お山のあちらこちらが、桜色に彩られたある日、ワカ姫さまは、まだおさないソサノヲさまと手をつないで、お散歩にゆかれました。
「もうすぐ、いろいろなお花が咲いて、ソサノヲが生まれた季節がやってきますよ」
「ぼく、お花といっしょに、に生まれてきたの?」
「そうですよ。お宮のなかにいても、かぐわしい香りがただよってくるような、祝福にみちた季節に、ソサノヲは生まれたのです」
それを聞くと、ソサノヲさまはうれしくなり、わ~いといって、かけ出しました。
そして、耕したばかりのふかふかの畑に、ジャーンプ! してしまったのです。
「あらあら、ソサノヲ、そこにはいっては、いけませんよ。みんなが、お野菜を育てる、だいじな場所なのですから」
ワカ姫さまは、土まみれになったソサノヲさまを抱き起こしながら言いました。
すると、こんどは、苗を植えたばかりの田んぼが見えてきました。
お日さまの光がきらきらして、とってもきれい。
ソサノヲさまは、またうれしくなってかけ出すと、こんどは、田んぼにジャッポ~ン! と飛びこみます。
「もう、ソサノヲったら! そこも、お米を育てる大切な場所だから、はいってはいけません!」
ワカ姫さまは、さっきよりも強い口調でしかると、ソサノヲさまの腕を引っ張りあげました。
ずぶぬれになったソサノヲさまは、少し悲しくなって、うわ~んと泣きました。
「もう、ソサノヲったら、自分で田んぼにはいって、泣いてしまうんだから」
ワカ姫さまが、少しあきれたように言いました。
「お姉さま、ごめんなさい」
ソサノヲさまは、もう、ふかふかの畑やきらきらの田んぼを見つけても、飛びこむまいと、心に誓いました。