内閣府参与の湯浅誠さん「ワンストップ・サービス・デイは一歩前進だが壁は厚い」 | すくらむ

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 一昨日(11/20)は全労連結成20周年記念集会で3つの講演を聞いて、夜は松山大学教授・大内裕和さんと反貧困ネットワーク事務局長・湯浅誠さんとの反貧困対談を聞きました。4つとも面白かったのですが、湯浅さんの内閣府参与としてのビビットな話の要旨を最初に紹介します。(※同年代の大内さんと湯浅さんは東大時代からの知りあいだそうで、大内さんの発案でこの対談が企画され、主催も大内さんを中心とした実行委員会です。by文責ノックオン)


 大内 新政権の内閣府参与になる経緯を聞かせてください。


 湯浅 みなさんもご承知のように、高い失業率、派遣切りなど、いま雇用をめぐって大変な状態にあります。このままだと昨年以上に深刻な事態になると、私たちは指摘してきました。それに対応する各種行政の窓口がバラバラで、制度も複雑で使い勝手が悪い。使い勝手を良くするためには、ひとつの窓口で対応する総合相談窓口を作る必要がある。これは、昨年の「年越し派遣村」のときから私たちは主張していたわけです。


 「年越し派遣村」では、寝る場所があって、食事があって、労働相談と生活相談が受けられて、お医者さんもいてということで、ひととおりのことがそろうという総合相談窓口ができていたわけです。これは「年越し派遣村」で初めてできたものではなくて、野宿者支援、ホームレス支援運動による30年来の取り組みの中で作られたものです。つまり、野宿の人たちには何もないですから、その何もない野宿の人たちの生活を支えるためには、パッケージをそろえなければ支援できないわけです。そういうノウハウを「年越し派遣村」でも使ったわけですね。


 そして、新政権の方から、そうした具体的なノウハウがないから手伝ってくれないかと私に要請があったわけです。要請を受けて10日間ほど反貧困ネットワークで一緒に運動をやってきた人などに相談しました。政権の中に入ることに反対する人もいましたが、自分たちがやらなくちゃいけないと主張していたことを新政権もやりたいと言ってきて、協力してくれと要請してきているのを突っぱねることは難しいというのが結論でした。それで、内閣府の参与として年末対策に関わることになったということです。


 大内 いまの状況や課題を聞かせてください。困難な厚い壁など、たくさん出て来ているのではないですか?


 湯浅 10月26日からスタートしましたが、身分は非常勤の国家公務員ということです。じつは何の権限もありません。アドバイザーですね。権限はないけれど、発言は自由です。誰かに指示ができるという立場ではありません。たとえば、厚生労働省の事務方にこれをやってくださいと私が言っても誰もやってくれません。意見交換して私の意見が厚労省の政務三役にあげられて、政務三役が同意し指示として出すことになったら初めて動くという形になります。そんなポジションです。でも、権限はないのですが肩書きはあるので、自治体の首長などと直接会って年末対策などでの意見交換はできるわけです。自治体の首長と意見交換することなどは、今までできませんでしたから、それは意味があるといえるかも知れません。


 スタートして1カ月経過してのいまの状況は、総合相談窓口の問題でいうと、ワンストップサービスを、11月30日に「ワンストップ・サービス・デイ 」として試行することになりました。今のところ100自治体ぐらいが参加する ということで、従来からすると一歩前進ではあるわけです。私たちは、実効あるワンストップサービスが必要だと主張してきたわけですから一歩前進です。


 ワンストップサービスは、ハローワークに地方自治体の福祉事務所や社会福祉協議会の職員などに来てもらうという形を取ります。いちばんのメインは雇用保険と生活保護の間にある第2のセーフティーネットをひとつの窓口でまとめて対応できるようにするということです。第2のセーフティーネットというのは、訓練・生活支援給付、就職安定資金融資、住宅手当、生活福祉資金、臨時特例つなぎ資金などの制度なのですが、この第2のセーフティーネットがほとんど知られていないという問題があって、これを普及していくことと、この窓口が個々バラバラなのでそれをまとめるということが一つの目的です。


 「ワンストップ・サービス・デイ」 を11月30日に試行するところまでこぎつけたのは一歩前進と言えば一歩前進なのですが、なかなか思い通りにはいっていません。


 私がつくづく今思っていることは、国というのは力がないんだなということです。たとえば、福祉事務所は地方自治体です。福祉事務所の職員に来てもらうには自治体に出してもいいよと言ってもらわないとダメなのです。今回、自治体が出してきた条件は、生活保護を入れるのだったら出さないというわけです。生活保護はただでさえ大変で、実際に窓口はパンクしているわけです。そんな中で、さらに相談を掘り起こすようなことは冗談じゃないというわけです。いくつかの自治体の首長に直接会って話しましたが、私に向かってホームレスが来るならやらないからなとはっきり言った首長もいたぐらいで、自治体の抵抗は私の思った以上に強いです。


