歌舞伎町ダンボールハウスの少女~子どもの現在も未来も奪う貧困 | すくらむ

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 雑誌『DAYS JAPAN』9月号が、雨宮処凛さんの「まだ間に合うのなら 新宿・歌舞伎町 ダンボールハウスの少女」と題したルポと、フォトジャーナリストの権徹さんの写真を掲載しています。


 日本有数の歓楽街、新宿・歌舞伎町の一角にも、夜にはダンボールハウスが密集し、小さな女の子が父親と一緒に住んでいます。誌面では少女の日常をとらえた写真を掲載しながら、処凛さんが貧困、格差社会が子どもにもたらす問題をルポしています。


 全国の製造業の現場で派遣・請負労働者として働き、子連れで職場、住む場所を転々としている人たちがいます。製造業の派遣・請負労働者は100万人にのぼるといわれています。派遣・請負会社は彼らのニーズを読み、「託児所あり」と求人広告を打ちます。ある請負会社直営の託児所の保育料はなんと10日で5万7千円。求人誌には「月収30万以上可能」などという活字が踊りますが、実際は寮費や水光熱費、家具のレンタル料まで引かれて手元に残るのは12、13万ほど。これでは、夫婦でキツい肉体労働に耐えても、その大半は保育料に消えていきます。その上、2カ月、3カ月の細切れ契約で、究極の「景気の調整弁」である彼らは、生産調整によってあっさりと仕事も住む場所も同時に失います。


 シングルマザーに対する行政の支援が、先進国の中で日本は最低。多くのシングルマザーは、フリーターと変わらない賃金で、ダブルワーク、トリプルワークを余儀なくされます。


 「昼と夜の仕事をかけ持ちするあるシングルマザーは、夜の仕事に行く前、子どもに睡眠薬を飲ませてから出かけるという。幼い子どもが夜中に目覚め、『お母さんがいない』とパニックになるのを防ぐためだ」


 雨宮処凛さんは警鐘を鳴らします。


 「格差社会の皺寄せをもっとも露骨に受けるのは子どもだ」「現在、多くのワーキングプアと呼ばれる人たちを取材していても、『親の資産』が大きなポイントだとつくづく感じる」「しかし、『親にお金がない』という理由で高度な教育を断念せざるを得ないというのは『仕方がない』ことなのか? 学費を工面できないことは『自己責任』なのか? 誰一人、生まれてくる親も家庭も選べない。ここに日本の『非常識』がある。例えば、ヨーロッパの多くの国では大学の学費は無料だ。デンマークにいたっては、学費無料どころか、大学生には月8万円の支給まである」「この日本の『非常識』ぶりを、日本人の多くが知らない。大学に行くには当然お金を払うもので、お金がなくて大学に行けないことは可哀想だけど仕方ない、と納得してしまっている」


 また、間接的にも格差社会と自己責任論が、子どもたちに影を落としていると処凛さんは指摘します。


 格差社会の中で、親たちは自分の子どもだけはなんとかして「勝ち組」にねじこみたいと思い、子どもたちは教育現場でも「フリーターになるとこれだけ損」「正社員と非正社員の生涯賃金は何億も違う」などと日々脅迫され、「未来を人質にされた競争は激化し、大人たちからは一人でも多くの人を蹴落とせ、周りは全員敵、ライバルだと刷り込まれる。『競争に勝ち残れる人間しか価値がない』といった身も蓋もない思想は子どもたちに言語化されないままに蔓延し、少しでも人より劣っている者は排除していいという間違った理解のされ方をしてしまう。そうして『弱い者』『空気の読めない者』へのいじめは彼らの間で正当化される」のです。


 キヤノンで派遣労働者として働く20代の男性は、結婚していますが、「派遣のくせに結婚している」と思われるのがイヤで、職場には秘密にしているとのこと。彼の妻のお腹には、赤ちゃんがいます。妻子のためにも正社員になりたいが、今のところ、その回路はありません。


 「キヤノンで働く派遣の男性のまだ生まれていない子どもが、望めば大学に行けて、つきたい仕事につける社会。今のままでは、その子どもは生まれながらにして可能性を奪われていることになるのだ」と処凛さんはルポを結んでいます。
(byノックオン)