現代版リアル「蟹工船」=『フツーの仕事がしたい』 | すくらむ

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 日曜日(28日)に“現代版リアル「蟹工船」”と評価されているドキュメント映画「フツーの仕事がしたい」 の上映会に行ってきました。NPO法人POSSEの主催で、上映後には、映画監督の土屋トカチさんと作家・雨宮処凛さんのトークも企画されました。


 映画の主人公は、住友系列の下請会社でセメントを輸送する36歳のトラック運転手。2005年3月神奈川県で、住友系列のバラスメント車(セメント輸送トラック)が横転し、運転手は死亡、対向車の乗客2名にもケガを負わせる事故が発生。事故を起こしたトラック運転手は、会社から「有給休暇を取ったら解雇だ」と言われ、事故当日40度の熱がありました。


 そして、同じ仕事をしている映画の主人公は、2005年4月の労働時間が552時間34分に達します。4月は30日だから1カ月の時間は全部で720時間。仕事以外の自分の時間は1日平均5.7時間しかありませんでした。1カ月の間に1度も家に帰れずに働いても月給は30万円。残業代なし、社会保険・雇用保険なし、有給休暇もなしという状況で、さらに会社は、赤字を理由に毎月のように賃下げ。こうした中で、主人公は、労働組合が配布していた1枚のビラに出会います。ビラには、「誰でも一人でも入れるユニオン」と書いてあり、主人公は労働相談に訪れ、組合に加入。会社からは「組合をやめろ」と圧力を受け、組合をやめないなら退職願いを書けと迫られ、拒否すると、会社側は母親の葬儀にまで大挙しておしかけ脅迫し、暴力までふるいます(実際に監督のトカチさんは、蹴られ、空手チョップされ、メガネを壊され、カメラを持っている手にタバコの火をおしつけられるなどしたそうです)。


 主人公は、過労で倒れます。小腸に穴があき、緊急手術を受け、3週間集中治療室で絶対安静の容態になります。


 なんとか回復して、「フツーの仕事がしたい」と、劣悪な労働環境の改善を求めて、団体交渉と様々な取り組みを重ねた結果、残業代も支払われ、保険にも加入でき、自分の時間もきちんとあるという「フツーの仕事」を勝ち取ります。映画の最後に、主人公は会社側の攻撃に屈して「あのまま逃げていたら、労働環境の改善もなかった」と振り返り、働くものが労働組合で頑張っていくことがいかに大切かを語っています。


 上映後のトーク企画で、映画の感想を聞かれた雨宮処凛さんは、「主人公が生きててよかった、という感想が出てきてしまう。労働の現場のドキュメントなのに、なぜ生きるか死ぬかの話にならなくちゃいけないのかと憤慨もしてしまう。セメントを運ぶ仕事がこんなにも過酷な労働で、それは私たちの生活にも密着していることをこの映画は教えてくれるし、社会構造上の問題にも思いを馳せることのできる映画になっている。『フツーの仕事がしたい』『フツーに生きさせろ』というのは10年ぐらい前は願望にはならなかっただろう。それがいま、『フツーの仕事がしたい』『フツーに生きさせろ』というのが願望になってしまうようなひどい時代だといえる。映画のタイトルがいまの状況を象徴している。分断と自己責任論で労働者の連帯がとても難しい状況ではあるが、『フツーに働き』『フツーに生きること』を取り戻すための労働者の尊厳をかけた労働生存組合運動を盛り上げていきたい」と語っていました。


 また、「フツーの仕事」とまったく逆になっている最近の話として、処凛さんは、「日本の派遣会社が日本人の若者を中国に派遣している。それも、中国には日本の最低賃金が適用されないから、中国にあるコールセンターで時給300円ぐらいで働かせている。渡航費などの経費はすべて派遣労働者持ちで、巧妙に『海外で仕事ができる』とか『語学研修ができる』とかの誘い文句で連れていく。実際は週に1時間だけ、中国人がおしゃべりにくる程度というのが語学研修の実態だ」と語っていました。


 最後に著名人から寄せられている映画の感想の一部を紹介します。


 月に552時間という、文字通り殺人的な働かせ方が、どのような仕組みと背景で出てくるのか、こうした組織的な無法にたいして労働者はどう闘えばよいのか、とてもよく分かった。ラストの語り、主人公の顔がすばらしい。本気で怒り闘ってくれたユニオンとともに「闘って生きる」ことへの自信と喜びが、見るものに伝わってきた。ユニオンの力とは何なのかもよくわかる。素晴らしい記録映画だと思う。 後藤道夫さん(都留文科大学教授)


 今の時代、「フツーの仕事がしたい」と誰もが思っているだろう。しかし、どう正せばよいのかわからない。その道筋を、この映画は感動的に、しかも理論的に示している。 木下武男さん(昭和女子大学教授)


 震えるほどの怒りと、それ以上の感動をもらった。映画の中、何度も一緒に怒り、泣き、笑った。フツーに働き、フツーに生きることが困難となってしまった21世紀。それを取り戻すための尊厳をかけた闘いの記録に、ものすごく大きな勇気をもらった。 雨宮処凛さん(作家)


 ※ユニオンチューブに、映画『フツーの仕事がしたい』の予告編がアップされていますので、ぜひご覧ください。目 ★映画『フツーの仕事がしたい』予告編


(byノックオン)