 そういう自治体の姿勢に対して、国がこれは大事なことなんだからやらなきゃいけんないんだと言えるのかといったら言えないんですね。あくまで国は自治体にお願いしかできない。結果的に生活保護の申請はハローワークではしないということになってしまいました。とにかく、生活保護申請をやるのだったら協力しないと自治体は主張するので、自治体の協力がゼロよりはいいという判断になりました。


 これはとても深刻な構造的な問題です。この間、雇用はずっと流動化してきています。たとえば、北海道出身の労働者が、地元に仕事がなくて--北海道は求人倍率0.1ですから--それで派遣労働者にならざるを得ない。その結果、最初は三重県で派遣の仕事をして3カ月たったら今度は長野県に行ってくれとなる。それでまた3カ月後には福岡県に行ってくれとなる。こうして全国各地を転々とすることになる派遣労働者が大量に増えています。雇用は地域間でも流動化しているのです。ところが、福祉サービスやセーフティーネットという社会保障は、これは自治体サービスなのです。となると、自治体の側は、サービス提供にあたって住民票要件をはめてきます。自治体は、「うちの自治体の住民じゃないと福祉サービスやセーフティーネットの受け手にはなれない」と言うのです。なぜなら、「その人たちはうちの自治体に地方税を払っていないから福祉サービスを受ける資格がない」と言うわけです。うちの自治体サービスを受けたいんだったら、住民票を設定してから1年とか2年以上たっていないとダメという要件をつくっているのです。結果として、あらゆる自治体サービスからもれる人たちが出てくることになります。これはおそらく派遣労働者をはじめとして100万人単位でこういう状況に置かれている人がいるだろうと思っています。


 こういう状況のときに、うちの自治体でやりますと言ったら大変なことになると自治体は思っています。今年、名古屋市の中村区がそうなったのですけど、実際にまわりの自治体が送り込んでくるわけです。中村区には相談者が大量に集まって、その半分が名古屋市外から来て、4分の1の人は愛知県外から来た。自治体の側はそういうことを考えるわけです。


 こうした問題でなかなか物事が動かなかったのです。Aという自治体に要請すると、最初は基本的にはいいことだと言います。みなさん大事なことだと言います。だけど、うちだけがやると大変なことになるから、まわりのBとCとDの自治体も同時にやってくれるならうちもやりましょうとなるわけです。それで分かりましたと言って今度はB自治体に行くと、今度はまわりのEとFとGの自治体がやるならうちもやりましょうということになって、エンドレスに広がっていくことになったんですね。それでもなんとか、「ワンストップ・サービス・デイ」という1日だけの試行ということで、最終的には個別にあたっていって、今度は逆に、AもやるからB、BもやるからCということで、全政令市でやれることになったのですけど、最後までやると言わない政令市がひとつだけあって、政令市でやらないのはそちらだけですがいいんですかと言っていたら、最後にはやると言ってきました。


 自治体からすれば、自分のところだけやれば負担になるだけだ、損をするだけだという仕組みになっているのですね。逆にいろんな人たちの生活を支えられる自治体の方がなんらかの形で得になるような仕組みをつくらないと、いつまでたっても生活困窮者はやっかいもの扱いされることがやまない社会にならざるをえないということがよく分かりました。逆に言うと、今までずっとそういうところで止まって来たんだなということが、今回よく分かりました。


 この問題は根深い構造的な問題です。残念ながら年内ということになると、きょうも含めて42日しかありません。構造的なものに手を付けるという大がかりなことはとてもじゃないけどできません。そういう中で、たとえば官僚の人たちは、個々の人たちはやる気はあるし、みんな午前2時3時まで働いて本当によく働く人たちだなと感心するのですが、でもやはり構造的な問題があって、そんなことはできませんとそこで引っ込むわけです。ところが私たちの方はそこで引っ込むわけにいきませんので、構造的な問題の中でいろんなことをやるとハレーションも起こるし、反発も起こるし、大変です。でもそれで何もできないと言っているだけだったら、昨年と何にも変わらないことになるわけです。


 ついこの間まで厚労省前で騒いでいた私が、今は厚労省の中で騒いでいる感じになっているわけですが、非常に難しいものを感じています。とりあえず、ワンストップサービスは試行まではやれることになったのですが、じつは12月以降のことは何も決まっていないのです。自治体によっては「とにかく1日だけだからね」と5回ぐらい念押ししてくるところもあって、そういうところを今後どうやって説得していくのか。住宅の確保とか、年末の対策とか含めて話が本格的に進められない状況です。やりたいことの2割ぐらいの感じですね。年末までの間、騒ぎ続けてそれを3割、4割、5割、6割、どこまで持っていけるのか、現場が少しでも良くなることをめざして追求し続けるしかないだろうということです。


