 また、ブースは、これまで貧困に陥る原因と考えられてきた個人の「道徳的堕落」(ブースの調査項目では、「飲酒癖の夫婦」および「浪費ぐせの妻」など)は13%程度であり、半失業状態を意味する「不規則および間歇的な稼得」と低賃金など雇用上の問題で貧困状態にある者が68%、病気・虚弱や多子による者が19%と、貧困原因は個人の怠惰によるものではなく、イギリス社会が生み出した構造的な問題であることを明らかにしました。


 大実業家ブースが私財を投じて行った調査の結果は、同じく実業家であったシーボーム・ラウントリ―がヨーク市で行った貧困調査と相まって、当初の彼らの意図に反して、大量の貧困を「発見」することになり、貧困の個人責任説から社会責任説に転換することに貢献しました。これらの調査によって個人の資質の矯正ではなく社会の改良が必要とされ、20世紀初頭のイギリスにおいて、一連の社会改良立法が成立する原動力になりました。


 2.ブースの貧困根絶の提案


 貧困を根絶するために社会改良をどのように行うべきか、ブースは調査結果を踏まえて、次にあげる2つの提案を行いました。


 【提案1】


 不規則な稼得で低賃金の者には、完全失業者(求職者)として失業保険・扶助を給付し、職業訓練を行うことで、不安定雇用労働者として労働市場に立ち現れないような措置をとるべきであると提案しています。ブースは、「不規則および間歇的な稼得の者」=不安定雇用者を「社会問題の鍵」と捉え、貧困は主として「極貧者の競争の結果である」(とめどない賃金下落をもたらすから)と述べ、彼らに失業給付と職業訓練を提供し、その後、常用雇用者にすることを提案しています。


 つまり、不安定雇用(半失業状態)の解消と常用雇用化によって、賃金の下落にストップをかけることで、安定雇用にある現役労働者の賃金や労働条件が波及的に引下げられないようにするということです。失業する恐れの少ない安定雇用労働者が、失業保険の保険料を払い続ける意味はここにあります。すなわち、自分たちの利益である安定雇用と賃金確保のためにも、失業保険料の支払いは必要だということです。


 【提案2】


 働くことができない高齢者や障害者は、救貧法の拡大(現代風にいえば、生活保護・社会福祉の充実)や公的年金制度の創設により労働市場からの引退を促し、「食べるために、低賃金で働かなくても生活できるようにする」という提案です。老齢や障害によって労働能力に制約のある人たちには、無理をして働かせて劣悪な労働条件や低賃金を強いるのではなく、衣食住に困らな
いような生活保障を行うというものです。


 3.子どもの貧困を根絶するために――わが国の課題


 世界で初めて「貧困」を発見し、貧困克服の提案をしたブース調査を引用したのは、何も昔話をするためではありません。子ども社会にも「格差と貧困」が覆い、元派遣村村長の湯浅誠さんが「すべり台社会」と言うように、労働者の3分の1を超える非正規労働者が失職すると、労働者に対する社会保険等が機能せず、生活保護まで一気に滑り落ちてしまう「貧困大国・日本」を変革する上でのヒントがあると思うからです。また、貧困の自己責任を執拗に言う人たちに、調査結果を踏まえて「自己責任の前に社会的な責任を問うべきである」と、自らの主観的な意図を超えて、事実に誠実に向き合って政策提案を行ったブースのことを知ってほしかったからです。


 (1)子ども貧困を根絶するために


 子どもの貧困を根絶する第一歩は、すべての子どもの「現在」と「未来」を守るため、「いのち・そだち・まなび」を全うできる保障体系を確立することです。子どもたちはこの国の主権者にふさわしく、誰からも暴力を加えられる心配がない平和の下で、衣食住に事欠くことのない生活が営めなくてはなりません。


 その上で、近くに医療機関があり、医療費の負担なく医療を受けることで健康を保持でき、必要な保育・教育を無償で提供されることによって、見通しをもって自分の将来の姿を描くことができるようにしなければなりません。つまり、どの地域に住んでいても、子どもの成長過程に必要な医療や保育・教育・福祉が公共サービスとして受けられ、その費用も義務教育費のように無償であるべきです。つまり、子どもの「いのち・そだち・まなび」を守る施設が、どこに住んでいようと配置され、それを利用するのに金銭的な負担を必要としない仕組みをつくることです。それが大人であるわれわれの義務です。


 (2)「反貧困」に向かって


 以上は、子どもに向けての直接的な諸施策ですが、子どもは一人だけでなく家族とともに住んでいることからすれば、子どもの親たちに非正規雇用や失業を押しつけるのではなく、安定した雇用と家族で暮らせる賃金が受け取れるようにする措置が必要になります。


