労働者派遣法改正「法案要綱(案)」に対する意見 - 派遣切りと雇用破壊の実態をふまえた抜本改正を | すくらむ

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 ※全労連が昨日提出した労働者派遣法改正「法案要綱(案)」に対する意見を紹介します。


                               2010年2月22日
厚生労働大臣 長妻 昭 殿
労働政策審議会 会長 諏訪康雄 殿
同 労働力需給制度部会 部会長 清家 篤 殿
                             全国労働組合総連合
                             議長 大黒作治


    労働者派遣法改正「法案要綱(案)」に対する意見
    派遣切りと雇用破壊の実態をふまえた抜本改正を


 1. 厚生労働省は2月17日、労働政策審議会に対して、労働者派遣法等の一部を改正する法律案要綱(案)を諮問しました。しかし、その内容は、昨年12月の労政審答申の域を出ず、現与党三党の政権合意や昨年の総選挙で民主党が掲げたマニフェストからも大きく後退した内容に止まっています。弱肉強食の構造改革路線をやめ、雇用をまもってほしいという労働者・国民の切実な願いに背を向けるものと言わざるを得ません。法の名称や目的を派遣労働者の「就業条件の整備」から「保護」に変更したわけですから、それにふさわしい改正をおこなうべきです。


 2. 一昨年来の派遣切りと雇用破壊の深刻な実態が物語るものは、「臨時・一時的な業務に限定し、常用雇用の代替としてはならない」という原則が骨抜きにされ、労働者派遣が「いつでも首を切れる安上がりの労働力」として悪用されているということです。労働者派遣契約の中途解除や期間制限違反などの違法が問題になりましたが、派遣法の相次ぐ改悪によって派遣元・派遣先ともに雇用責任があいまいにされ、製造業をはじめとした大企業は現行法さえ遵守せず、利益確保のために派遣労働者を使い捨てにしました。


 今回の改正においては、派遣切り等の実態を正す抜本改正が求められています。政府・厚労省と労政審は、「法案要綱(案)」の内容で派遣切りと雇用破壊を本当に解決することができるのか、今一度真剣な論議をおこなうべきです。この課題は、単に派遣労働者だけの問題ではなく、内閣が強調する「需給サイド」重視の政治に転換できるのか、貧困と格差の解消をすすめることができるのかが問われている問題です。


 3. 私たち全労連は、今回の「法案要綱(案)」について以下の問題点を指摘し、その見直しを強く求めます。


 (1) 第1には、製造業派遣の禁止について、常用型派遣を例外としたこと(要綱案「第二の一」)です。製造業派遣のうち約3分の2が「常用型」であり、これでは「原則禁止」とはとても言えません。しかも、現行法の「常用型」の定義はあいまいであり、厚労省の解釈ではどんなに短期の雇用契約であっても、その繰り返しで1年を超える「見込み」があれば「常用型」とみなされます。これでは雇用を景気の調整弁とする政治は温存され、大きな社会問題となった派遣切りをなくすことはできません。製造業派遣は全面的に禁止すべきです。


 (2) 第2には、登録型派遣の禁止について、①日雇派遣が認められる業務(=日雇労働者(日々又は2月以内の期間を定めて雇用する労働者)を従事させても適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがない業務として政令で定める業務(要綱案「第一の十五(一)」)と、②現行の「26専門業務」など(=その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術若しくは経験を必要とする労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務として政令で定める業務)を例外としたこと(要綱案「第二の三」)です。


 現状でも26専門業務に従事する派遣労働者は約100万人に達しており、しかもその半数は違法な事務系派遣の温床となっている事務用機器操作やファイリング名目で働かされています。労働者派遣は「高度かつ専門的な業務に限定する」という原則に立ちかえり、登録型派遣は禁止すべきです。同時に、常用型派遣については言葉どおり、「期間の定めのない雇用」であることを明確に定義すべきです。


 (3) 第3には、日雇派遣の禁止について、日雇労働者(=日々又は2月以内の期間を定めて雇用する労働者)を従事させても適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがない業務として政令で定める業務を例外としたこと(要綱案「第一の十五(一)」)です。三党案からの明らかな後退であり、日雇派遣についても例外なく禁止すべきです。