 壁というと、たくさんの壁があります。壁だらけですね。貧困問題をなんとか改善しなければいけないという認識が広がってきているという感じを運動を通しては持っていたのですが、政府や行政の中に入ってみると、まったく動いていないと感じました。応急処置的な年末対策ですから、大きな構造上の問題に手をつけることにはもちろんならないわけですが、構造上の問題に手をつけようとすると、国と自治体の費用負担の問題とかにからめとられていきかねない危険があります。どんどん大きな話にからめとられていきかねない。大きな流れ自体は、国の責任でナショナルミニマム、社会保障をきちんと実施するというよりは、地方分権という話の方に流れていますから、結局、大きな構造上の問題を持ち出すと、地方分権の流れにからめとられてしまって、さらにバラバラにされかねない危険を感じています。工夫しなければいけないと感じていますが、政府の中に入ってそんな程度の意見なのって言われるかも知れませんが、やっぱり社会的な運動が大事です。自治体は、住民の理解が得られないからできないというわけです。「自分たちの払ってきた地方税をなんでそんな奴らのために使うんだ」という住民の声があるというのを自治体は理由にしているわけです。そうしたときに、いやそうじゃないという声を大きくする社会的な運動が広がらない限り前へは進めない。結局、社会的な運動が広がらないとダメだということです。


 それで、ワンストップサービスや住宅対策、年末対策に私がかかわっているからあんまり批判しちゃいけないと思ってくれてる人がいるのですが、そうじゃないんですね。改善へ向けた批判をしてもらわないと私もやりづらいのです。これではダメじゃないかという声があがってくると、こういう声があるじゃないか、なんとか改善しなくちゃいけないじゃないかと私も言いやすくなるわけです。


 大内 これまで自公政権により地方自治体はいじめられてきたわけですね。三位一体改革で地方交付税を削減された。地方分権という名で地方の財源を奪われているわけです。


 湯浅 そのことも自治体からワンストップサービスをやらない理由に持ち出されています。


 大内 国は地方に対して、口は出すけど金は出さないという最悪の体制でずっときたわけです。問題は、湯浅さんを入れた民主党政権は、本当は国の責任でナショナルミニマム、社会保障を重視しなければいけないのに、「地域主権国家」をめざすという。「地域主権国家」というのは、地方自治体を主体にして新自由主義改革を実行するという路線です。いま行われている「事業仕分け」も基本的には新自由主義路線です。民主党はもともと新自由主義政党ですが、自公との対抗上のポーズで総選挙には勝ったわけです。だけど、政党としての根幹は変わったわけではありません。民主党の個別政策にある反貧困の課題や福祉の拡充などを本当に実行するためには、本当は国と自治体の社会保障を担う公務員を増やさないといけない。でも、国家公務員を2割削減するという矛盾した政策となっています。


 湯浅 年末対策はその構造上の話までいかないので、矛盾を抱えたまま、いかざるを得ないわけです。


 民主党は2007年の参院選から「国民の生活が第一」と言わざるをえなかった。それで総選挙でも勝ちました。ですから、この「国民の生活が第一」という側面をのばせるのか、それとも今回の「事業仕分け」で福井秀夫氏が事業仕分け人になってしまうような新自由主義の側面がのびていくのか、そこが拮抗点です。私たち運動の側が、「国民の生活が第一」という側面がのびていくように働きかけを続けていくしかありません。


 大内 もともと新自由主義政党である民主党が、私たちの運動の力などもあって、「国民の生活が第一」という個別政策を入れざるを得なかった。ところが、構造的な話に持っていくと、「地域主権国家」というさらなる新自由主義に持っていかれて、さらなる貧困が広がる危険性があります。


 湯浅 ハローワーク職員にしても毎年減らされて、毎年ハローワークのひとつ分が無くなるぐらいの職員が減らされているわけです。ところが雇用情勢は大変で仕事は増えるばかりですから、結局、非正規の職員を増やさざるを得ない。地方自治体もまったく同じで、いわゆる「官製ワーキングプア」が増えていく。この「官製ワーキングプア問題」もやっと最近マスコミでも取り上げられるようになってきました。ですが、「公務員は甘えている」、「既得権益にしがみついてる」という公務員バッシングはまだ非常に激しいものがありますし、キャリア官僚の「天下り問題」なども利用して一般の現場の公務員までたたくという構図も根深い。この問題も、もっと拮抗点を押し上げていかないといけないと思っています。これも社会的な運動で押し上げていかないといけません。


 大内 年金を充実するためには、社会保険庁職員がたくさん必要なのです。貧困を無くすための福祉などの拡充のためには福祉分野の公務員を増やさなければいけないのだけど、非正規の「官製ワーキングプア」が増大していくだけで、逆に貧困問題がさらに広がっていくだけになってしまう。このパターンを繰り返してはいけません。


 湯浅 たとえば、生活保護に携わる職員を増やせということを、私たち反貧困ネットワークは運動の課題にあげて取り組んできました。生活保護行政の水際作戦など、私たちは言いたいことはいくらでもあるのですが、現場の職員と対立していても何も生まれません。生活困窮者のために生活保護を充実させるには職員を増やさなければいけないということで、カウンターの内と外で協力して運動を進めていくということが必要なのです。カウンターの内だけ、公務員だけで人を増やせと言っても結局「自分たちの既得権益のためだけの運動」というふうに見られてしまうので、そうした社会的な運動に発展させていくことが必要です。ですから、生活保護行政だけでなく、いろんな分野での国と自治体の内と外との協力した社会的な運動を広げていく必要があると思っています。