「大変です! イサナミさまが、山で火にのみこまれました!」
突然、お宮ぜんたいが凍りつき、ワカ姫さまは、近くにいたソサノヲさまを、とっさに抱きしめました。
「土に栄養をあたえようと、山焼きをされていたようです!」
おつきの者の声がつづけて聞こえてきます。
「ソサノヲ、だいじょうぶですよ。そんな顔をしないで。お姉さまが、そばにいますからね」
「お姉さま」
ソサノヲさまは、心と體がさっと冷たくなるのを感じて、ワカ姫さまにしがみつきました。
「お母さまは、きっと、だいじょうぶです。信じて待ちましょう」
ソサノヲさまは、真っ青な顔でうなずきました。
ところが、ワカ姫さまとソサノヲさまの願いもむなしく、イサナミさまは、亡がらとなってもどってこられました。
イサナギさまが、がっくりと肩を落とされています。
侍女たちのすすり泣きをかき消すように、まだおさないソサノヲさまの泣き声が、お宮にひびきわたります。
「お母さま、やっといっしょに暮らせるようになったのに・・・・・・」
ワカ姫さまはつぶやいて、涙を流されました。
「でも、わたくしまで、悲しみにくれてはいけない。短いあいだでも、お母さまと暮らせたことに感謝して、お母さまに代わって、ソサノヲを育てなければ」
ワカ姫さまは、イサナミさまとカナサキさんご夫妻のお姿を思い浮かべながら、気丈に決意されました。