 (4) 第4には、違法派遣等の場合の「みなし雇用制度」(=労働契約申込みみなし制度)について、①その適用をⅰ)派遣禁止業務への従事、ⅱ)無許可・無届の派遣元からの受け入れ、ⅲ)期間制限を超えての受け入れ、ⅳ)いわゆる偽装請負、ⅴ)登録型派遣の原則禁止に反した受け入れの5点に限る(=限定列挙)とともに、②「知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りではない」として、故意・過失要件を加えたこと、③「その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働条件の申込みをしたものをみなす」として、短期のみなし雇用を容認したこと、および、④当該派遣労働者を就労させるべき旨の勧告に派遣先企業が従わなかったときに、その旨を公表できることに止めていること(要綱案「第一の十九」)です。


 限定列挙ではなく例示規定に戻して、直接雇用が必ず担保されるようにすべきです。違法派遣等をおこなった経営者は「知らなかった」と言うのが常であり、違法状態が客観的に明らかになれば例外なく、みなし雇用制度を適用する必要があります。雇用責任を回避するため、短期の労働者派遣契約が繰り返されている事例が多い実態を踏まえ、「同一の労働条件」という名目で短期間の直接雇用に止められるのでは、違法のやり得という状況は改まりません。期間制限違反や偽装請負など違法派遣が発覚した場合には、申し込んだとみなすべき労働契約は「期間の定めのない契約」とすべきです。また、勧告に止めず、実効性が担保されるようにすべきです。


 (5) 第5には、均等待遇原則について、「均等」ではなく、「均衡を考慮した待遇」「配慮」に止めていること(要綱案「第一の十)です。これでは「考慮した」と言うことで済まされるのであり、派遣労働者の低賃金構造を是正するには不十分です。均等待遇を明記すべきです。


 (6) 第6には、期間を定めないで雇用される労働者について、①特定を目的とする行為を解禁すること(要綱案「第一の八」)と、②期間制限のない業務について3年を超える期間継続して同一の派遣労働者を受け入れている場合の派遣先企業の労働契約申込み義務を免除していること(要綱案「第一の十八」)です。これらは旧政府案の改悪部分がそのまま残されたものであり、断じて容認できません。


 事前面接など特定目的行為を解禁するということになれば、職安法が禁止する労働者供給事業となんら変わらなくなります。また、労働契約申込み義務の免除は、「臨時・一時的な業務に限定し、常用雇用の代替としてはならない」という大原則を踏みはずすものです。「期間の定めのない労働契約だから、雇用は安定している」との言い訳がなされていますが、一昨年秋以来の事態では契約の途中解除が相次いだのであり、期間の定めのない雇用であろうと労働者派遣の不安定さは変わりません。これら改悪部分はきっぱりと削除すべきです。


 (7) 第7には、三党案にはあった派遣先企業の責任が大きく抜け落ちていることです。派遣先企業が団体交渉に応じないことが、派遣労働者の問題解決の大きな障害になっています。団交応諾義務を明記し、労使交渉において問題を解決できるようにすべきです。また、「育児休業を理由とする不利益取り扱い」や「性別を理由とする差別的取り扱い」の禁止など三党案の内容を盛り込むべきです。


 (8) 第8には、関係派遣先への労働者派遣について、8割まで認めていること(要綱案「第一の四」)です。大企業等は派遣会社をつくって本来は自社で雇うべき労働者をその派遣会社から受け入れることで人件費を削減し、低賃金構造を押しつけています。そうした事態をなくすためには、少なくとも「百分の五十以下」に制限すべきです。


 (9) 第9には、労働者派遣契約の解除にあたって講ずべき措置(要綱案「第一の六」)に関してです。派遣先企業に、新たな就業機会の確保や休業手当の支払いに要する費用の確保等を課すこととされていますが、派遣先企業と派遣元の力関係を考えれば、その実行性には疑問を禁じ得ません。大幅に見直すべきです。


 (10) そして最後に、施行期日について、全体的には公布の日から6ヶ月以内とされているのに、製造業派遣や登録型派遣の原則禁止などについては公布の日から3年ないし5年もの間、その実施を先延ばししていること(要綱案「第五の一」「第二の四」)です。現実に起きている問題を解決するには、速やかに施行すべきです。

                                        以上