 資本主義という経済メカニズムの下で生きていくためには、労働者には「雇用」と「賃金」の保障がなければなりません。この社会では、生活の自己責任(自助)を全うするためには、この2つの保障が条件となります。しかし、自助の前提ともいえる「雇用」と「賃金」の保障が、経済不況によって著しく不安定になっているのに加え、一連の「構造改革」によって、労働政策においても社会保障政策においてもその機能不全が顕著になっています。以下では、労働政策と社会保障政策のあり方について提案します。


 「反貧困」の基本戦略(1)
 ――労働者派遣法の抜本改正


 第1に講じられるべきは、労働政策にあります。非正規雇用を全労働者の3分の1以上を占めるようにした労働者派遣法を抜本改正することです。労働者をモノのように扱う労働者派遣制度を廃止し、正規雇用者にすることが1つのポイントになります。


 もう1つの方向は、飛躍的な経済成長が見込めない今日においては、ワークシェアリングによる短時間就労でも、賃金保障と労働者に対する社会保障の適用をすることです。オランダなどでは、短時間就労でも最低生活を営める賃金を支給し、労働者を対象とする社会保障給付を受け取れるような労働基準と社会保障基準をつくりだしています。


 「反貧困」の基本戦略(2)
 ――社会保障制度の拡充


 「すべり台社会」を是正するためには、雇用と賃金の保障とともに、社会保障制度が機能を発揮できるように改める必要があります。以下、箇条書きでその要点を示します。


 (ア) 社会保険制度の拡充――当面、非正規労働者にも雇用保険・健康保険を適用し、また、国民健康保険制度にも傷病手当金を創設する。そして、医療保険の利用時3割負担を軽減するために国庫負担金を増額する。さらに、年金水準を引き上げ、最低保障年金を確立する。


 (イ) きわめて脆弱な社会手当制度の拡充――国際基準を大幅に下回る児童手当・児童扶養手当を拡充し、無拠出制給付(特別児童扶養手当・障害者基礎年金等)を増額する。


 (ウ) 生活保護基準以下の生活状態であっても、保護を受給できない(しない)人が多い現状を変え、「健康で文化的な最低生活」以下で暮らす人をなくす。また、保護基準を引き上げ、老齢加算制度を復活する。保護の支給期間を限定しようとする動きがあるが、最低生活保障の観点からは認められない。


 (エ) 住宅保障を社会保障制度に加える――家賃補助制度を確立し、最低居住基準を策定する。また、住宅政策の基本を、「持ち家」主義から公営住宅中心に切り換える。


 (オ) 介護・福祉サービスの利用時の応益負担(定率1割負担)原則をなくし、無償とする


 (カ) 母子福祉・障害者福祉・生活保護領域では「自立」と「福祉から就労へ」をスローガンとして、福祉サービスを受けなくなることを「自立」とみなし、非正規雇用に誘導する流れが依然としてあるが、この是正を行う。


 最低賃金と年金、生活保護の関係について、最後に一言述べます。


 現在の日本では異常事態がまかり通っています。それは、最低賃金額や国民年金の満額老齢年金額が、「健康で文化的な最低生活」の水準を示す生活保護基準より低く設定されていることです。これでは、多数の人々が生活保護に流れ込むことになってしまいます。また、勤労意欲や年金保険料の納付意欲が薄れてしまいます。この関係を逆転させ、生活保護基準の上に国民年金があり、その上に最低賃金額があるという位置づけにしなければなりません。わが国の所得保障制度の制度設計が、根本から間違っているからこんな問題が起きるのです。


 生活保護制度は基本的にはショートリリーフとして位置づけ、老齢・障害・母子などの年金給付は保護基準を上回る水準に引き上げ、そして最低賃金額も大幅に引き上げ、保護基準を下回ることがないような年金・賃金保障水準をもつ制度を確立することが、いま求められています。


 子どもの権利手帳
 2010年5月5日第1版第1刷発行
 編者「いのち・そだち・まなび」京都ネット
 ブログ 
http://blogs.yahoo.co.jp/inochisodachimanabi


 ★子どもたちの「いのち・そだち・まなび」を守るネットワークへあなたも!


 私たち、“「いのち・そだち・まなび」京都子どもネット”は、児童相談所などの相談員、児童福祉施設のスタッフ、教職員、学童指導員、小児科医、弁護士、研究者や学生など、子どもの「いのち・そだち・まなび」に関するみなさんが集まり、「子どもの貧困」問題について、意見を出し合い、考えてきました。


 この「子どもの権利手帳」は現時点での私たちの到達点ですが、ご家庭や教育現場など、あらゆる分野でご活用いただき、あなたにとっての「子どもの人権」を考える材料にしてください。


 また、私たちのネットワークへのご参加も大歓迎です。あなたの視点、経験、知恵をぜひとも私たちにお寄せください。


 全国各地でネットワークの輪を広げていきましょう!